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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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人には幸せになって欲しいと言ってますが、自身はどうなんでしょうか?

「あっもしもし、竜君?」

「おう、どうした?」

「亜修羅、見つかった?」


「どうやら、栞奈とのデートをすっぽかして、聖夜の誕生日パーティーに出てたらしいな」


「ええーーっ、それ、酷くない?」

「まあな。でもよ、修の姿を見かけねぇんだよな・・・・」

「それってどう言うこと?」


「俺が行った時には、既にいなくなっちゃった後でな、そのことは、明日夏に聞いたんだ」


「そうなんだ・・・・どこに行ってるか、知ってる?」


「うーん、そこまでは知らないんだとよ。でも、しばらく帰って来なさそうな雰囲気だったって」


「そっか・・・・どうしたらいいのかな?」

「とりあえず、お前が栞奈を救ってやれよ」

「救うって・・・・何?」

「まあまあ、そこはお前に任せるよ。じゃな!」


竜君はそれだけ言うと、勝手に通話を切ってしまった。僕は、どうしていいのかわからなくて、とりあえずは噴水広場に戻って栞奈ちゃんの様子を見ることにした。


噴水広場に向かっている途中、あの恐怖のクマさんに出会って、僕は、一瞬体が固まった。だって、また、あの殺気のこもった目で見られたらどうしようかと思ったんだ。


僕は、黙って後ろを向くと、クマさんのいる道を通らないように走り出した・・・・けど、急に誰かに肩を摑まれて、僕は、ビクッと驚いてしまった。この殺気は、あのクマさんしかないと思ってるから・・・・。


僕は、怖いと思いながらも、ゆっくり、本当にゆっくり後ろを振り返った。そこには、僕が姿を捉えて逃げ出そうとしたクマさんがいた。


「あっ、あの・・・・こんばんは」

「・・・・」

「なっ、何か御用でしょうか・・・・?」


僕がそう言うと、クマさんは無言で僕の腕を摑み、裏路地まで連れて来られてしまった。僕は、どうしていいのかわからず、とりあえずは思い切り警戒しておく。


すると、クマさんが頭を・・・・。僕は、ここで目を瞑った。ここから先の言葉は、子供達の夢を壊してしまうようで言いたくなかったんだ。・・・・うん、言い訳だって自分でもわかってるけど、とにかく僕は、目を明けるのが怖かったんだ・・・・。


「おい」

「・・・・」

「大丈夫か?」

「・・・・え?」


僕は、自分に声をかけて来た人物の声に聞き覚えがあることを思い出し、必死に思い出そうとする。でも、あんまりその人と仲がよくないのか、中々思い出せない。でも、一つだけわかることは、危険な人ではないと言うことだ。だから僕は、勇気を振り絞って、目を明けることにした。


「あっ・・・・恭介君?」

「ああ。どうして目なんか瞑ってたんだ?」


そう不思議そうに聞いて来る恭介君は全く殺気立っていなくて、逆に、汗を沢山掻いていて辛そうだ。そんな顔を見て、僕は、自然と自分のしてたことが恥ずかしくなって、ため息をついた。


「ん?」


「きっ、気にしないでよ。それにしても、クリスマスに着ぐるみなんか着て一体どうしたのさ?」


「仕事だ、仕事。さっきも、お前に話しかけられたから話し返そうとしたけど、着ぐるみを着てる間はしゃべるなって言われてるから悩んでたら、お前はどこかに走って行ってしまうし・・・・一体どうしたって言うんだ?」


「ああ、気にしないでよ。あの時は、トイレの場所を聞きたかったんだ。」

「そうか・・・・。それなら仕方ないな」


恭介君はそう言うと、ため息をついて壁に寄りかかった。僕は、着ぐるみを着た事がないからわからないけど、恭介君の様子を見てると、凄く暑くて大変なんだろうなって事はわかる。


「着ぐるみの中って、やっぱり凄く暑い?」


「まあな。着てるだけでも暑いのに、動き回ったら、適度に水分補給しないとぶっ倒れるほどだ」


「そっか・・・・。クリスマスなのに、弟達と過ごさなくてもいいの?」


僕がそう聞くと、恭介君は重いため息をついて僕の方を向いた。


「俺だって、クリスマスだって言うのに、好きで着ぐるみを着てる訳じゃないんだ。本当は、あいつらと一緒にクリスマスを過ごしたい。でも、こうしないと、生活出来ないんだ」


