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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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魔界の国宝 冥道編 三つの国宝

あれから、何だかおかしい亜修羅をずっと見張ってはいたけど、おかしいのはその心だけらしく、普通に動いていたりはした。でも、どこか上の空って言うか何と言うか。


次の日の朝、僕は百万分の一の確率で起きる現象を起こした。と言うのも、そんなに大したことではない。自分の力だけで起きると言うことだ。これは、滅多にないことだから自分でもびっくりしているけど、亜修羅のことが気になって、隣へ行った。


いくらおかしいとは言え、鍵はかけているはずだ。だから、僕が除いているのは今までいた部屋のベランダから、亜修羅のいるベランダに飛び移ったんだ。いつもならカーテンが閉まってるはずだけど、今日は閉まってなかった。でも、僕にとっては好都合だ。


中を覗くと、ちゃんといつも通りに起きている。動きもいつも通りなんだけど、やっぱり表情が能面を被っているみたいに全くない。何だか、物凄く不気味だ。


亜修羅に気づかれないうちにさっさと退場すると、再び寝ようとした。しかし、目が冴えて眠れない。これは、産まれて初めての出来事だった。今まで目が冴えると言うことなど一度もなかったんだ。


すると、桜木君が起きた。僕が立てた音で目を覚ましちゃったのだろう。


「おはよ」

「おはようございます。あの、それはなんですか?」


桜木君が指を指したのは、枕元にある刀。小ぶりで、扱いやすそうな感じの刀だ。


「これは、形見って言うか・・・・、そんなようなもの。両親がいなくなる前にくれたんだ。それに、これって凄いんだよ。普通、冥道を開くことが出来るのは、天性のからそう言う力を持った限られた者だけんなんだけど、この刀で宙を切れば、そこに冥道が現れるんだ。名前は確か・・・・」

冥道霊閃(めいどうれいせん)・・・・?」


ボソッとつぶやいた桜木君。でも、自信がないと言うのは手に取るようにわかる。


「そうだよ。知ってたの?」

「知ってたも何も・・・・魔界じゃ、国宝物じゃないですか!!魔界を国と言うのかわかりませんが。でも、何でそんなものを・・・・?」


「わからないんだ。他にも、二つの国宝があるよね?」

「はい、冥道霊閃、烈火闘刃(れっかとうじん)雷光銃(らいこうじゅう)。この三つが国宝ですよね?」


「うん。それぞれの武器は、使い手を選ぶらしいね。だけど、僕はなぜか冥道霊閃に認められた。でも、まだ一回も使ったことがないよ。烈火闘刃が使えるのは、炎を操る妖怪だし、雷光銃は、何の手がかりもないし。どうして、僕なんかを選んだんだろうって不思議に思うよ」


国宝と言う大層な物が、今、自分の手の中に収められているなんて考えても、何だかあまり実感が湧かない。


「あの・・・・ちょっとでいいんですけど、冥道霊閃を見せてもらえますか?」

「はい!」


刀の柄の部分を持って差し出した。桜木君はおずおずと受け取ると、ぎこちない動きでゆっくりと鞘を外した。


その時に、シュッと言う音とシャキッと言うような音が混じった音がして、刃こぼれ一つない刀身が現れた。刀身は、太陽の光に当ってキラリと光る。


桜木君はしばらくの間見とれていたけど、ハッと我に帰って、急いで刀を鞘に収めると、僕に返して来た。


「あっ、ありがとうございました。一度でいいから国宝を見てみたかったんです」

「うん。国宝と言われるほど膨大な妖力を宿した刀は他にはないからね。烈火闘刃を覗いて」

「そうですね、大事にしまっておいて下さいね」

「わかってるって。悪いことに使う奴が現れたら、大変だもんね」


僕らが国宝の話しで盛り上がっている間に、時間はあっと言う間に過ぎて、もう直登校しなくてはならない時刻になった。


「そろそろ急がないとね」

「はい、そうですね」


何とか支度を済ませると、亜修羅のいる部屋に向かった。しかし、すでに出かけた後だった。僕らには、一声もかけないで行くなんて・・・・。


いつもだったら、きっと、一言でも声をかけて行ってくれるだろう。でも、声すらかけてくれなかった。


「凛君、そんなに落ち込まないで下さい。修さんも、きっと急いで学校に行かなくてはならないことがあって、止むを得なく行ったんだと思いますよ?」


桜木君が肩を叩いて慰めてくれたけど、気分が元通りに戻らない。何だか、凄くショックで、話すのも嫌だった。


「・・・・ねぇ、桜木君。今日は学校休んじゃおうか」


沈黙の次に言った言葉がこれなので、桜木君は驚いたが、ちゃんと訳を聴いてくれた。


「どうしてですか?」

「昨日から、亜修羅の様子が変だからさ。学校でも何か起こらないかと思って心配なんだよ」


「・・・・体調が悪くないのに休むのは、あまりいい方法ではないと思うのですが・・・・。そうですね。確かに、いつもの修さんとは違いますね。僕も心配です。今日は学校を休みましょう」

