素直にやめておけばよかったものを・・・・
「やっと帰って来たな、遅かったじゃないか」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだぜ!それよりも、早く行こう!」
「はぁ?急に何を言い出すんだ?」
「とりあえず、ここから出よう」
急に真面目な顔になった水斗のことを不思議に思いながらも、腕が取れるぐらい思い切り引っ張る為、嫌々ついて行く。
会場の外に出ると、水斗は怪盗の姿に戻り、ため息をついた。
「おい、何がわかったのか詳しく聞かせろよ!」
「うーん、とりあえず、地下室へ向かおうか」
「なんでだよ?聖夜はどうするんだよ?」
「聖夜君は、地下室にある一室に閉じ込められてるはずだよ」
「なっ、なんでわかるんだよ?」
「うーん、勘かな?」
「・・・・そんなの、信じられる訳ないだろ」
「うん、きっと間違いない。だから、早く行こう!」
「あっ、おい!」
俺は、全く訳がわからないのだが、俺が何度言葉をかけたって立ち止まる気配がない為、仕方なくついて行く。いくら勘の鋭い俺だって、ここまで自分の勘を信じることはない。と言うか、なんでこいつ、なんの確証もないのに地下室に向かおうとしてるんだよ!
「おい、お前な、理由もないのに勘だけを頼りにするのはやめろ!ただでさえ時間がないんだ。無駄な時間を俺は過ごしたくない。それとも、ちゃんとした理由があるのか?それなら、お前の勘とやらを信じてやってもいいが・・・・」
「ちゃんとした理由って言うのはわからない。でも、なぜか全部が見えた。だから、そう言ってるんだよ」
水斗は、そんな意味不明な言葉を話しながらエレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押した。
「おい、そこは一階だぞ?それに、地下なんて書いてないんだから、存在しないんじゃないのか!」
「ちょっと静かにしてよ。大丈夫。何も言わずについてきなよ」
「・・・・はぁ」
俺は、ため息をつきながら水斗の顔を見る。その顔は自信に満ち溢れていて、違うかもしれない・・・・と言う不安のかけらも見当たらない。理由もないのに、どこからその自信が湧くのかわからないけれど、ここまで言うなら、こいつに従ってみようかと思う。
「わかった。そこまで言うなら、お前のことを信じてみようと思う。ただ・・・・もし、時間以内に堕天使を見つけられなかった場合・・・・わかってるよな?」
「わっ、わかってるさ。絶対見つかるから」
「ならいい」
「・・・・・ふぅ」
エレベーターが一階に着き、俺達はロビーに出る。そこには、人が一人もいなくて、おかしいなと思った。普通なら、受付のところに一人は人がいるはずなのに、今は、全く人の気配を感じさせない。電気はついているから、人だけが消えてしまったようだ。
「おい、なんで誰もいないんだ?俺が最初にここを通った時は、人がいたぞ?」
「うーん、そこまでは僕にもわからないかも。でもまぁ、いいんじゃない?聖夜君のことを探すことが先でしょ?」
「・・・・まぁ」
「それじゃあ、こっちに来てよ」
そう言って水斗が促すのは警備室で、勝手に入っていいものかと俺が悩んでいると、水斗は肩をすくめて入って行ってしまう為、不満に思いながらも警備室の中に入る。
中では、数人の警備員達が、手と足を縄で縛られ、口にはガムテープを張られた状態で床に転がっていた。
「おい、こいつら・・・・」
「堕天使のしわざだよ。他の人達も、きっとどこかに閉じ込められてるんだと思う」
「気絶してるのか?」
「そうだね。それじゃあ、地下に行こうか」
水斗はそう言うと、気絶している警備員の腕を引っ張って動かした。すると、今まで警備員が倒れていた場所に、地下に通じる穴らしきものを見つけた。
「全く、仕事が粗いんだからさ」
水斗はブツブツと文句を言いながら、その穴の中に入った。そのしぐさが全くと言っていいほど躊躇いがなかった為、俺は思わず感心した。
穴の向こう側は暗くて何も見えない。だから、下に何があるのかわからないし、穴がどれくらい深いものなのかもわからない。それなのに、躊躇わずに飛び降りたのだ。度胸はあるらしな。
俺がそんなことを考えていると、下の方から、水斗の呑気な声が聞こえて来た。
「おーい、ツンデレ君、早く下りておいでよ」
「おい、今度ツンデレ君って言ったら、歩けなくなるほど全力で蹴ってやるって言ったよな?」
「げっ・・・・」
「今からそっちに行くから、おとなしく待ってろよ」
「そっ、それは無理!」
悲鳴に近いような水斗の声が聞こえた後、走って俺から離れようとする足音が聞こえる。と言うことは、この穴の下はコンクリートで、体制を少し崩したら怪我をするかもしれないってことだ。
まぁ、水斗の声の大きさで、穴がそこまで深くないことはわかったから、最悪、着地を失敗しても、怪我はしないで済むだろう。
そう思って穴の中に入る。そして、無事着地。穴は、俺が思っていた深さよりも結構浅かった為、人間でも普通に飛び降りれるぐらいだろうと言うことがわかった。
「おい水斗、どこにいる?」
「返事はしてやるけど、出てはいけないぞ。僕の足が壊れてしまうからね」
「お前が、『ツンデレ君』なんて呼ばなければ、俺はそんなことはしない。だから、早く出て来い」
「・・・・わかったよ」
声の大きさからして、そこまで遠くにいないことはわかるけれど、何せ真っ暗だから、近くのものでも見えないのだ。仕方ないだろう。
「ほら、出て来てあげたよ」
「じゃあ、案内しろ」
「どこに?」
「聖夜が閉じ込められてる場所にだ」
「えーっと・・・・」
「まさか、出来ないって言うんじゃないだろうな?」
「うんって言ったらどうする?」
その言葉に、俺は大きく息を吐いた。そして、声が聞こえた方向を思い切り蹴ってやろうとした時だった。突然目の前にオレンジ色の光りが現れて、そのあまりの明るさに、思わず目が眩んだ。
「ほらほら、そんな暴力ばっかりしようとするからバチが当たるんだよ」
「うるさい!今のはお前の懐中電灯だろう!?」
「そうそう。殴られそうだったからさ、正当防衛ってやつだよ」
「勘弁しろよ・・・・もう少し距離が近かったら、目が見えなくなるところだったぞ」
「まあまあ、これに懲りたら、少しは暴力をやめた方がいいよ」
水斗は嬉しそうに言うと、鼻歌交じりに奥へと歩いて行く。俺は、そんな水斗にムカついたが、まだ目がチカチカする為、殴るのはやめた。蹴るのもやめた。でも、近くにあったプラスチックの何かを、水斗めがけて投げてやった。
「ちょっと!暴力はやめなって言ったでしょ!」
「俺は、物を投げただけだ。それに当たったお前が悪い。これに懲りたら、もう、人の目の前で懐中電灯をつけるのはやめることだ」
「・・・・ったく、減らず口ばっかりだね、君は」
「胡散臭い怪盗もどきに言われたくないな」
「僕は、列記とした怪盗だよ!それを馬鹿にするな!」
「してない。と言うか、早く聖夜の居場所に案内しろ。でなきゃ、また物を投げるぞ」
「う・・・・いじめだ」
水斗はそうボソッとつぶやくと、慎重な足取りで奥へと歩き出した。