本人は気づいていないようですが、それは明らかに・・・・
「ここが、俺ん家」
水斗がそう言って立ち止まった家は、どこにでもありそうな極一般的な家で、少々意外だった。
「ふむ、中々狭そうな家だな」
「おい聖夜、そんなこと言うんだったら、俺ん家に行きたいなんて無茶言うなよな!」
「別に僕は、無茶を言った覚えはない。さぁ、入るぞ」
「おい、ここは俺の家だって!」
水斗はなんとかそう言うと、無理矢理扉を開けようとする聖夜を押しのけて鍵を開けた。
「でっ、でも、いいのかな?急に上がりこんじゃったりして・・・・」
「俺に聞かないでくれよ」
「ごっ、ごめん・・・・」
大分、女のドレス姿にも慣れて、いつもの調子を取り戻すことが出来たが、やっぱり、落ち着かないのは事実。出来れば、あのまま聖夜のパーティー会場に置いてくればよかったと思った。でも、今更思っても遅い。
「族長、そんなにキツく当たらないでやって下さいよ」
「別に、俺はいつもどおりだ」
俺がそう答えると、神羅は目を丸くして女の方を見た。その仕草が気に食わなくて、俺は、神羅の足を踏んづける。
「って!?」
「なんだよ?」
「そんなに思い切り踏むなって!指折れるだろうが!ったく、聖夜といい族長といい、暴力はやめてくれよ・・・・」
「なんで、あんな顔したんだよ?」
「いやだってよ、普通、あんなにずっと冷たくされてたら、どんなにかっこよかろうが、諦めるんじゃないかって思うんだけどよ、あの女、相当度胸あるみたいだな」
「知らん」
「族長は幸せだなぁ~あんなに可愛い子が、あんなに冷たくされても好きでいてくれてるんだ。幸せだと思ったほうがいいぞ?」
「お前、水斗と性格が似て来てるぞ」
「げっ・・・・」
水斗と似ていると言われるのは神羅でも嫌だったらしく、肩をすくめると、それ以上この話題について話して来なかった。
「ただいまー!」
「あっ、お帰り、お兄ちゃん!」
子供の声が聞こえたかと思ったら、部屋の中から小学生ぐらいの子供が出て来て、水斗に抱きつく。その光景を見て、俺は、水斗に抱きついた子供は、将来きっと栞奈みたいになるだろうなと思った。
「おっ、来てのか、玲菜」
「うん。クリスマスだから、遊びに来ちゃったの!」
「クリスマスだからって・・・・いっつも来るじゃんかよ!」
「だって私、お兄ちゃんのこと大好きなんだもん!」
俺達は、二人のそんなやりとりを、玄関の前でずっと見ていた。何だか、俺達のことなんか忘れて、すっかり二人きりの世界って感じで、俺は、水斗のことを殴ってやろうかと思ったけれど、それよりも先に行動に移した奴がいた。聖夜だ。
「おい、水斗。そんなところで戯れてないで、さっさと僕らを上がらせろ!」
「っててて、そんなに蹴るなって!わかったよ!!」
「お兄ちゃんを蹴らないで!」
「うるさい!」
聖夜がそう怒鳴った時、今まで怒った顔をしていた玲菜が途端に真顔になって、すぐに困惑顔になった。聖夜はと言うと、その玲菜の顔を見て不思議そうに首を傾げたが、また直ぐに水斗を蹴り始めた。
「ほら、早く案内しろ!」
「わかったって・・・・。じゃあ、とりあえず、こっちに来てくれ」
「お兄ちゃん、ご飯は?」
「ああ、まだ食ってねーや」
「じゃあ、今から持ってくるね!あっ、みんなは?」
「んー、多分」
「じゃあ、みんなの分も持ってくるね!」
玲菜は俺達にお辞儀をした後、そう言いながら家を出て行った。
「・・・・誰だ?」
「今のは、篠崎玲菜。まぁ、幼馴染の妹だな」
