繊細な子供心です
聖夜の言っていた扉の中に入ると、そこには着飾った奴が沢山いて、パーティーの真っ最中だと言うことだけはわかった。
「ここ・・・・どこだ?」
「多分ここは、僕の誕生日パーティーの会場だと思う」
「おお!族長も、お前の誕生日パーティーに出席するって言ってたからな。多分ここにいるんだろうな」
「・・・・どうだろうな。修のことだから、きっと周りに迷惑をかけないように単独で僕を探している予感がするぞ」
「ってことはなんだ?ここにはいないってことか?」
俺がそう聞くと、聖夜はしばらくの間黙り込み、俺のことを見上げて言った。
「僕に聞くな」
「・・・・はぁ」
「とにかく、僕は早く修を見つけなくちゃいけないんだ!どうしてここにいないんだ!」
「知らないぜ!俺に言うなって」
「だって、お前がここにいるって言ったじゃないか」
「この部屋にいるって言ったのはお前だよ!」
「さて・・・・なんのことだか」
聖夜はそうやってしらばっくれて、そっぽを向いている。こいつ・・・・もう、大人の余裕とか言ってられるか!
俺は、ついに我慢の限界に達して、そっぽを向いている聖夜を叩いた。それに聖夜は怒ったのか、俺の頭を叩こうとするけど、身長差は三十センチ以上ある。当然届かなくて、聖夜は必死にジャンプをしている。
そのあまりの必死ぶりに、俺は、今までの怒りが全て吹っ飛んで、逆に面白くなって来た。そして、初めてこいつに勝ったと思った。
「なっ、なんだよ!」
「べっつに~。あまりにも必死で面白かったからな!」
「べっ、別に、必死なんかじゃない・・・・」
「何言ってんだよ、さっきは、俺の頭叩くことに必死だったくせによ」
俺がそう言うと、聖夜は急に口を尖らせてそっぽを向いた。なんだかよくわからないけれど、機嫌を悪くしてしまったようだ。
「そんなに機嫌悪くするなよ」
「別に機嫌悪くしてないし、背が高いことが羨ましいなんて、これっぽっちも、かけらも思ってないからな!」
聖夜はそう怒鳴った後にはっと我に返ったようで、慌てて口を塞ぐと、顔を赤くしながら後ろを向いた。なるほどな・・・・こいつの機嫌が悪かったのは、身長のことを気にしてたからなのか。
「なるほどなぁ~、確かにお前、小さいもんな!」
「僕は小さくないぞ!クラスでも大きい方なんだ!お前がでかいだけだ!」
「ふーん、そんなにでっかくなりたいのか・・・・」
俺がそう言ってちらりと聖夜の方を向くと、聖夜は俺に背を向けているが、チラチラと俺のことを見てる様子から、肯定しているんだと勝手に考える。
「よーし、肩車してやろう!」
「はっ!?ちょっ、待て!」
俺は、慌てて逃げようとする聖夜を捕まえると、肩の上に座らせた。
「どうだ?視線が高いだろ?」
「・・・・まっ、まあな」
「で、どうよ?」
「・・・・何がだよ」
「まぁいいや。ここに族長いないみたいだし、出るか」
俺がそう言って聖夜を下ろそうとすると、聖夜が俺の頭を叩いてきた。
「なんだよ?」
「このままでいい」
「結局気に入ってるじゃんかよ」
「そんなことはない。僕は疲れたんだよ。だから、こうやって座っていたいんだ」
「・・・・ふーん」
「信じてないようだな!」
「いやいや、信じてますとも、聖夜坊ちゃまはお疲れなんですね~」
「・・・・坊ちゃまと言う言い方はムカつくが、とりあえず今はいいだろう。納得してくれるだけでいい」
段々とこいつの性格がわかって来て、なんだか楽しくなって来た。最初は、単なる生意気な子供かと思っていたが、そうじゃないらしい。
「なっ、なんだよ、その顔は?変な奴だな」
「とりあえず、お前は誘拐されてるって思われてるんだろ?だから、心配かけない為にも、誰かに話しかけようぜ」
俺がそう言って歩き出した時、突然、聖夜がどこかを指差した。
「おい、あそこに知り合いの奴がいるぞ!」
「ん?」
聖夜の指差す方向を見てみると、明日夏と、族長のクラスメートがいることに気づいた。もしかしたら、二人なら何か知ってるかもしれないと思って、そっちの方に歩いて行く。
すると、突然聖夜が頭を叩いて来た。それには思わずムカついた。だって、言葉で言えばいいのだ。それなのに、わざわざ頭を叩いてくるのだ。おかしいだろう。
「おい、一々叩くなよ」
「そんなことはどうでもいい。それよりも、早く僕を下ろせ!」
「はぁ?なんで急にそんなこと言うんだよ?」
俺がそう聞くと、聖夜は顔を赤くした後、「そんなことはどうでもいいんだ!早く下ろせ!」と怒鳴った。
何だかよくわからなくなって、俺が聖夜を下ろしてやると、ようやく満足したようで、ため息をついた。
「おいおい、ため息をつくのはこっちだぜ?」
「さぁ、話しかけよう!」
「無視すんなって・・・・」
俺はさっき、こいつのことが少しわかったみたいなことを言っていたと思うが、それはどうやら勘違いだったようだ。でも、それは仕方ないことだと思う。だってあいつ、凄くめんどくさいんだ。絶対誰にもわからないと思う。
そんなことをブツブツ言いながら、さっさと歩いて行ってしまう聖夜の後を追う。
「友美!」
「あれ?聖夜君、どうしてここにいるの?」
「そんなことはいいんだ!それよりも、修はどこにいるのか知ってるか?」
「えっ、伊織君?」
族長のクラスメートはそこで言葉を切った後、明日夏に目を向けた。その仕草を見て、明日夏なら何か知ってるのかもしれないと思い、話しかけてみる。
「お前は何か知ってるのか?」
「えっと、僕は何も知らないんですけど・・・・それよりも、神羅さんが聖夜君を連れてたんですね、とりあえず、無事でよかったです」
「うん、そうだ。それでだ。修はどこにいるんだ?」
「えっとそれは・・・・さっきもお答えしたように、僕は何も知らないんですけど・・・・」
明日夏がそう言うと、聖夜は不機嫌な顔になって、明日夏の足を思い切り踏んづけた。それが痛かったのか、明日夏がしゃがみこむ。
「そう言う風な言葉を遣うな。僕は、普通にしゃべってもらいたいんだ!」
「そっ、そうですか・・・・じゃない。そうなんだ。うん、ごめんね。お願いだから、もう足は踏まないでね」
「うん。わかった。それじゃあ、僕らは修を探してくる」
聖夜がそう言って二人に背を向けると、族長のクラスメートが聖夜を呼び止める。
「待って!伊織君達は、聖夜君を探してるんだよ?だから、これから電話するからさ、ここにいた方がいいんじゃない?」
「・・・・電話をかけてくれることには賛成する」
「そっか・・・・だけど、私は伊織君の番号知らないから・・・・」
「じゃあ、僕がかけますね」
「修が出たら、僕に代わってくれ」
「わかりました」
その言葉に、聖夜は眉をひそめたけれど、もう一回明日夏の足を踏む事はなかった。それにほっとしながら、明日夏が電話をかける。そして、言われたとおり、聖夜にケータイを渡した。