誕生日なのにこんなことになるとは、中々可哀相な子です
聖夜の部屋に着くと、最初はノックをした。しかし、中から返事が聞こえない為、強引に扉を開けた。
すると、鍵が壊れるような音がしたが、まぁ、仕方がないと言ったら仕方がないだろう。
「おい、来てやったぞ。どこにいるんだ?」
部屋の中を歩き回って聖夜に声をかけてみるものの、聖夜の姿は見えず、俺は、首をかしげた。
俺が入って来た時には鍵がかかっていたので、聖夜が外に出たと言うことはありえない。それなのに、部屋の中に聖夜の姿が見当たらないのだ。
窓から飛び降りたのかと思って窓を開けてみるけれど、結構な高さで、俺ならここから飛び降りても怪我はないが、人間の子供である聖夜が飛び降りたら怪我をするだろう。だから、この線はないと言える。しかし、それならどこに行ってしまったんだろうか・・・・?
不思議に思いながら、部屋の中を歩き回っていると、使用人の一人が話しかけて来た。
「どうなさいましたか?」
「聖夜がいなくなった」
「えっ!?」
「俺は、服を着替えたらこの部屋に来いって言われて来たんだ。その時、ノックをしても返事がなかったから、鍵のかかってるドアを強引に開けたら、聖夜がいなくなってたんだ」
「そんな・・・・」
そいつは、蒼ざめた顔で後退りをするが、直ぐにハッとした表情をして、慌てて誰かを呼びに行った。
俺は、ため息をつきながら窓を閉めようとした時、どこからか白いハトが飛んで来て、窓の縁に止まる。そして、何か言いたげに、俺の方をじっと見ていた。
「・・・・なんだよ?」
ハトがしゃべる訳でもないのに、俺は、ハトに問いかける。すると、突然ハトがしゃべり出した。
「マイクテス、マイクテス、異常なし?」
「・・・・」
そう言って、まるで俺に問いかけるように首をかしげるハトを、俺は、ただ呆然と見ていた。
魔界にも、人間の言葉をしゃべるハトはいない。なのに、人間界には、人間の言葉をしゃべるハトが存在するのか?
そんなことに頭を支配されて、頭が混乱する。すると、そんな俺に、更に追い討ちをかけるかのように、ハトが再びしゃべる。
「あめんぼ赤いなあいうえお!生麦生米生卵!キャラクターを設定して下さい!・・・・おっと、間違えた」
何だか、全く意味の見出せない言葉を連ねるハトが、俺は不思議で仕方なかった。最初の言葉は確か、発声練習をする時に言う言葉で、二番目の言葉は、早口言葉だ。三番目は・・・・間違えたって言ってたから、間違ったんだろうな?
・・・・そうじゃない。そこは、考えるべき部分じゃないだろう。
驚きで、頭までおかしくなってしまった自分にため息をつくと、ゆっくりとそのハトに近付く。
「・・・・おまえ、しゃべれるのか?」
俺がそう聞くと、今度は、歌を歌い出した。その曲は、この近くにあるスーパーの曲だ。
俺は、余計訳がわからなくなって来て、ため息をついた。その時、ハトの首に何かがくくりつけられてるのが見えた。それは、何かの紙みたいで、不思議に思いながらも、その紙をハトから取った。
すると、そのハトは、自分の役目を終えたかのようにパタパタと飛んで行ってしまった。
俺は、首をかしげながら、紐で結ばれている紙を開いて、中に書いてある文を読む。
「葉月聖夜は預かった。返して欲しければ、エンジェルと共に助けに来るがいい」
その一文だけが書いてあり、一番下には、「ダークエンジェル」と書いてあった。
俺は、その文の意味がわからずに首をかしげた。しかし、その直後、ドタドタと言う荒ただしい足音と共に人が入って来た為、俺はとりあえず、その紙をポケットに突っ込み、窓を閉めた。
「聖夜様がいなくなったとは、本当ですか!?」
「ああ、俺が部屋に来た時には、いなくなっていたんだ」
「そうですか・・・・」
「相手の目的がなんなのかわからないが、とりあえずは、普通どおりに行動をした方がいいかもしれない」
「・・・・と言うのは?」
「さっき、電話があったんだ。警察は呼ぶなってな。呼んだら、聖夜の命はないそうだ。だから、とりあえずは、聖夜がいる状態と全く同じ状況を作って、パーティーに来る奴らに聖夜がいないことを感づかれない方がいい」
俺は、嘘をついた。犯人から電話なんか来ていない。しかし、俺に届けられたこの手紙は、どうも俺とエンジェル宛てらしく、周りの奴らは関係ないと思ったからそう言ったのだ。
多分、聖夜を誘拐した犯人は、自らの名前を表記するぐらいだから、殺すことはしないだろう。文面にも、殺すことをにおわす様なものはなく、ただ、取り返しに来いと書いてあるだけだからな。
とは言え、最悪な状況も考えておかなければいけない為、一応嘘をついたのだが、上手く騙されてくれるだろうか・・・・。
「そうですね、その他に、犯人は何か言っていませんでしたか?」
そう言われて、俺は思わず怯んだ。騙されてくれたのはいいことだが、他にもまだ何か考えなくちゃいけないのかと思うと、ため息が出そうだ。
「何かって、なんだ?」
「例えば、お金の要求だったりとか、なんらかの条件です」
そんな細かいことまで書いていなかった為、俺は、超高速で頭を回転させ、適当な言葉を言う。
「それは、また後々電話するらしい。だから、まだ知らされてはいない」
「そうですか・・・・」
「とにかく、みんなにバレないように、通常通りにパーティーを行ってくれ」
「わかりました」
そこに集った奴らはうなずくと、一人を残し、バタバタと音を立てて部屋から出て行った。
「しかし伊織様、聖夜様のことはどういたしましょう?我々が作業をしていると、条件を提示された時に、動けないのですが・・・・」
「それは俺に任せてくれ。とりあえず、お前も作業に戻ってくれ。聖夜のことは、俺が助けるから、安心して待っていろ」
俺が言うと、そいつは安心した表情になり、「ありがとうございます」と礼を言った後、直ぐに出て行った。
普通は、未成年である俺に主を託すなんて信じられないことだが、俺にとっては都合のいいことなので、深く考えないことにした。
それにしても・・・・エンジェルって、なんだ?
俺は、もう一度確認するべく、ポケットに入れた紙を確認するが、やはり意味がわからない。エンジェルは、天使って意味だ。しかし、天使と一緒に助けに来いってどう言うことだ?そもそも、どこに行けばいいんだ?
俺は、全くわからず、ため息をつきながらパーティー会場に向かった。