「じゃあ、さっそく尾行してみよう」


と言うことで、勝手に休みを決定した僕たちは、急いで亜修羅の学校へ向かった。今日は、もう変な奴らも学校に登校した後だったらしく、いなかった。(本当は、電話をして学校側に休みを知らせなくちゃいけないらしいんだけど、今日は特別だ!)


僕らは裏門をよじ登ると、校内に忍び込んだ。それから、亜修羅の教室の下まで歩く。


そして・・・・見つけた!


丁度いい位置に大きな木が植えてあったので、そこに隠れるようにして、亜修羅の様子を伺うことにした。この時、亜修羅が窓際でよかったと思った。


「とくに変わった様子はないようですけど・・・・」

「うん。ボーッとしているけど、指差されたらちゃんと反応してるしね」


木の枝に立って、上をじっと見上げる。かなりの高さのところにいるから、足を踏み外したら無傷じゃすまないけど、足元を見ないで亜修羅を見張り続けた。


しかし、ジッと亜修羅を見ているのも段々暇になって来た。


「ねぇ、どこか他のところに行こうよ。もう飽きちゃった」

「もうちょっと見て行きましょうよ。せめて、給食の時間になるまで」

「・・・・」


僕は暇で暇で仕方がなく、木の枝から取った芽みたいなものを亜修羅がいるガラスめがけて投げた。すると、窓は閉まっているものだとばかり思っていたけど、閉まっていなくて、そのまま、亜修羅に命中。


亜修羅は、当然、「なんだろうな?」と言う顔でこちらを向いた。


僕らは、慌てて葉っぱが生い茂っている方向に動く。桜木君は、移動に間に合ったけど、僕は間に合わなくて、とっさに体を後ろに倒して、コウモリのように足で木の枝にぶら下がった。


「凛君、退屈なのはわかりますが、もうちょっと考えて下さいよ。もう少しでばれちゃうところでした」


亜修羅は再び前を向いたのを確認すると、そのまま勢いをつけて木の枝に座った。


「うん、わかった。ところで、今、何時?」

「三時間目の終わりぐらいですね」


桜木君が時計に目をやった時と同時に、校内にチャイムが鳴り響いた。


その後にガタガタと椅子から立ち上がる音が聞こえる。それから、日直が号令をかけた後、授業は終わった。


「あれ?何だか割烹着を着ている人がいるけど?給食の時間じゃないの?」

「・・・・ああ、本当ですね。僕の時計、一時間きっかり遅れていたようです。もう、給食の時間です」

「ねぇ、何か買いに行こうよ」

「そうですね。さすがにお腹が空いて来ましたし」


僕らは意見が一致したので、近くのコンビニまで買出しに行った。と、そこで出会ったのは・・・・。言いたくもない、大体検討はつくと思うから、あえて言わない。


そいつらは、相変わらず僕等に敵意をむき出しである。本当に心当たりがないから、困っちゃうんだよね。


「どうしよう、このままじゃ捕まっちゃう」

「あそこの病院に助けてもらいましょう」


桜木君が指差した病院めがけて僕らはダッシュ。そして、病院の自動ドアが開いた向こうに人がいる。しかし、僕らは全速力で走って来たので、急に止まることは出来ない。急ブレーキは無理だ。そして、その人にもろにぶつかり、お互い吹っ飛ばされた。


近くにいた看護婦さんやらが、僕らのことを助け起こしてくれて注意をする。僕らが事情を説明すると、看護婦さん達に、「今度からは、出来るだけ他の建物に駆け込んでね」と言われてしまった。


僕らは苦笑するしかなかった。確かに、病院以外のところに駆け込めばよかったのだが、ここが一番に目に入ったから・・・・みたいなことで病院に突っ込んで来ちゃったんだ。


「あっ、君達は、昨日の二人じゃないか」


そう言われて、僕等が突き飛ばしてしまった人を見ると、鳴瀬さんだった。まだ頭に包帯を巻いているけど、解けかけている。きっと、僕らがぶつかった拍子に解けてしまったんだろう。


