クリスマスをどう過ごすかは人それぞれであって、こうしなくちゃいけないと言う縛りはありません。
「こっ、これでどうかな?」
「はい、バッチリですよ、栞奈さん!」
「これなら、どんな男の子だって振り向くはずです!」
「そっ、そんな・・・・ちょっと言い過ぎだよ~」
言葉ではそう言うものの、褒められて凄く嬉しかった。今は、六時四十五分。デートに来て行く服の最終確認をしてたんだ。
六時五十分にここを出ないと駅前広場に間に合わないから、後五分でここを出なくちゃいけない。
「本当ですよ、栞奈さん、凄く綺麗です!」
「ありがとう」
「幼馴染の男の子って言うのは、いつもと違う雰囲気の彼女にドキッとするんですっ!ギャップを狙えますよ!」
「う、うん・・・・」
そう言われて、私は全身が映る鏡の方をチラッと見た。そこに映ってる私は、いつもの子供っぽい私じゃなくて、一歳か二歳ぐらい大人に見える。多分それは、いつもしないメイクのおかげだと思う。
妖怪は普通、化粧やメイクの類をしないから、人間界に来て、メイクと言うものを知った時は凄く驚いた。それと同時に、一度でいいから、私もメイクをしてみたいなと思ったんだ。
そのことを鈴香と悠里さんに言ったら、二人でメイクをしてくれたんだ。
「二人とも、本当にありがとね。ここまで綺麗になったのは、二人のおかげだと思う」
「そんなの気にしないで下さい!私は、ただ栞奈さんを応援したかっただけなので」
「鈴香様の言うとおりです!それに、メイクのことだって、ほとんど手なんか加えてませんよ。ちょっとファンデーション塗ったりアイシャドーつけたりしただけでこんなに綺麗になれちゃうんですから、栞奈さん自身がとても可愛いんですよ!」
「うん、ありがとう」
二人は、ドキドキしてる私の緊張をほぐすようにそう言ってくれる。けれど、やっぱり、ドキドキは納まらない。今まで、何回か亜修羅と出かけたことはあったけど、デートって言うのは初めてだからかもしれない。
「あっ、栞奈さん、そろそろ五十分ですよ!そろそろ出た方がいいんじゃないですか?」
「そうなの!?それじゃあ、行かなきゃ!」
私は、慌てて、自分の履いて来た靴を履こうとするけれど、悠里さんに止められた。
「栞奈さん、その格好をしてるのに、普通の靴で行くつもりですか?」
「えっ?だって、この靴じゃないと、歩きにくいんだけど・・・・」
「そうだとは思いますけど、修さんの為だと思って、頑張って下さい!」
そう言われたかと思うと、悠里さんから、かかとの部分の高い靴を渡された。それを見た第一印象は、とてもかかとが高くて、歩きにくそうだなってことだ。
「これを履くの?」
「はい、栞奈さんの持ってる靴だと、ちょっと合わないので、これならいいかな?と」
「うーん、かかとが高いね」
「こう言うのは、あまり好きじゃないですか?」
悠里さんがそう聞いた時、奥の方から鈴香の声がして、五十分になったと教えてくれた。
「それじゃあ、これ、貸してもらうね!」
私は、悠里さんの差し出してくれたかかとの高い靴を履くと、よろよろしながら鈴香の家を出た。
「あ~ぁ、今頃、栞奈ちゃん達はデートなのかな?」
「うーん、そうなんじゃねぇか?」
「はぁ・・・・僕も行きたかったなぁ」
「デートか?」
「デートって言うか、遊びに行く予定だったんだよ、今日。でも、向こうの用事が出来ちゃったみたいでさ、なくなっちゃった」
「ふーん、相手は女の子か?」
「うん」
「どこに行くつもりだったんだ?」
「えっとね・・・・商店街で色々買ったり、ゲームセンター行って遊んだり、ケーキ屋さんでケーキ食べたり、駅前広場のイルミネーションを見に行く予定だったんだよ」
「・・・・それ、女の子が決めたことか?」
「うーん、商店街とゲームセンターとケーキ屋さん以外は、女の子の方から言ってた」
僕の言葉に、竜君が小さく何かを呟いた。あんまりよく聞こえなかったけど、多分「それ、イルミネーション以外じゃねぇか」だった気がする。
「もしかしてその子、お前をデートに誘ったつもりなんじゃねぇか?」
「デート?」
「ああ」
「そんなことないって!遊びだよ、遊び!」
「お前にとっちゃ、デートも遊びなのな・・・・」
「へっ!?」
竜君の呟きに、僕は、大きな声で問い返したけれど、なんでもないと言うような答えが帰って来たから、気にしないことにする。
「なんと言うか・・・・その子が不憫だと言うかなんと言うか・・・・」
「なんだかさ、竜君、勘違いしてるみたいだけど、デートなんかじゃないよ?」
「まぁ、別にいいや。さて、そろそろ飯の準備でもするか!」
そう言って椅子から立ち上がった竜君は、真っ直ぐキッチンに向かって行って、冷蔵庫を開ける。
「そう言えば、水樹君達はどこに行ったのかな?」
「ああ、あいつらな・・・・うーん、誰かとデートでもしてんじゃねぇか?」
「そっか・・・・。うん、クリスマスはカップルの日だね!」
「おう。あっ・・・・」
竜君はそう言ったかと思うと、僕の方を向いた。
「さっき、ハンバーグを食いてぇって言ってたよな?」
「うん、それがどうしたの?」
「材料足りないからよ、ちょっと買いに行ってくれないか?」
「別にいいけど・・・・何を買いに行けばいいの?」
「えーっと、今メモ書くから待ってな」
竜君はそう言うと、スラスラとメモを書いて、僕に渡してくれた。
「じゃあ、頼むぜ!」
「うん」
僕は、お金と材料を入れる袋を持つと、メモを片手にクリスマスの町を歩き出した。