「にしては、随分仲がよかったな」
「まぁ、小さい頃から可愛がって来たしな!それよりみんな、夕飯はまだだよな?あの時、ついまだって言ったけど、本当のところはどうかわからなかったし」
「俺は腹減ったな~。ぞ・・・・修は?」
神羅は多分、族長と言いかけたんだろう。しかし、俺の睨みに気づいてか、修と言い直したから、まぁ、よしとしてやろう。
「俺もだな」
「僕もだ」
「わっ、私もそうだけど・・・・いいの?」
「当たり前だろ?」
「あっ、ありがとう・・・・」
水斗に微笑まれて、女が顔を赤らめる。その様子がどうも気に食わなくて、俺は、水斗を思い切り蹴ってやった。
「なっ、何するんだよ!」
「お前が悪い」
「は!?訳わかんないって・・・・」
「とりあえず水斗、あの部屋に連れて行ってくれ」
「ああ。じゃあ・・・・修、悪かったな!」
水斗はなぜか謝ると、聖夜を連れてリビングの奥の部屋へと入って行ってしまった。俺は、首をかしげて神羅の方を見た。すると、神羅も首をかしげた。
「とりあえず、許してやれよ」
「うーん、何だか気に食わないが・・・・まぁ、いいか」
「あの・・・・伊織君?」
「ん?」
「なんか・・・・ごめんね?」
「・・・・は?」
「なんだか、私のせいで伊織君の機嫌を悪くさせちゃったみたいだったから・・・・」
「別に、お前のせいじゃない。瑞人が悪いんだ」
「そっ、そっか・・・・」
女はそう言って笑うと、足元を見てキョロキョロとしだした。俺は最初わからなかったけれど、神羅に、「足が痛いんだよ」と言われ、椅子を出してやった。
「あっ、ありがとう・・・・」
「別に、感謝されるようなことじゃない。こいつが気づいたんだ」
「そうなんだ・・・・ありがとうございます。あっ、そう言えばまだ、お名前をお伺いしてないような・・・・」
「俺は、神羅って言うんだ」
「神羅さんですか・・・・。あっ、えっと、私は・・・・」
神羅が立っているから、自分も立たなくちゃいけないと女は思ったのか、立ち上がろうとするけれど、神羅がそれを遮った。
「族長からあんたの事は聞いてるぜ。だから、大丈夫だ」
「そうだったんですか・・・・でも、どうして私が椅子に座りたいって思ってたことに気づいたんですか?」
「ん?なんかよ、足モジモジさせてたし、それに、随分歩き方もぎこちなかったから、慣れない靴履いてたんだろうなって思ってよ」
「そうなんですか・・・・」
俺は、二人の会話を聞いて、神羅が意外に色んなところを見ていることに驚いた。今まで、ただボーッとしてる奴かと思っていたのだ。
「おい、修、今、大変失礼なことを思ってたよな?」
「別に」
「いや、俺の勘を舐めちゃ困るぜ。仮にも俺は、頭脳・・・・」
そこまで言いかけた神羅の口を塞ぎ、ついでに足も踏みつける。女は、急に俺が神羅の口をふさいだから驚いているみたいだが、とりあえずは首をかしげているだけだ。
「言うなよ」
俺がそう言うと、神羅は大きく首を縦に振った為、神羅を放してやった。
「全く、指が折れるかと思ったぜ」
「大丈夫ですか?神羅さん」
「おう、大丈夫だ!」
「随分痛そうだったけど・・・・いつもそんな風なの?」
「別に、思い切り踏んでない」
「それでも、暴力はダメだよ!」
「・・・・はぁ」
俺はため息をつくと、近くにあった椅子に座って、女に背を向けた。別に、いじけてなんかないからな!ただ、文句言われるのが嫌いなだけなんだ!
俺は、耳を塞ぐと、文句を言って来る女の言葉を無視するように机にうつぶせ、目を瞑った。