「ああ、鳴瀬さん。すみませんでした。大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だけど、二人は、何かあったの?」

「まぁ、はい。ちょっと不審者に追いかけられて・・・・。まだ外に隠れているかも知れないんですけど・・・・」


「そっか。じゃあ、しばらくの間、俺の病室にいていいよ」

「ありがとうございます。本当にぶつかってごめんなさい」


僕らは、鳴瀬さんの後に続いて病室に入った。その途端、お腹がグゥ~と鳴った。


「あの・・・・僕ら、まだ昼食食べてないんですけど、この病院ってそう言うのを売ってますか?」

「ああ、売ってるよ。売り場は、さっきの入り口を右に曲がった突き当たりにあるところだよ」

「ありがとうございます」


僕らは、恥ずかしいのと空腹感で、いそいそと病室から出ると、鳴瀬さんに言われたところに行った。


「この病院、結構広いんだね」

「そうですね、ここまで広いとは思ってなかったです。予想外でした」


病室のドアの前で、僕は大切にしまってあった冥道霊閃を落としてしまった。


「大丈夫ですか?」

「うん、何とか」

「傷ついたりしてないですか?仮にも国宝ですから、傷なんかつけたら、大変なことになりますから」


「大丈夫。冥道霊閃って、意外と丈夫だから。前に、トラックに刀身を踏まれた事があるけど、びくともしなかったから」

「それは凄いですね・・・・」


苦笑しながら桜木君は言った。そこで、やっと病室の前にいるのだと思い出して、慌ててその話をやめた。でも、聞こえていたみたいだ。


「ねぇ、さっき、国宝とか、冥道霊閃とか言ってたけど、それって何?」

「ああ、えっと・・・・」

「どうしましょうか?」

「いいんじゃない?」


僕は勝手にそう決めると、鳴瀬さんに説明した。


「えっと、これは冥道霊閃って言う魔界の国宝の一つの武器なんだ。これを一振りすると、冥道を開くことが出来る」

「見せてくれる?」

「どうぞ」


「ちょっと、いいんですか?そんなに簡単に渡して」

「うん。大丈夫」


桜木君の言葉に、僕はうなずく。鳴瀬さんは、とても興味深そうにじっと見ていたけど、しばらくしたら返してくれた。


「ありがとう」

「いえ、大丈夫です。国宝と言っても、両親の形見みたいなものなので。これが本物かどうかはわかりませんから」


最後に一応付け足しておく。知り合いに、間違ったことを教えたくなかったんだ。


僕は、冥道霊閃を大切にしまうと、鳴瀬さんと話した。桜木君も、それにつられて一緒に話す。


話はあっと言う間に盛り上がって、時間のことを思い出したのは、それから五時間近く経ったころだった。


「あっ、それじゃあ、僕達帰ります」

「ああ。じゃあ、またね」

「ありがとうございました」


僕等はお辞儀をすると、病室から出て、帰路についた。


「修さん、あれからどうなったんでしょうね?」

「どうだろう。帰って来たらわかるんじゃないかな?」


家に帰ってみると、家にはまだ帰って来ていないらしく、鍵がかかっていて、明かりも消えていた。


「もう少ししたら帰って来るんだと思いますよ」

「そうだね。帰ってすぐにいなくても、焦ることはないよね」


しかし、亜修羅は一向に帰って来なかった。もう、九時近くになるのに。これは、いくらなんでも遅過ぎる。


外に出てみたけど、亜修羅らしき人影は見えなかった。ため息をついて扉を閉めた時、ポストに何かが入っているのがわかった。


取り出して見ると、白い紙が四つ織にして、押し込まれていた。その紙を開いてみると、こう書いてあった。


『犬神の凛、お前の仲間、妖狐亜修羅を捕らえた。返して欲しければ、国宝の冥道霊閃を持って、十時までに佐々並森に来い。来なければ、人質を殺す』


僕は一瞬目を疑ったが、その紙をくしゃくしゃに丸めると、握りつぶした。


そうだ、国宝と言うことは、こう言うことも起こり得るんだ。そう簡単に人に話すことじゃないんだ。


初めて国宝と言うものの重さを知って、自分がベラベラと軽口でしゃべっていたことを怒りたかった。


「どうしたんですか?」

「僕、佐々並森に行って来る!!」

「ちょっ、ちょっと待って下さい!」


後から追いかけて来る桜木君を無視して、僕は全力疾走で佐々並森に向かった。


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