誕生日だからと言って、何でも許される訳ではありません
「ふぅ・・・・中々面白いところだったな」
「・・・・」
「どうした?なんで機嫌が悪いんだ?」
「・・・・お前が学校中をうろうろするから、余計に動き回って疲れたんだよ」
「ふん、そんなことで疲れるなんて、少し運動不足なんじゃないのか?」
せっかく学校に連れて来てやったと言うのに、聖夜はこの態度だ。俺はなんだか嫌になって来て、深いため息をつく。
普段から学校は退屈だと思っていて、時間が経つのも長く感じる。しかし、今日ほど長く感じたことはなかった。それはきっと、俺の隣でテンションを高くしている聖夜のせいだ。
俺にそんなことを言われているとは知らない聖夜は、無邪気に窓の外を指差して行った。
「ほら、あんなに夕焼けが綺麗じゃないか!もっと元気を出せ!」
「・・・・お前は思い通りになったんだから嬉しいだろうが、俺は、全くもって楽しくないんだよ」
「なっ、なるほどな・・・・。でも、今日は僕の誕生日だ。それで許してくれないか?」
「お前の誕生日なんて、俺には関係ないんだがな・・・・」
「・・・・少し、はしゃぎ過ぎた用だな」
俺の呟きが、聖夜に思った以上のダメージを与えたようで、今まで高かった聖夜のテンションが一気に下がった。そうなると、少し悪いことをしたような気がして来る。
最初の頃に比べて、こいつは随分と子供らしくなった。それが、本来のこいつなんだろう。ただ、今までは、その本当の自分を封じ込めてただけで・・・・。そう考えると、「まぁ、いいか」と言う気になってしまうのだ。
俺は、テンションの下がってしまった聖夜を見ないように窓の外を眺めていたが、なんとも言えない気持ちになって、呟くように言った。
「・・・・まぁ、確かに、今日はお前の誕生日だし、俺もそれなりに楽しかったからな。だから、許してやる」
「・・・・」
聖夜は、俺の呟きが聞こえていないのか、ずっと黙ったままだった。そうなると、やっぱり様子が気になる。
俺は、出来るだけ首を動かさないように聖夜の方をチラッと見た。すると、ずっとこっちを見ていた聖夜と目が合ってしまって、俺は、気まずい気持ちになった。
「なっ、なんだよ!俺が悪かった!・・・・これでいいか?」
「別に、怒ってない」
「は?」
「なんだか勝手に色々と考えていたようだが、僕は、怒ってもいなければ落ち込んでもないぞ」
「・・・・」
「一人で勝手に怒って謝ったりしてただけなんだ」
聖夜はそう言うと、そんな俺を笑うかのように笑った。それを見て、全てが俺の勘違いなんだとわかり、一人で色々なことを考え、謝ったり怒ったりしたことが無償に恥ずかしくなった。そして、それと同時に、とても馬鹿馬鹿しく思えて来て、思わずため息がもれた。
「とても楽しそうですね、聖夜様」
「ああ、そうだな。こいつは中々面白いぞ。今までにいなかった人種だ」
「・・・・お前、年上に向かって、『こいつ』はないだろう?」
「しかし、僕は、どう言っていいのかわからないから・・・・」
「それに、お前は楽しいだろうが、俺にとってはいい迷惑なんだ。お前のおもちゃとして遊ばれるなんてごめんだぞ」
「・・・・そうは思ってない。人間らしいから、楽しいんだ。おもちゃとは思ってないぞ」
聖夜の言葉に、俺は今までの怒りが自然と静まって行った。言ってる意味はあまりわからないけれど、馬鹿にされている訳ではないらしい。
「まぁ、からかいがいがあると言ってもいい」
「・・・・何?」
「なっ、なんでもないぞ・・・・。それよりもだ、今日の社会見学は楽しかったぞ、先生」
「先生?」
「理由はどうであれ、僕のことを見守ってくれた先生だ。感謝してる」
「あっ、ああ・・・・」
なぜ感謝されるのか全くわからず、俺はうろたえた。なんだか、俺が理解するよりも早く話が進んで行って、頭が混乱して来た。
「なんで、そんなに不思議そうな顔をするんだ?感謝されるのは嫌いか?」
「お前は、話をコロコロと変えすぎだ。意味がわからん」
「・・・・僕は子供なんだ。言葉をよく知らない。仕方ないことだ」
その言い方に少しカチンと来て口を開いたが、それと同時に車が止まり、運転していた奴に、降りろと催促された為、仕方なく車から降りた。