複雑な気持ちです・・・・。
「ただいま~!」
「おお、おかえり、友美」
「うん、ただいま!」
出迎えてくれたおばあちゃんに声をかけると、急いで二階にある自分の部屋に向かった。
どうしておばあちゃんが出迎えてくれたのかと言うと、私のお父さんとお母さんは、随分前に事故で死んじゃったんだ。だから、私の親の代わりが、おじいちゃんとおばあちゃんなんだ。
一気に階段を駆け上って自分の部屋に入ると、ベットに倒れ込んだ。今日は、なんだか色々あって、疲れちゃったんだ。
ため息をつきながら、机の上においてあるカレンダーを見て、改めてため息をつく。世間では、今日はクリスマスと言われて盛り上がってる日だけど、私の家は、パーティーをしない。
正しく言うと、出来ないって言えばいいのかな?普通に生活をするだけで結構精一杯だから、パーティーなんか出来ないんだ。子供の頃は、やっぱり、パーティーが出来なくて悲しいなって気持ちもあったけど、最近は、これっぽっちも思わなくなった。
でも、今年は、なぜか悲しくなった。多分、今年になって悲しくなったのは、クラスのみんなが、クリスマスパーティーのことで楽しそうに話しているのを聞いてしまったからかもしれない。
自然と気分が落ち込んで来て、慌てて首を振る。
ダメだ!私のとりえって言ったら元気ぐらいなのに、それすらなくしちゃったんじゃ、長所がなくなっちゃう!
ちょっと論点がズレてるかもしれないけど、気にしないでおこう!
「よしっ、宿題でもやろう!」
そう思ってベットから起き上がると、部屋着に着替えて机に向かった。しかし、中々進まない。
・・・・そう言えば伊織君、授業が始まる前、女の子に呼び出されてたような・・・・。
聞き耳を立ててた訳じゃないんだけどね、ヘッドホンから声が漏れてたから、相手が女の子だってわかったんだ。それに、その女の子と随分仲がよさそうだった。
もしかしたら、今日の夜、デートに誘われたりとかしたのかな・・・・。
そこまで考えて、慌てて首を振る。そうかもしれないけど、私に、それを邪魔する権利なんかないし、それに、私は一回伊織君にフラれてるんだもん・・・・。
そう考えるけれど、何だか落ち着かなくなって来る。別に、まだ、その子とデートするってことが事実だともわかってないのにこんな風になるのはおかしいとは思うけど、そうなってしまうんだ。
何だか、そんな自分が嫌になって、宿題を放り出したままベットに寝転がっていると、インターホンが鳴った。
私は飛び起きると、階段を下りていき、玄関の扉を開ける。そこにいたのは、黒いスーツをバッチリ着こなした男の人で、私は思わず怯んでしまった。まさか、そんな人が私の家を訪ねて来るなんて思わなかったんだもん。
「石村友美様ですか?」
「はっ、はい、そうですけど・・・・あの、どちら様でしょうか?」
私がそう聞くと、その人は無言で懐を探り、一枚の封筒を差し出して来た。
「これは?」
「パーティーの招待券です」
「えっ?」
「強制はいたしません。しかし、出来れば来て頂きたいと・・・・」
「はい・・・・」
「それでは、私はこれで失礼いたします」
男の人はそう言ってお辞儀をすると、何事もなかったかのように歩いて行った。
しばらくの間、ただ呆然と立っていたけれど、ハッと我にかえって、受け取った封筒の中を確認してみた。
すると、中から出て来たのは、綺麗な模様の描かれた紙に、手書きで「招待券」と書かれた紙と、一枚のメモが入っていた。そこには、ただ一言だけ、こう書かれていた。「OKなら、迎えを寄越す」
私は、どうしていいのか全くわからなくて首をかしげるけれど、とりあえず、その紙をリビングのテーブルに置く。
実を言うと、この家の食事は私が作ってるから、出かけたくても出かけられないんだ。だけど、諦めることも出来なくて、私はしばらくの間、その紙をジッと見たまま考え込んでいた。
すると、奥から突然おばあちゃんが出て来て、私は慌ててその紙を隠す。
「どうしたんじゃ?」
「うっ、ううん!なんでもないの!気にしないで!!えっと・・・・どうしたの?お腹空いちゃった?それなら、今から夕飯の支度するね!」
私がそう言ってキッチンに向かおうとした時、おばあちゃんに呼び止められる。
「行って来なさい」
「えっ?」
「パーティー。招待されたんだろう?それなら行って来なさい」
「でっ、でも、夕飯の支度とかしなくちゃいけないし・・・・」
「そんなのは私がやっておくさ。だから、気にしないで行っておいで」
そう言って、おばあちゃんはキッチンに行こうとするけど、私はキッチンへの道を塞いだ。
「大丈夫!そもそも、この招待状、本物かどうかわからないしさ、ほら、おばあちゃん!そこに座ってまってて!」
「でも・・・・」
「いいからいいから!」
私は、半ば強引におばあちゃんをリビングの椅子に座らせると、キッチンに戻った。
本当は、少しだけ行ってみたいと言う気持ちがあったけど、そもそも、この招待状が本物かもわからないんだから!と首を振ると、急いで夕飯の仕度を始めた。