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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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人の気持ちを考えようとする心を持ちましょう

「そうか・・・・。やりたいこと、沢山あったんだな。気づいてあげられなくてごめんな」


「・・・・兄さんが謝ることはないよ。兄さんは悪くない。全部・・・・全部、俺が悪いんだから」


「そんなことない。雅は悪くないんだ」

「・・・・」


優美さんの言葉に、雅さんがさらにうつむく。声が震えてて、泣いてしまうんじゃないかと不安に思ったけれど、そんなことなくて、直ぐにまた話し始めた。


「そして、俺が十五のクリスマスの日、兄さんは、あの横断歩道で車に轢かれて死んだんだ」


そう言われて、僕は、息を吸い込んだ。多分、あの横断歩道と言うのは、僕が始めて優美さんと出会った、あの横断歩道だろう。


「死因は事故死だった。赤信号なのに横断歩道を渡ろうとした子供を助けて死んじゃったらしい。俺は、その知らせを聞いて、絶望を感じた。まだ謝ってもいないし、俺の本当の気持ちも伝えてない。あんな態度を取ったら、誰でも嫌われてるって思うだろう。だから、そんなことはないんだって、弁解したかった。それなのに、何も伝えられないまま、兄さんは死んでしまった。まだ、謝ってもいないと言うのに・・・・」


「だから、毎日毎日俺の部屋に来て、謝ったりしてたんだな・・・・」


「うん・・・・そうするしか、俺には出来なかったんだ。ただ只管謝って、謝って、謝って・・・・そうでもしないと、申し訳なかったんだ!兄さんはあんなに優しくしてくれたのに、俺は、俺は・・・・」


雅さんはそこまで言って、ついに堪え切れなくなったのか、うつむいたまま、袖で目を擦っている。


僕は、その様子を泣きそうになりながら見ていた。僕は体験していないから、辛いだろうとか、苦しいだろうなんて言えない。本人の方がもっと辛いだろうから。でも、痛いほど気持ちがわかって、僕も泣きそうだった。


「・・・・ここからは、俺が話すから、もう無理をするな」

「でも、兄さんだって・・・・」

「俺は大丈夫だよ」


そう優しく言う優美さんの言葉が、余計に苦しいと思う。僕だって、こんなに苦しいんだ。雅さんは、もっと苦しいと思う。


「雅は、毎日毎日、俺が生きていた頃に住んでた部屋に来ては、霊界にいる俺に向かって謝っていた。そして多分、こう思ったんだろう。『自分が死に追いやったんだろう』って。そんなことはない。これは事故で、雅は何も悪くないんだって伝えたかったけれど、俺は霊界にいて、そう伝えることが出来なかった。


そのせいで、雅はうつ状態になっちゃって・・・・。その様子を見たら、俺は、霊界の規則を破ってでも言葉を伝えようと思った。でも、中々上手く行かなくてな・・・・。遅くなってごめんな」


雅さんは無言で首を振っている。僕は、もう泣いていた。お互いが痛いほど相手のことを考えて苦しんで・・・・。お互いの優しさに、僕は泣かずにいられなかった。


「しばらく経っちゃったけど、何とか人間界に来て雅に俺の言葉を伝えるけど、お前、中々うなずかないんだもんな・・・・。もうやめろって、何回言っても、何回言っても・・・・」


そこで、優美さんが言葉を切り、鼻をすすった。声が途中で震えてたから、きっと、涙が出そうだったんだろうけど、なんとか堪えたみたいだ。


「だから、年に一回、クリスマスの日だけこっちの世界に来るからって言って、やっと納得して・・・・。だから俺は、毎年クリスマスになると、生前住んでいたあの家に戻ってたんだ。今年も、そのつもりでこっちの世界に来たけど、丘本君が迷ってるようだったから、ちょっと、いつもと違うクリスマスになったかな?」


「ごっ、ごめんなさい・・・・」


僕は、二人の貴重な時間を割いてしまったと思って、申し訳なくなって謝るけれど、優美さんは首を振った。


「そう言うつもりで言ったんじゃないんだけど・・・・誤解させちゃったらごめん。今年は、今までと違って、楽しいクリスマスになったなってことなんだ」


「・・・・」


僕は、首を縦に振ったり横に振ったり頭がおかしくなるんじゃないかってほど振った。声が出なくて、YESかNOかも言えないんだもん。


「・・・・でも、兄さん、恨んだりしてない?俺が生まれて来たせいで両親が離婚しちゃって・・・・どうして優しくしてくれたのか、わからないんだ。俺は、兄さんに何もしてあげられない・・・・。むしろ、傷つけただけなのに・・・・どうしてここまで俺に優しくしてくれるのか・・・・」


「恨んだりなんかしたことは一度もないぞ。雅は悪くない。雅は、生まれて来てもよかったんだ。その結果、どんなことになろうが、俺は、その意見を変えるつもりはないし、それに、怒るつもりもない。血なんか繋がってなくたって、大事な弟って言うことに変わりはないんだからな・・・・」


優美さんの言葉に、雅さんは大きく息を吐くと、うなずいた。言葉を発してないものの、そのうなずくと言う動作だけで、何て言いたいのかわかったような気がした。


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