「・・・・ごっ、ごめん。無神経にそんなこと言って・・・・」

「いや、気にしなくていい」


恭介君はそう言うと、着ぐるみの頭を被り、手を上げた。多分、バイバイって意味なんだろう。でも、僕は、恭介君を引きとめた。


「あのさ、恭介君。その仕事、後何時間残ってるの?」

「・・・・」

「えっと・・・・」


僕が戸惑っていると、恭介君はクマさんの頭を取って答えた。・・・・今考えたんだけど、着ぐるみを来てるんだったら、しゃべっても、声が聞こえないかもしれないよね・・・・。


「後、四時間ぐらいか?」

「それじゃあ・・・・クリスマスの日付は過ぎちゃう?」


「まあな・・・・。でも、あいつらだってそれはわかってるから、文句は言わないだろ?」


そう言う恭介君の顔は、今までの印象を全て覆すものだった。よく考えてみれば、人のことを気にして、自分を抑えるような人が優しくないはずないんだ。でも、僕は、そんな風には考えられなかったんだ。だから、そう言った恭介君の顔が悲しそうだったことにちょっとだけ驚いたんだ。


そして僕は、その表情を見た時、無意識に口が動いていた。


「僕が、恭介君の代わりになろうか?」


僕の発言を、恭介君は予想してなかったんだろう。凄く驚いた顔をした後、直ぐにまた、悲しそうな顔をした。


「その気持ちはありがたい。でも、それは許されない」


「でも、恭介君だって、あの子達とクリスマスを過ごしたいんでしょ?それなら、ちょっとぐらい僕が代わりをやってたってバレないよ!どうせ、しゃべらないんだしさ!!」


「・・・・」


「やっぱり、わかってくれるとは言え、寂しくない訳ないからさ、僕が代わりに仕事をやってるから、恭介君は弟達に会いに行って来なよ・・・・」


「しかし・・・・」

「ね!お願い!恭介君達に幸せになって欲しいのさ、僕は!」

「・・・・じゃあ、一時間だけ、頼んでもいいか?」


そう問うて来る恭介君に、僕は大きくうなずいた。さっきの言葉・・・・それは、竜君の言っていた言葉。僕は、その言葉に賛成だった。だから、これからは、その言葉に添えるように生きたいなって思ったんだ。


僕は、恭介君から渡された着ぐるみを着ると、頭を被ってみる。そして、直ぐに頭を取った。


「どうした?」

「えっ、あっはははは!なんでもないよ!」

「そうか・・・・。内容は簡単。この看板を持って、噴水公園周辺をうろつくだけだ」


「うん、わかった」

「それから、話しかけられても、絶対にしゃべるなよ」

「うん、了解!」


「後、水分補給はこまめにな。でなきゃ、脱水症状で倒れる」

「うん、わかってるって!」

「それじゃあ・・・・頼んだぞ」


恭介君はやっと安心したようで、凄い速さで走って行った。もしかしたら、僕が思っている以上に、恭介君は、弟達とクリスマスを過ごしたかったのかもしれない。


そう思うと、尚更、仕事の代わりを引き受けてよかったなとは思うけど、問題は・・・・。


「においだよね・・・・」


僕は、もう一度クマさんの頭を被って、直ぐに外す。クマさんの頭を被ると、物凄く色んなにおいが混じって、鼻が曲がりそうになる。多分これは、恭介君の汗だけじゃなくて、代々、この着ぐるみを着て来た人の汗が染みこんでるんだろうな・・・・。


そう思うとこのにおいも納得出来て、僕は思わず怖気づきそうになったけど、意を決してクマさんの頭を被る。


その途端、もの凄いにおいが僕の鼻を攻撃する。ここで僕は初めて、人間よりも鼻がいいことを呪った。きっと、人間の嗅覚だったら、このにおいもある程度は我慢出来るぐらいなんだろうな・・・・。


自然と弱気になる自分に首を振ると、近くにあった自販機でジュースを買って、深呼吸。


「よしっ!」


僕は、自分の心を奮い立たせるようにそう言うと、クマさんの頭を被って、表通りへと歩き出した。


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