本当に素晴らしい人は、どんな状況にあっても、人のことを考えられる人
「・・・・泣かせちゃってごめんね、丘本君」
「いいえ、そんな・・・・」
僕は、出来るだけ泣かないようにしようと努力をして、鼻をすする。僕が話しをさせてしまったのだ。謝るのと同時に、ここまで苦しい思いをしながらも僕に教えてくれたことに感謝しなくちゃいけない。
「ごめんなさい・・・・それに、ありがとうございました」
「うん・・・・。悪いけど、雅を元の世界に帰してあげてくれないかな?この様子じゃ、自分で帰るのは無理なことだと思うから」
「どうやってやるのか、わからないんですけど・・・・」
僕が言うと、優美さんは「そっか」と言って立ち上がると、雅さんの方を向いた。
「・・・・それじゃあ、元の世界に連れていくけど、いいかな?」
「うん」
「ああ、そうだ、最後に言っておきたいことがあるんだ」
優美さんはそう言うと、雅さんに近寄って、耳元で何かを言った。すると、雅さんは納得したようで、それにうなずくと、優美さんもうなずいた。
その直後、雅さんの姿が消えて、残されたのは、僕と優美さんだけになった。
「さっき、なんて言ったんですか?」
「・・・・母さんを恨まないようにってね」
「えっ?!」
まさかの言葉に、僕は驚いた。この状況は、明らかにお母さんのせいと言える。それなのに、どうして恨むなって言ってるのか僕にはわからなかった。
「驚くのも無理ないけど、生きてる頃は毎日のように言ってたんだ。普通なら、母さんを恨むかもしれないけど、母さんを恨んで欲しくなかったから」
「どうして、恨んで欲しくなかったんですか?」
「・・・・普通に考えたら、俺の母さんが悪いと思う。でも、母さんだってきっと色んな思いがあっただろうし、そう言う気持ちを考えると、恨まないで欲しいなって思ったんだ」
「・・・・優美さんは凄いですね」
「ん?どこが凄いの?」
「普通は、お母さんの気持ちとかを考えようとしても、考えられないと思います。それなのに、優美さんは、お母さんの気持ちすらも考えて恨まないで欲しいって言えて・・・・とても凄いと思います」
「そんなことないよ、俺はただ、誰にも苦しんだり傷ついたりして欲しくないだけなんだ。それだけなんだ・・・・」
僕は、心底優美さんが凄いなと思った。僕には到底真似出来ない。多分、この人の心の広さは、この地球上の海ぐらい広いのかもしれない。
「そろそろ丘本君も帰った方がいいんじゃない?」
「そっ、そうですね・・・・」
「さっき、帰り方がわからないって言ってたから、俺が送ってあげるよ」
「あっ、ありがとうございます!」
「それじゃあ、帰ろうか」
「あの、待って下さい!」
「どうしたの?」
「また来年、来年のクリスマスの時、会えたらいいですね!」
僕が笑顔で言うと、優美さんも微笑みを返してくれた。その途端、目の前が急に真っ暗になって、気がつくと、霊界に来る前に立っていた横断歩道のところに立っていた。
僕は、大きく息を吐くと、竜君から受け取ったメモを確認した後、買い物に行く為、青になった横断歩道を歩き出した。