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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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いつの時代にも、天使とは存在するものですね・・・・

「えーっと、たまねぎとパン粉と、後は・・・・」


僕は今、メモを片手にクリスマス色に染まっている町を歩いている。そう思うと、何だか空しくなって、僕はため息をついた。すれ違う人達は、みんなカップルみたいで、僕みたいな一人の人は、結構少なくて、少しだけ寂しげに見える。


ため息をついて信号を待っていると、仕事帰りかわからないけど、黒い鞄を持ってトレンチコートを着た、サラリーマン風の男の人に話しかけられた。


「ため息なんてついて、どうしたんだい?」

「えっ?」

「何だか、周りを見てため息をついていたようだったから・・・・」

「周りの光景を見たら、なんだか、一人の自分が浮いて見えて・・・・」


僕は、苦笑いを浮かべながら、その男の人に言葉を返す。その人は、結構若い人で、二十代前半から、二十代半ばぐらいかもしれない。


「俺も同じだよ。一人の自分が浮いて見える・・・・。でもまぁ、クリスマスだから、仕方がないのかな?」


「そうですよね、この景色はクリスマスでしか味わえないものなんですもんね、珍しいことだと思って、元気を出しましょうか!」


「ところで君は、何をする途中だったんだい?」

「えっとですね、僕、お母さんに頼まれて、ハンバーグの材料を買いに来たんです」


本当は、竜君に頼まれたんだけど、一般的にはお母さんだろうなと思って、お母さんと言ってしまった。後で何か言われたら、謝るしかないかな?


「そうか・・・・まぁ、独り者同士、お互い頑張ろうね」

「はい!」


僕は、何を頑張るのかよくわからなかったけれど、青になった横断歩道を渡った。


「それじゃあ、俺はこっちだから。買い物頑張ってね」

「あっ、はい、ありがとうございます!」


頑張るほどのことじゃないけど、頑張れって言われたら、少し元気が湧いて来て、ネガティブだった心がポジティブになる。


「よしっ、頑張るぞ!」


そう意気込んだ時、僕は一瞬だけ、手を開いてしまったんだ。当然、手に持っていたメモは僕の手を離れて、地面に落ちて行く・・・・予定だったんだけど、運の悪いことに強い風が吹いて買い物リストの書かれたメモを吹き飛ばして行く。


「ああっ、待って~!!」


僕は、風に吹かれて飛んで行くメモを追いかけていたけれど、途中でカップルにぶつかったり、車に轢かれそうになったりしてたからかわからないけれど、すっかりメモを見失ってしまった。


しかも、メモを追っている間に裏路地に入り込んでしまったらしく、僕は、どうしたらいいのかわからず、ため息をつきながら歩き出した。


今頃、亜修羅は何やってるんだろうか・・・・。今日は聖夜君の誕生日だって言うから、パーティーで楽しんでいるんだろう。温かいスープやご飯を食べてるんだろうな・・・・。


そう思うと、段々ネガティブになって来て、ため息をつく。桜っちは・・・・どうしてるんだろうな?想像がつかないや・・・・。


ただ只管、上を見上げて走っていたせいか、見知らぬ道に来てしまっていた。表通りに出れば、なんとかなりそうだけど・・・・ここ、どこなんだろう。


そんなに遠くに行くつもりがなかったから、時計も持ってきてないし、ケータイも持ってない。公衆電話は使えると思うけど、買い物をする為にもらったお金を勝手に使うのも悪いから、公衆電話を使うことはないだろう。


それに、最悪なことに、長時間外出する予定じゃなかったから、結構薄着で来ちゃったんだ。だから、凄く寒くなって来た・・・・。


どうしていいのかわからず、表どおりに出ようと必死で歩き回るけれど、余計奥に入り込んでしまっているようで、何だか不安な気持ちになって来る。人に道を聞くと言う選択肢もあるけれど、誰も歩いていないから、それはあまり有効な方法ではなく、かと言って、道を尋ねる為に誰かの家を訪問することも出来ない。八方塞だ。


僕は、歩くことに疲れて足を止めるけれど、外の気温は、今にも雪が降りそうなほど低い。だから、動いている方が体が凍えなくていいと言う結論に至り、僕は、その場で足踏みをしていた。


それでも、足先や指先が冷たくなって、感覚が麻痺してくる。それを感じて、僕は、物凄い恐怖を覚えた。このまま、どうにも動くことが出来なくて、凍えて死んでしまうんじゃないかって・・・・。


自分の考えに思い切り首を振ると、僕は、何とかいいことを思い浮かべようとするが、思考がネガティブになっているせいか、嫌なことしか考えられない。


僕は、暗い気分になりながらしゃがみ込む。そして、ポケットに手を入れたまま辺りを見渡す。もう七時を過ぎてると思うから、辺りは暗くなって、街灯が点いている。その街灯の光りは、表通りの暖かい光りと違って、とても冷たくて無機質に感じた。辺りの空気が冷たく静まり返っていて、人が歩いて来る気配がしない。


これからどうしようかとうつむいていた時、突然、後ろで誰かに話しかけられた。


「具合が悪いのかい?大丈夫?」


そう問いかけて来る声に聞き覚えがあって、僕は、思わず上を見上げた。そして、さっきのサラリーマン風の人だと言うことに気づき、救われたような気がした。


「あれ?さっきの・・・・」

「はい、さっき横断歩道のところで会った者です・・・・」

「どうしたの?こんなところで座り込んで・・・・」


そう優しく尋ねて来るサラリーマン風の人が天使のように見えて、僕は、全てを話した。すると、近くに自分の家があるからと言う為、僕は上げてもらう事にした。


「そんな薄着で外にいたら、寒いだろ?」

「本当は、そんなに長い間外にいるつもりはなかったので、いいかなって思って・・・・」


「そっか・・・・。まさか、こんなことになるなんて想像もつかないからね。俺も、それと似たようなことを何度か経験したことあるよ」


「そうなんですか?」

「うん。でもまぁ、なんとか生きてたのは、俺の体が丈夫ってことかな?」


そう言ってサラリーマン風の人は笑うと、あるアパートの一室の鍵を開けて、中に入れてくれた。

その部屋は、極普通の部屋と言ってもいい感じの部屋で、特に変わったものはなかった。


「そう言えば、まだ、お名前を聞いていなかったんですけど・・・・もしよかったら教えてもらっていいですか?」


「ああ、俺は、浅岡優美(あさおかゆうび)って言うんだ。なんだか女の子みたいで嫌なんだけどね」


「そうなんですか・・・・僕の名前は丘本宗介って言います」

「そっか・・・・。まぁ、とりあえずこれで暖まりなよ」


浅岡さんはそう言うと、ストーブをつけてくれた。僕は、悴んだ手足をストーブに当てて、暖めることを優先することにした。


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