理解者が一人でもいてくれる人は、とても幸せな人
「あの・・・・そろそろ、腕を離してもらえませんか?」
「おお、悪いな。つい、引っ張って来ちまって・・・・」
「あの・・・・どうかしたんですか?なんだか、急いで家を出て来た様な気がしたんですけど・・・・」
「まあな。男の面子をたたせてやろうと思ってな!」
「面子・・・・ですか?」
僕がそう聞くと、竜さんは、慌てて自分の口を塞いだ。
「あぶねぇ・・・・。守ろうとしたのに、ばらしちまうところだったぜ・・・・。誘導尋問とは、中々やるな、明日夏!」
「えっ・・・・あっ、いや・・・・」
別に、誘導尋問をしようとした訳じゃないのにそう言われて、僕はちょっと驚いたけれど、あまり聞いちゃいけないことなのかなと思って、話を逸らすことにした。
「そう言えば、黒川君、今までクリスマスプレゼントをもらったことがないみたいなこと言ってましたけど・・・・ご家族と、あまり仲がよくないんですか?」
「んー、まぁ、仲がよくないと言うかなんと言うか・・・・。怖がってるって言った方がいいかもな」
「怖がってるんですか?」
「ああ。ほら、あいつから聞いたと思うけど、昔は今よりも力の暴走が凄くてな、みんなから怖がられていたんだ。暴走している時と、普段の遊の性格が違うって言うのは、みんなわかってたと思うけど、やっぱり怖かったんだろうな。みんな、遊を恐れたんだ。もちろん、親もな」
「そうだったんですか・・・・」
「ああ。だから、遊の心はドンドン人を遠ざけるようになった。自分が恐れられてることがわかってるから、人に近付こうとしなかったんだ」
「・・・・」
僕は、ゆっくりうなずきながら、竜さんの話しを聞いていた。
「だけど、ある時、一人の子供に出会った。そいつは、暴走している遊のことを怖がりもせずに、無言で助けた。それが、恭介だ。最初は、どうして自分なんかを助けたんだろうって遊は不思議に思ったらしい。でも、そんなことを聞く勇気がなくて、ただお礼だけを言った。そうしたら、恭介は、こう言ったんだ。『似た者同士、これから、仲良くしていかないか?』って。これ、六歳の時に言ったんだぜ?信じられないだろ?」
「たっ、確かに・・・・とても、六歳とは思えないです・・・・」
「だろ?んで、今に至るってことだ」
「はぁ・・・・」
急に短縮されて、思わず変な声が出てしまったけど、少しだけ黒川君と番長の話が聞けてよかったと思う。
「まぁ、あいつらはお互い、相手だけしかいないと思ってたからな、絆はそれだけ深いってことだな。で、まぁ、昔のこともあるから、遊は未だに人を恐れてる部分があってな、恭介以外の奴は恐れてたんだが、今日、お前にああ言ってもらえて、恭介以外に、初めて自分の存在が認められて、嬉しかったと思うぜ?」
「そうなんですか・・・・!それなら、僕は嬉しいです!でも、竜さん達のことはそう思ってないんですか?」
「んー、俺達は、あくまで遊の表面上しか見てないからな、だけど、お前は、あいつの闇を見ても、怯えたり怖がったりしないで、優しい言葉をかけてくれた。だから、お前が、恭介に続き、二人目の理解者だと思うぜ」
そう竜さんに言われて、僕はなんだか恥ずかしくなって来る。僕は、理解者って言う程黒川君の事情を知らない。でも、信用してくれてるんだなと思うと、嬉しかった。
「明日夏は、よくも悪くも素直だから、そこがいいのかもな」
「そっ、そうですかね・・・・?」
「おうっ、俺が言うんだから間違いねぇって!」
「はっ、はぁ・・・・」
喜んでいいのか落胆すればいいのかわからず、僕は、ただ困惑した表情で竜さんの方を見ていた。
「おっ、そう言えば、いつの間に家についてたのに、つい、外で話してたな」
「そっ、そうですね。ちょっと冷えて来ましたね」
「まぁ、色々とあると思うが、遊を裏切るようなことはしないでやってくれないか?」
「はい!それは、しないと約束出来ます!」
「ん。そう言ってもらえると、俺としても助かるぜ」
竜さんはそう言って僕の頭をグシャグシャと撫でるけど、よく考えてみたら、僕と竜さんは同い年なんだよね・・・・。
そう思うと、嬉しいのか嫌なのか、なんとも言えない複雑な気持ちになって、ため息をつく。
「おっ、悪いな、なんとも言えない気持ちにしちまってよ。よく考えりゃ、明日夏って、俺と同い年だよな。どうも、年下が多いせいか、こんな褒め方しか知らなくてよ、悪いな?」
「いえ、気にしないで下さいよ」
「まっ、お詫びと言っちゃなんだが、ケーキで我慢してくれないか?」
「はい!」
僕は、嬉しそうにうなずいた後に、自分が恥ずかしくなって、慌てて首を振った。すると、そんな僕がおかしかったのか、竜さんは笑った後、家の中にいれてくれた。