仲のいい兄弟
「それにしても、どうしてあんなところにいたんだい?あの道、ここら辺に詳しい人でも迷っちゃうような場所なのに・・・・」
「そうなんですか?」
「そうそう。俺も何回か迷ってたよ。ここに住むようになってから五年ぐらい経つけど、まだ、あの辺りの道はあやふやだし」
「メモを追ってたら、いつの間にかあの場所に来てて・・・・。今考えれば、只管上を向いて追いかけてて、よく怪我しなかったなって思います」
そうだ。何回か車に轢かれそうになったり、カップルにぶつかったりしたけど、怪我はどこもしてない。僕って、結構強運なのかな?
「そうだね。でもまぁ、無事で何よりだよ。はい、これ」
そう言って差し出されたのは、温かいココアで、僕は、色んな意味でため息が出た。ココアが嫌いとかそう言うんじゃなくて、安堵とか、嬉しさとか・・・・とにかく、色々詰まってるんだ。
「ありがとうございます」
ココアのカップを受け取ると、凄く温かくて、手が痺れて来る。あまりにも手や足が冷たい時に温かいものに触ると、痺れてくるあの感覚だ。
「君ぐらいの歳の子がどんなものが好きなのかわからなかったから、とりあえずココアを出したけど・・・・どう?」
「はい、大好きです!」
「そっか、それはよかった」
そう言って笑う浅岡さんはとても優しい人で、僕は、珍しい人だなって思った。まぁ、僕が、あまり優しい人を知らないだけなのかもしれないけど、普通は、知らない人であるはずの僕を自分の家にいれようと思わないだろう。
そんなことを思いながら、ふと前を向いた時、写真が目に入った。そこには、小学生ぐらいの男の子と、中学生ぐらいの男の子が二人で笑って映ってる写真だった。そんな僕の視線に気づいたのか、浅岡さんが教えてくれた。
「ああ、その写真はね、俺と弟の写真なんだよ」
「それじゃあ、中学生の方が浅岡さんですか?」
「うん。弟の方は、雅って言うんだ。高校三年で、水樹君と同じ学校に通ってるんだよ」
そう言われて、僕はかなりびっくりした。まさか、浅岡さんが水樹君のことを知ってるなんて・・・・。
「水樹君のことを知ってるんですか?」
「まぁ、一回会った程度だけどね。君のことは、水樹君が雅にしゃべってたのを俺が聞いたんだ。だから、その話によく似た君を見かけたから、あの時声をかけたんだよ」
「そうだったんですか・・・・あの・・・・それじゃあ、僕がその・・・・能力者と言うことは知ってますか?」
僕は、あえて、「能力者」と言葉を濁した。ストレートに妖怪と言うよりも、そういう言い回しをした方がいいかなと思ったんだ。
すると、浅岡さんは不思議そうな顔をして首をかしげるから、僕は、慌てて首を振った。
「ああ、気にしないで下さい!それならそれでいいんです!」
「・・・・ああ、能力ってもしかして・・・・水樹君みたいな特殊能力のことかい?」
そうであるけど、違くもある。でも、一応うなずいた。すると、浅岡さんはやっぱり首をかしげていた。
「うーん、聞いてない気がする」
「そうですか・・・・。ん?」
僕は、一度うなずいたけれど、よく考えてみて、気になるところがあることに気づいた。今、浅岡さんは、「水樹君みたいな特殊能力」と言った。それって、水樹君や、周りの子達が、特殊能力を持ってることを知ってるってことかな?
最初は、聞こうか聞くまいかかなり迷ったけれど、やっぱり、モヤモヤしているままじゃ嫌だから、聞いてみることにした。
「あの・・・・さっき、水樹君みたいな特殊能力って言ってましたけど・・・・どう言う意味ですか?」
「ん?水樹君って特殊能力持ってるだろ?だから、君も、何か持ってるのかなって・・・・」
「なるほど・・・・」
「ちなみに、弟も持ってるんだよ、特殊能力」
「えっ!?」
僕が驚いた時、突然インターホンが鳴った。それに気づいた浅岡さんが立ち上がって、玄関の方に向かっていく。
覗いちゃいけないのはわかってるけど、僕は、ソーッと覗いてみた。だって、気になったんだもん!しょうがないじゃないか!
