心を読める人の前では、ツンデレは通用しません
「そう言えば、水樹君や琥珀君は何やってるの?」
「うーん、あいつらのことだから、どうせ遊びに行ってるんじゃねぇか?」
「いつもそうなの?」
「まあな・・・・あいつら、いっつも一緒にいるからな」
「なるほど・・・・」
「まぁ、もうそろそろ暗くなるし、帰ってる頃だとは思うぜ。水樹達に何か用でもあるのか?」
「ううん。今日は休みのはずなのに、見かけないなって思ったからさ」
「まぁ、あいつら、いっつもどっかに行ってるからな。家で大人しくしてるってことの方が珍しいぜ」
「そうなんだ・・・・」
まるで、僕達みたいだなと思いながら竜君の話しを聞く。僕らも、結構外にいることが多いからさ。・・・・って、こんなこと言うと、亜修羅に、「お前に引きずられるから仕方ないんだ!」とか言われちゃいそうだな・・・・。
「修って・・・・ツンデレなんだな」
「ええ、そうです!とてつもないほどのツンデレなんです!前に比べれば、大分言葉はキツくなくなったけど、時々グサッと来るんですよね・・・・」
「でもまぁ、デレがあるだけいいじゃねぇか。俺ん家には、デレもないただのツンツンがいるからよ、羨ましいぜ」
「えっ・・・・誰?」
「琥珀のことだぜ。あいつ、俺が凄くよくしてやってるのによ、つっかかってばっかりで、水樹にしか懐かねぇんだ。ムカつくぜ」
「懐くって、犬みたいじゃん!」
「いいんだ!まぁ、あいつは犬じゃねぇけど、そんな細けぇことは気にしないぜ!」
「確かに、色々考えたらめんどくさいもんね」
「だろ?」
そんなことを話しながら歩いていると、いつの間にか竜君の家に到着していてびっくりした。前を見ないで歩いてたから、よく人とぶつからなかったものだと思うよ。
竜君に鍵をあけてもらって家の中に入ると、朝出て来た時よりも、靴が一個多いことに気づいた。もしかしたら、誰かお客さんが来ているのかもしれない。
「ん?この靴、修のじゃねぇか」
「えっ!?靴でわかるの?」
「まあな。俺、人の心も読めるけど、物の心も読めるんだ。まぁ、今の場合は、物の記憶を見たんだけどな。そんで、修のだってわかった」
「なるほどっ!・・・・と言うことは、ここに来てるんだね!」
亜修羅が来てると思うと、なんだかテンションが上がってきて、走ってリビングの中に入って行く。すると、リビングの椅子に座って、陽君達と話をしていた亜修羅が、うるさそうにこっちを向いた。
「おい、お前が迷惑をかけてないか見に来たのに、早速迷惑かけてるみたいだな」
「何さ、そんなに意地張っちゃって!本当は会いに来てくれたんでしょ!」
「は?なんで会いに来なくちゃならないんだよ?」
「寂しくなったんでしょ?」
僕がそう言うと、亜修羅はなぜか赤くなって反論して来た。なんで赤くなるのかわからないけど、きっと、寂しいとか言われて、恥ずかしくなったんだろうね。
「ばっ、馬鹿!俺が寂しい訳ないだろう!」
「そんなに慌てなくても大丈夫なのですよ~!僕にはわかってますから!!」
「お前は・・・・!!聖夜以上にめんどくさい奴だな!」
「ふふん、僕は、別にめんどくさいって思ってないからいいもんね~」
「全く、口の減らない奴だ。もういい、俺は帰る!」
亜修羅は本気で怒ってしまったのか、コートを持ってリビングから出て行こうとしたけれど、後から入って来た竜君に腕を摑まれて、リビングに連れ戻されてしまった。
「何するんだ!」
「何って、これからみんなでケーキを食うんだぞ、あっ、修は甘いのは苦手か・・・・。じゃあ、コーヒーでも一杯どうだ?」
「・・・・わかったよ」
竜君の言葉に負けたのか、亜修羅はため息をつきながら椅子に座った。少々からかい過ぎたようだ。でも、仕方がないじゃないか!久しぶりに会えて・・・・と言っても、まだ、三日も経ってない程なんだけど、いつも一緒にいる人がいないと、やっぱり寂しくなっちゃうよね?
きっと、亜修羅もそう感じてるんだろうと思ってからかってみたけれど、そう思ってたのは僕だけみたいだ。
「全く・・・・俺は、休憩しにここに来たのに、まるで意味がないじゃないか」
「そんなに怒らないでよ、僕が悪かったからさ!」
「・・・・別に、もう怒ってない。めんどくさいからな」
「ちょっ、それどう言う意味ですかー!なんか、その言葉ムカつくんだけど!」
「それが、俺の気持ちだ」
「ううーーーっ」
僕は、何かと突っかかって来る亜修羅に不満を抱いた。いつもも、そこまでノリがいい方ではないけど、ここまで悪くはない。なんだか変な気持ちがする。
「・・・・もしかして、何かあった?」
「は?」
「いや、だってさ、なんだか変だからさ・・・・」
「気のせいじゃないのか?」
本人はそう言うけれど、僕はどうも納得出来ず、裏の手を使うことにした。
「ねぇ竜君、亜修羅、なんて思ってるのさ?」
「ん?」
「なんだか亜修羅の様子が変だからさ、ちょっと教えてよ」
「んー」
竜君はそう言ってしばらく黙り込んだ後、急に笑った。その笑いに亜修羅が気づいてこっちを向いて来るから、僕は慌てて話しを逸らして、小声で聞いてみる。
「どうして笑ったのさ?」
「まぁ、凛と同じってことだよ」
「・・・・どう言うこと?」
「まぁ、本人はああは言ってるものの、凛に会いたがってたってことだな。まさに、ツンデレだ」
「ほうほう・・・・」
そう言われて、亜修羅の様子がおかしい訳がわかった。
「なるほどねぇ・・・・、うん、満足だよ!」
「は?お前、頭でもおかしくしたのか?」
「いいえ!亜修羅がツンデレだと改め感じただけでございます~!」
「・・・・ふぅ」
亜修羅は、なんだか意味ありげにため息をつくと、僕の隣に座っている竜君を睨んだ。
「お前が言ったんだな?」
「おっ、俺が何を言ったって言うんだ?」
「・・・・これから、覚悟しておけよ」
亜修羅はそれだけ言うと、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「あれ?修さん、どこに行くの?」
「もう帰る。休憩は終わりだ」
「そっ、そうなんだ・・・・」
「頑張ってね!」
僕がそう言うと、亜修羅は、なぜか僕の頭を小突いて来た。どうしてかはわからないけど、とりあえず、プラスに考えよう。
「じゃあ、俺は帰るが、竜には迷惑かけるなよ」
「うっ・・・・」
「大丈夫だぜ、修。お前が厳しい分、俺は甘やかすことに決めたからな!」
「・・・・はぁ、子供にはしつけが必要なんだが・・・・まぁ、いいか。せいぜい、俺がいない間、竜に可愛がってもらえよ」
亜修羅はそう言うと、微笑を浮かべながら出て行った。なんだか、本当に保護者みたいで、僕は内心びっくりしてる。
「・・・・ツンデレだな」
「そうだね、とことんツンデレだね」
「でもまぁ、ああは言ったけど、全部を許す訳じゃないからな!」
「・・・・はい」
「でないと、俺が修に怒られるからな」
竜君はそう言って僕の頭をポンポンと叩くと、リビングに入って行った。