本人は嫌がっているようですが、さがには逆らえません
「修さん!」
「ああ、桜木か。突然電話して悪かったな」
「いえ、大丈夫です」
桜木はそう言うと、俺の横に立っている不思議な格好をした男の方を見た。
「えっと・・・・この方は?」
「こいつは、水斗だ。見てのとおり、変人だ」
「ちょっ、変人って言い方はないだろう?僕はこう見えても・・・・」
水斗が言いかけた時、桜木が思い出したかのように、小さく声を出した。
「もしかして、怪盗エンジェルですか?!」
「そうだよ。このツンデレ君はね、僕のことを変人呼ばわりするんだ。どうか弁解してくれよ」
「変人は変人だろう。怪盗だかなんだか知らないが、お前の格好は、変人としか思えないからな」
「何を言ってるんだよ、ツンデレドS君、僕は、怪盗だって何回言ったらわかるんだい?」
「それを言うならお前だってそうだろう?俺は、ツンデレじゃないって何回言ったらわかるんだ!この大ボケ野朗!」
「口悪いなぁ・・・・そんなんで、女性を口説けるはずがないじゃないか」
「お前の方こそ頭が悪いな。俺は、女を口説くような馬鹿な真似はしない。そもそも、お前と俺は、頭のつくりが違うって何回言ったらわかるんだ!」
「ちょっ、ちょっと待って下さい、一回落ち着きましょう?二人とも」
桜木が俺達の間に入って喧嘩を止めて来るけれど、どうもこいつはイラついて仕方がない。桜木が来るまでの間、俺達はこんな喧嘩を繰り返し続けていた。その原因は、全てこいつにあるんだ。
「ちょっと待ってよ、なんで全部僕が悪いってことになってるんだよ?悪いのは全部君じゃないか」
「俺は、微塵も悪くない。悪いのは・・・・」
「二人とも悪いです!とにかく、どうして僕を呼んだのか。そして、何をしていたのかを教えて下さい!」
「どうして桜木を呼んだのかと言うのは、聖夜を助ける為だ。協力してくれるか?」
「はい、全然大丈夫ですよ。竜さんにもちゃんと言ってきましたから」
「そうか・・・・。それじゃあ早速・・・・」
「ああっ、ちょっと待った」
「・・・・なんだよ、俺の言葉を遮るなんて、よっぽどのことなんだろうな?」
「とりあえず、一回会場のところに戻って、彼女の安全を確かめに行こう」
「安全?」
俺がそう聞くと、水斗が近寄って来て、コソコソっと言った。
「そう。あの、可愛い君の彼女の♪」
そう言われて、自然と顔が赤くなるのがわかった。水斗はと言うと、そんな俺の表情を見て、とても楽しそうにしている。きっと、からかわれたに違いない。
「ばっ、お前!!」
「怒りなさんなって。そんなに怒ってると、怖い人ってレッテル張られちゃうぞ?」
「うるさい!彼女なんかじゃない!あいつなんかほっといて、さっさと聖夜を探すぞ!」
俺はそう言ってズンズンと歩き出すけれど、水斗に言われると、何だかあいつのことが心配になって来て、自然と足が会場の方に向かう。
それに気づいたのか、後ろを歩いていた水斗が、その隣を歩いていた桜木に小さく耳打ちをしているのが聞こえる。
「なんだかんだ言いながら、彼女が心配なんだな」
「そうですね。修さん、結構そう言うところがありますから」
「ふーん、意外と優しいところがあるのか。やっぱりそう言うのを、ツンデレって言うんじゃないのかな?」
「でも、本人がそうじゃないと言っているなら、違うんじゃないですか?」
「でもさぁ、一般見解だと、ツンデレって思われるだろうし、僕がそう思っても罪はないと思うけどな・・・・」
「でもやっぱり、本人が嫌がっていることは言わない方がいいですよ?」
さすが桜木だと思い、俺は、大きくうなずきながら歩いた。そんな俺を不思議に思ったのか、二人の会話は更に続く。
「修、頭がおかしくなっちゃったのかな?」
「そっ、そんなことないと思いますよ。もしかしたら、僕達の会話が聞こえちゃってるのかもしれません」
「げっ、それ、ホントですか!?」
「結構耳がいいと思いますので、これぐらいは・・・・」
桜木が言うと、水斗はゆっくりとこちらの方を向いた。俺は、それに答えるかのようにうなずいた。
すると、思い切り顔をしかめ、桜木の腕を摑み、俺と距離を置く。その動作が、まるで、汚い物から離れるような動作だった為、かなりイラついた。
「おい」
「ん?なんだい?」
「『ん?なんだい?』じゃない!どうしてお前は、そう、イラつくようなことばっかりやるんだ!」
「別に、僕はそのつもりでやったんじゃないし、盗み聞きなんて趣味悪いしね」
そんな減らず口を叩く水斗だが、俺の知り合いに似ていることに気づき、誰だろうかと首を捻らせて見る。そして、直ぐに答えは出た。凛だ。あいつも結構めんどくさくて、イラつくようなことを言うのだ。
「・・・・とりあえず、お前等は黙ってそこにいろ。俺は、この中に入って様子を見てくる」
「なんだ、やっぱり彼女の様子が気になるんじゃないか。それなら、素直に言えばよかったじゃないか」
「違う!俺は、あくまでも、会場の様子を見に行くんだ。あいつのことを心配してるんじゃない。何回言えばわかるんだ!」
「君が、自分の気持ちに嘘をつかなくなる時まで」
「・・・・はぁ」
とても重々しいため息をつくと、俺は、「会場の様子」を見る為に、扉の中に入った。