人を信用するのは、とても難しいことであって、とても簡単なのです
「そろそろ帰った方がいいんじゃないかな?」
「そうだなぁ・・・・おいお前等、そろそろ帰った方がいいんじゃねぇか?」
「僕達のことは気にしないで大丈夫ですよ」
「そうか・・・・あっ!」
「どっ、どうしたの?竜さん?」
「シュークリーム買うの忘れてたぜ・・・・。お前等は、先に帰っててくれ」
「わかった!じゃあ、光さん達と一緒に帰ってるね!」
瑠憂君はそう言うと、二人の言葉も聞かずに走って帰ってしまった。僕はと言うと、どうしていいかわからず、竜君の隣で立っていた。
「凛は帰らねぇのか?」
「あっ、うん。付き合うよ」
「おっ、おう・・・・」
竜君は少し困惑した顔をしたけれど、歩き出した。
あの後、僕らは三軒のラーメン屋に行った。そして、これから四軒目に行こうかと言う話をしていた時に、竜君がシュークリームのことを思い出したんだ。
「なんだか不思議な言い回しだな?」
「きっ、気にしないでよ・・・・」
「おお、そうだ。お前は、今日出かけないのかよ?」
「えっ、なんで?」
「いや・・・・彼女とかいねぇのかなってよ」
「かっ、彼女!?」
「まぁ、凛自身が女みてぇだけどな!」
「う・・・・そんな言い方ないじゃんか!それよりも、竜君はいないの?」
僕がそう言うと、竜君は少し難しそうな顔をした後、ため息をついた。
「凛は、今まで人を好きになったことってあるのか?」
「えっ・・・・まっ、まぁ・・・・あるかな?」
「俺は・・・・ねぇんだ」
そう言う竜君の顔がなんだか悲しそうで、僕は、どう言葉を返したらいいのかわからず、かなり慌てた。
「そっ、そうなんだ・・・・。でっ、でもさ、竜君はまだ若いんだし、それに、早いうちに初恋をしなくてもいいんじゃない?」
「まぁ・・・・なんつーか、これから先、人を好きになるようなことはないだろうなってことはわかる」
「どっ、どうして?」
「うーん、難しいけどな、そんな予感がする。今まで、そんな感情を持ったこともねぇし」
「・・・・そうなんだ」
一応肯定の言葉を話したものの、本当は、そんなことはないと思っていた。確かに、今まで人のことを好きになったことがなくても、きっと、いつかは好きになることが出来ると思う。
「まぁ、仕方ねぇよな。色々あったし」
「色々・・・・?」
「ああ、いろいろなことがあって、人を信用出来なくなった。だから俺は、生涯誰も愛すことはないだろうって」
「・・・・?」
やっぱり、竜君には、僕が思う以上に辛い過去があるのかもしれない。本当は、それを聞いてみたかった。でも、過去の傷と言うものは、そう容易く触れていいものではないとわかってるから、聞かないでおいた。
「そうだよね、人を信用することって、とても大変だと思う。でも、それと同じくらい、人を信じるって言うことは、簡単なことなんだよ」
「・・・・難しいこと言ってるなぁ?」
「うん。少なくとも、水樹君達といる時は、本当の自分でいられるんでしょ?」
「どうなんだろうな・・・・」
「僕もね、昔色々あって、人を信じれなくなってたんだ。まぁ、最初に亜修羅に近付いたのは僕だけどね、本当は、いいように使って騙すつもりだった。でも、いつの間にかそんな気持ちがなくなっていて、今では、家族だって言えるほど信用出来るようになった。だからきっと、竜君も信用出来る人に出会えると思うよ!女性とは限らないけど・・・・ね?」
僕がそう言って竜君の方を見ると、うなずきながら笑ってくれた。
「そうだな・・・・。って、んなのはどうでもいいんだ」
「・・・・へ?」
「お前の彼女の話だろ?なんで話し逸らしてんだよ!」
「ええぇ・・・・別に、いないもん。悪いの!?」
「そっ、そんな怒るなって・・・・」
「でもさ、なんでそんなこと聞いて来るのさ?」
「いやさ、栞奈っているだろ?あいつが修のこと気になるみたいだからよ、デートに誘ったらどうだって言ったんだ」
「へぇー、で、どうしたの?」
「ん?それで、お前もどっか行くんじゃないのかなってな」
「残念ながら、僕にはそんなことないよ!」
「・・・・よし、それなら、寂しい者どうし、ケーキでも食うか!」
「なっ、寂しい?」
「おうおう、気にすんな!ほら、お前もケーキ好きだろ?」
「うっ、うん・・・・」
僕は、なんだかよくわからないまま、竜君に連れられて、ケーキ屋の中に入った。
「そうそう、ここのケーキ屋でな、修達と会ったんだよ」
「そうなの?」
「ああ。ここでな、クリスマスケーキをキャンセルしに来たあいつらと会ったんだ」
「げっ・・・・亜修羅達、本当にクリスマスケーキをキャンセルしに来たの!?」
「ああ。そこに、偶々クリスマスケーキを買いに来た俺が会ったって訳だ」
「そうなんだ・・・・」
亜修羅のことだから、もしかしたら、キャンセルするとは言ったものの、実はキャンセルしてなかったと言うことを想像してたんだ。でも、本当にキャンセルする予定だったんだね・・・・。
「おいおい、大丈夫か?」
「えっ?何が??」
「ほら、好きなケーキ選べよ。なんでも買ってやるから、元気だせ」
「うん!」
少しだけ傷心していた僕の心は、竜君の言葉によって完治した。やっぱり竜君は、亜修羅とは違うね!凄く優しいもん!!
「・・・・そりゃどうも」
「あっ、そっか、聞こえちゃってるんだもんね」
「ああ。で、何が欲しいんだ?」
「じゃあ、これと、これ」
「遠慮しなくていいぞ?これもクリスマスプレゼントだと思ってよ」
「遠慮なしでいいのか・・・・ほんとに?」
「ああ、どんと来い!」
「じゃあ、遠慮なくします!ここから、ここまでのケーキを、五個ずつ!」
僕のその言葉に、さすがの竜君も引きつった笑顔を浮かべたけど、本当に買ってくれた。これには、言った僕もびっくり。ふざけ半分で言った言葉だから、本当に買ってくれるとは思ってなかったんだ。
「本当によかったの?」
「ああ!俺も沢山食いたいし、それに、俺はお前の保護者じゃないんだからな、優しくしてもいいだろう」
「おおっ!亜修羅とは優しさが違いますね!さっすが~!」
「いててて、叩くなって・・・・。お前の力は強いんだからよ・・・・」
「あっ、ごめん」
つい、いつもの調子で竜君を叩いちゃって、慌てて謝る。亜修羅達を叩く強さで叩いちゃったら、普通の人間にはかなり痛いと思うからね。
「さぁ、早く帰ろうぜ!あいつらが何かしでかしてないか不安だからな」
「そっ、そうだね・・・・」
陽君達はともかく、瑠憂君は結構やんちゃだから、竜君がいないことをいいことに、暴れてるかもしれないからさ。