単純な理由と言うよりも・・・・。
「本当に、この先に聖夜がいるのか?」
「・・・・多分」
「おい、さっきまでの自信はどこに行ったんだ?」
「いやぁ・・・・君の蹴りの威力を考えたら、あまり怒らせない方がいいかなと思いまして・・・・」
「そうだな」
俺がそう言った時、急にケータイが鳴り出して、俺達は変な声をあげてしまった。どうしてかと言うと、俺達のいる地下は耳がキーンとするほど静まり返っていて、急に鳴り出したケータイの音が大きく聞こえたのだ。
「なんだ・・・・君のケータイか。びっくりして、天井に頭ぶつけるかと思ったよ!」
「そんなあほみたいなこと言うな・・・・」
俺は、後ろを振り返って言葉を呑んだ。なぜなら、水斗は本当に宙を浮いていて、それが天井ギリギリだったのだ。
「いやぁ~、怪盗の時の癖なのかわからないけど、驚いちゃうとどうも力を使っちゃって・・・・」
「とりあえず下りて来い。このままじゃ話しづらい」
「・・・・で?相手は誰なの?」
「桜木だ。とりあえず黙っとけよ」
「へいへい、恋人と間違われちゃったら大変ですからね」
水斗は皮肉交じりにそう言うと、両手を挙げて俺から離れて行った。俺は、その背中を思い切り睨んでやると、電話に出た。
「もしもし?」
《僕だ》
「・・・・聖夜か?」
《そうだ。今どこにいるんだ?》
「それはこっちの台詞だろ?俺達は、お前を探して地下に来てるんだぞ!」
《そうだったのか・・・・僕達は今、パーティー会場にいる》
「達・・・・って言うと、他に誰かいるのか?」
《神羅と桜木、それと、友美が傍にいる。僕を助けてくれたのは神羅だ。僕は、お前が助けてくれると思ってたからそのつもりで話しかけたのに・・・・騙された気分だぞ!》
俺は別に悪くないはずなのに急に怒られて、何だか嫌な気分になるけれど、とりあえずは謝る事にする。
「とっ、とりあえず、悪かった・・・・。でも、俺だって俺なりに頑張ったんだ。それで勘弁してくれないか?」
《・・・・別に、僕は怒ってない。ただ、少し残念だっただけだ》
「なんでがっかりするんだよ?」
《・・・・まぁ、それは別にいいんだ。それで、本題に入るんだけど、地下室にある宝石・・・・》
そう聖夜が言いかけた時、突然奥の方から水斗の大声が聞こえて来て、思わず俺は怒鳴り返してやった。
「どうしたんだよ!」
「やっぱり、その通りだよ・・・・」
「は!?」
《おい、修。何があったんだ?》
「わからない・・・・」
「とりあえず来てみなよ!」
《まぁ、僕が言いたいことと一緒だと思うから、見に行った方が早いかもしれない》
「・・・・ああ」
俺はため息をつきながら、仕方なく水斗の声の聞こえた方向に行くと、何だか不思議な空間に出た。
そこは、今までの場所とは打って変わって綺麗だった。今まで通って来た場所は、明かりが少しもなくて、足元に色んなものが乱雑に置かれていたのだ。
しかしこの場所は綺麗に掃除されていて、電気もついている。それだけなら不思議に思わない。不思議に思ったのは、その部屋に飾ってある多くの絵や宝石のことだ。
「この絵・・・・名前までは覚えてないが、確か、有名な絵だよな?」
「そうそう。僕も名前を忘れたけど、確か、モなんとかって言う名前の有名な絵だよ」
「それに、この宝石の数々・・・・まるで、何かのコレクションみたいだな」
俺がそう言うと、水斗がクルリと俺の方を向き、満足そうにうなずいた。何だかその仕草がムカついた為、俺は水斗から顔を背け、ケータイの向こう側にいる聖夜に話しかける。
「おい、ここはどこなんだ?なんだか変な場所に出たぞ?」
《うん・・・・そこまでは僕もわからない。多分、このホテルのオーナーのコレクションを置いておく場所かなんかじゃないのか?》
「そうなのか?」
「ツンデレ君ツンデレ君、こっちおいで。ほら」
「うるさい!」
俺は、うるさく話しかけて来る水斗を蹴ると、仕方ないからそっちの方に向かう。すると、そこには一枚の紙が置いてあった。
