中々頑張る子です
「どこにいる?」
「うーん、あそこ辺りにいるんじゃない?」
「勘か?」
「まあね」
相変わらず勘を頼りにしている水斗にため息をつきながらも、水斗が差した方向に歩いて行く。すると、面白い事に、聖夜達を見つけることが出来た。
「ほら、僕の勘は当たるだろ?」
「まぁ・・・・な」
「信じたくなくても、事実だからね」
「わかったって」
「よし、来たな」
聖夜はそう満足そうにうなずくと、女の方を向き、こそこそと何かを耳打ちしている。
「お前、今までどこに行ってたんだよ?」
「すまねぇ、族長。ちょっと、凛に言われたことを考えてたんだ」
「凛に言われたこと?」
「まぁ・・・・言われたんだ。でも、もう大丈夫だ!」
「は?」
俺は、なんだかよくわからなくて、首をかしげるばかりだったが、もう大丈夫だと言っている訳だし、別にいいかと思うようにする。
「まぁ、そう言うなら、別にいいか」
「そうそう。それより、これから何をするんですかい?こいつ、全然教えてくれなくてよ、族長にしか懐かなねぇんだもん」
「これから俺達は、盗まれた宝石を取り返しに行く」
「なるほどな・・・・で、その隣にいるのは誰だ?」
「ああ、こいつは・・・・」
俺が、変人怪盗と言おうとするのがわかったのか、俺の言葉を遮るように水斗が自己紹介を始めた。
「俺は、有澤瑞人。お前の族長さんのクラスメートだ。よろしく!」
「おう、よろしく!」
神羅と水斗は互いに握手をした後、何だか楽しそうに雑談を始めた。どうやら、二人は気が合うらしい。神羅は凛とも気が合うんだ。凛に似ている水斗とも気が合うんだろうな・・・・。
俺がそんなことを思いながら立っていると、後ろから肩を叩かれた。誰かと思って振り返ってみると、俺に時間を教えてくれた奴だった。
「聖夜なら見つかったぞ、あそこにいる」
「そうですか・・・・それはよかったです。聖夜様にもしものことがあったら、我々は、生きていられませんから・・・・それなら早速、パーティーの挨拶を・・・・」
そいつはそう言うと、聖夜の方に歩いて行こうとした為、俺は、そいつの腕を摑んで引き止める。
「それはダメだ。俺達はこれから、出かけなくちゃいけない。だから、挨拶なんかしてる暇はない」
「しかし、それでは・・・・」
そいつがそう言った時、俺達の会話が聞こえていたのか、聖夜はこっちにやって来ると、ため息をついた。
「僕は、挨拶なんかくだらないことをしない。僕は忙しいんだ。行くぞ!」
「あっ、お待ち下さい、聖夜様!」
聖夜は神羅の腕を。俺は、水斗の腕を引っ張って走り出した。追いかけて来ないかもしれないけれど、うるさくああだこうだと言われるのすら嫌なのだ。
「やっぱり似てるな」
「ん?」
「僕の気持ちがわかってたみたいだなって思った」
「別に、お前の気持ちがわかったからじゃない。俺も、うるさく言われるのが嫌いなだけだ」
「そんなこと言いながらよ、走り出すタイミング、まったく一緒だったぜ?」
「そうそう。凄いくらいにな」
「うるさい!」
俺は、水斗の足を踏みつけてやると、何とか会場の外に出た。
「全く、人が多いんだあそこは。お前、あんなに知り合いがいるんだな」
「僕の知り合いは、友美と修だけだ」
「じゃあ、他の奴等は?」
「あいつらは、機嫌をとりに来ただけだ」
「機嫌?」
俺がそう問いかけた時、後ろにあった扉が突然開き、扉の近くにいた俺は、扉に弾かれてバランスを崩し、床に倒れ込む。
「あっ、あの・・・・ごめんなさい!」
「・・・・」
俺は、声を聞くだけで誰なのかわかった。だから、ため息をつきながら立ち上がった。
「なんだ?」
「あっ、伊織君だったんだ・・・・ごめんね、突き飛ばした形になっちゃって・・・・」
「別にいい。で、何の用だ?」
「聖夜君から聞いたんだけどね、これから、あの堕天使から宝石を取り返しに行くんでしょ?もしよかったら、私も連れて行って欲しいの!」
「は?」
予想もしなかった申し出に、俺達は一斉にそんな声を漏らした。ただ一人を除いては・・・・。
「うん、それもいいかもしれない」
「は?」
「いや・・・・な、実は僕、頼まれてたんだ。宝石を守るようにな」
「ん?話が全く読めないぞ・・・・一体どう言うことだよ?」
「宝石を守るように頼まれていたから、僕は、誕生日パーティーをここでやりたいと言った。そして、あえて盗ませて、エンジェルのアジトを知る為に、発信機までつけておいた」
「それ・・・・誰から守るつもりだったんだよ?」
「怪盗エンジェルからな。だけど、堕天使に盗まれたんだ。まぁ、僕が言いたいのはこう言うことだ。盗まれた宝石には発信機をつけてある。だから、そんなに焦ることもないだろう」
「さっきは理由がないみたいなことを言ってたじゃないか」
「じゃあ、逆に聞くが、僕が理由を言ったところで、お前は宝石を捜すことを手伝ってくれたか?」
「・・・・」
「だから、僕は言わなかった。言っても無駄だってわかってたから」
「・・・・だからって、この女を連れて行くのか?」
俺がそう聞くと、聖夜は顔をしかめ、女の方を向くと、小声で何かを言っている。神羅は、聖夜が俺に懐いていると言っているが、こうやって見るに、俺なんかよりも、女の方によっぽど懐いていると思うけどな・・・・。
「とりあえず、パソコン上じゃ見えにくいから、水斗の家に行こう」
「えっ?水斗って?」
「ああ、俺ん家!じゃ、行こうぜ!」
「えっ、あの・・・・私は?」
「来るんだろ?」
「うっ、うん!」
元気にうなずく女を見て、俺はため息が出たが、仕方ないと思い、聖夜達の後をついて行った。