すると、浅岡さんと、もう一人、男の人がしゃべってるのが見えた。でも、その姿が見えない。僕は、その人の姿を見ようと身を乗り出したとき、手を滑らして、ドタッと転んでしまった。
その音に、二人は一斉に僕の方を向いた。その時、ようやく、浅岡さんがしゃべっていた人の顔が見えた。その人は浅岡さんとそっくりで水樹君と同じ制服を着ていたから、弟の雅さんだってわかった。
しかしだ。それがわかっても、覗いていることがバレたんだ。なんだか申し訳ない気持ちになって、僕は、浅岡さん達が何か言っていることを無視して、四つんばいでストーブの前まで歩いて来ると、ストーブに当たってるフリをした・・・・けど、もう遅いよね?
「丘本君、丘本君」
突然後ろでそう言われて肩を叩かれる為、僕はかなり驚いた。振り返ってみると、浅岡さんの弟さん・・・・雅さんがしゃがんで僕の方を見ていた。
「はっ、はい!」
「そんなに驚かなくて大丈夫だよ。取って食ったりしないし。それに、覗いてた事、兄さんも怒ってないし」
そう言って雅さんは後ろを振り返るから、僕もその視線を追う。そこには、苦笑している浅岡さんの姿があった。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ?」
「いや・・・・だって、覗き見をしちゃったから・・・・悪いと思って・・・・」
「別に大丈夫だよ。変な話はしてないし」
そう言って並んで座る浅岡さん・・・・優美さんと雅さんは、まるで双子のようにそっくりだった。それに、結構仲もよさそうだから、羨ましいなって思った。
「丘本君のことは水樹君から聞いてるよ。何でも、凄くよく食べるし元気なんだってね」
「あははは・・・・まぁ、その通りです」
「その割には凄く痩せてるね」
「はい。あんまり太らない体質らしくて・・・・」
僕は何だか緊張して来ちゃって、正座をしてうつむいた。優美さんの場合はあんまりそんな感覚がしないんだけど、雅さんの方はなんと言うか、笑顔でプレッシャーを放ってるような感じで、とても緊張してしまうのだ。
「そう言えば、どうして丘本君が兄さんの家にいるの?」
そう聞かれて、僕は買い物の話をした。その時、やっと、自分が買い物をする為に家を出て来たことを思い出して、帰らなくちゃ!と思った。
「僕、帰らなくちゃ!竜さんも心配してると思いますし・・・・あの、よくしていただいてありがとうございました!」
「そう言えば丘本君、買い物をする為に出て来たんだもんね、お母さんも心配するかもね・・・・。それじゃあ、表通りまで送って行くよ」
「ありがとうございます!」
僕は、冷たくなったココアを飲み干すと、手を振ってくれた雅さんに手を振り返して、玄関まで歩いて行った。
「それじゃあ俺は、丘本君を送って来るから」
「うん、気をつけてね。いってらっしゃい、兄さん」
そのやり取りを聞いて、僕は、なんだか羨ましいなと思いながら、靴を履いて外に出る。あんまり長居したつもりはないけど、多分、三十分ぐらいはここにいたかもしれない。
「あの・・・・今日は本当にありがとうございました」
「気にしなくていいよ。なんだかバタバタしちゃったけど、満足してくれたかな?」
「はい、心も体もポカポカです!」
「うんうん、元気になってくれてよかったよ。ここまでくればわかるかな?」
優美さんに言われて辺りを見渡すと、いつの間にか表通りに出ていて、僕は大きくうなずいた。
「本当にありがとうございました!ここまでくれば、もう大丈夫です!」
「そっか・・・・うん、それならよかった。これ、よかったら使ってよ」
そう言って優美さんが差し出してくれたのは、自分の巻いていたマフラーだった。
「えっ?でも、いいんですか?」
「うん、俺の家は直ぐそこだけど、丘本君の家は遠いだろうから」
「ありがとうございます!」
僕は、その好意に素直に甘えることにした。手袋もマフラーもしていなかったからあんなことになった訳だし、もう、あんな風になりたくないしね。
「それじゃあね」
「あの・・・・このマフラー、どうしたらいいですか?」
「ああ、それは、雅に返してくれたらいいよ」
「はっ、はい・・・・」
なんで雅さんに渡せばいいのかわからないけど、そう言われたんだから仕方ないなと思って、僕は、最後に再びお礼を言ってから歩き出した。
その直後、凄く強い風が一回だけ吹き、僕は、思わず目を瞑って立ち止まる。そして、その風の起こった後ろを振り返ると、いつの間にか優美さんはいなくなっていた・・・・。
「・・・・」
僕は、無言で前を向くと、表通りに向かって走りだした。