「実は、ここに、僕の狙ってた宝石が置いてあったんだけど・・・・まんまと堕天使に盗られたみたいだね」
「どっちみち怪盗に盗られるんだから、大して変わらないだろ?」
「いやいや、言っただろう?僕は天使だって」
《おい、修。近くにいる馬鹿は誰なんだ?》
「水斗だ・・・・って言っても、知らないか。全身白づくめの変人怪盗だ」
《・・・・ああ、あいつか。あいつが傍にいるのか!それなら心強い。是非、奪われた宝石を取り返して欲しい!》
「・・・・なんだって?」
俺は、つい聞き返してしまった。まずは、水斗のことを聖夜が心強いと言ったこと。それから、宝石を奪い返して欲しいと言ったことだ。
《その言葉のとおりだ。取り返すことに大した意味はないけど、やっぱり、取り返したほうがいいだろ?》
「いや、そうだが・・・・なにも理由がなくてそう言われても、思い切り困るんだが・・・・」
「理由はちゃんとあるよ」
「おいお前な、俺が聖夜と電話で話してるんだから、途中で話しかけてくるな!」
「いやいや、大事なことだから、早めに言っておこうと思ってさ。さっきツンデレ君は理由がなければ・・・・って言ってたけど、ちゃんと理由はあるんだ」
「なんだよ、理由って・・・・」
「ここに展示されている宝石や絵画は全てニセモノ。だけど、凄く巧妙に作られていて、多分、プロの鑑定士でも見分けるのは難しいぐらい。だから堕天使はニセモノだと知らずに、盗った宝石を売ると思う。そうしたら、騙される人が増えるだろう?それを阻止する為にも、僕らが堕天使から宝石を取り返さなくちゃ!」
「・・・・大した理由じゃないな」
俺がそう言うと、水斗は不機嫌そうな顔をした後に重いため息をつく。
「君は、随分と冷たい人みたいだね」
「騙される奴が悪いんだ」
「でもさ、堕天使がここの宝石を盗んだのには訳があると思うんだ。そして、その理由って言うのは、きっと、僕なんだろうね」
「尚更俺とは関係ないじゃないか!」
「まあね。でも、ここまで一緒にやって来たんだからさ、奪い返すのも一緒にやろうよ!」
そう言って馴れ馴れしく肩を叩いて来る水斗の手を払い、聖夜に話しかける。
「聖夜、お前も理由がないのか?」
《まぁ・・・・あることはあるが、半ばどうでもいい感じだ。でもまぁ、取り返した方がいいだろうからな。僕も宝石を探し出すことは手伝う。それで勘弁してくれないか?》
「・・・・後三十分以内でみつかると思うか?」
《時間の猶予なんて、始めからないんだぞ。ああ言ったのは、お前達を馬鹿にしてたからだ》
そう言われて、俺は思わず黙り込む。聖夜の言った言葉・・・・時間の猶予なんて始めからない・・・・。その言葉が信じられなかった。
「嘘だろ?」
《嘘じゃない。十時までと言っていたのは、その時間以内に見つけられなかったらお前たちは大馬鹿者だと言う見下した考えで書いたもので、元々、時間の制限なんてなかったんだ。堕天使は、僕を閉じ込めた後早々に出て行ったからな》
「・・・・騙されてたって訳か」
《ああ。そうだ》
聖夜にそう言われて、俺は、何だかやり場のない怒りを覚えた。どうしてだか自分でもよくわからないが、無償に堕天使を殴り飛ばしたい衝動にかられた。
「・・・・わかった。堕天使を探そう」
《そうか!》
「君ならそう言ってくれると思ってたよ!」
「ただ、俺がそいつを探す理由は、堕天使を殴り飛ばすってことだけだけどな」
俺がそう言うと、水斗は苦笑いを浮かべ、聖夜はため息をついた。単純な理由って思われたかもしれない。だが、俺はそれでいい。単純な理由でも、理由にはなるんだ。
「まぁ、理由はどうであれ、探すことに協力してくれるんだもんね」
「そう言うことだ」
《じゃあ、とりあえず、パーティー会場に来てくれ。僕はそこにいるから》
「ああ、わかった」
俺はうなずくと、水斗のマントを引っ張って二十階に行くことにした。