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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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何か変

僕(何か、亜修羅が落ち込んでいて無理そうだから、代わりに僕がやることにするよ!)は、桜木君と顔を見合わせる。


「僕、人間の女の子にフられる妖怪を初めて見たよ。ギネスブックに載るかな?」

「そんなことはありませんよ。ギネスブックに載るのは、ちゃんと判定する人がついて、認めてもらわないと載りませんよ。それに、今、修さんは傷ついていると思います。そんなことを言っていいのでしょうか?」

「いいの、聞こえてないから」


最もなことを言う桜木君の言葉を、上手く丸め込んで、再び亜修羅を観察し続ける。


むこうを向いているからどんな表情をしているかわからないけど、「落ち込んでいるのかな?」と言うことはわかる。


「そう言う問題でしょうか?」

「まぁ、ほっといてあげるのが、今僕らに出来ることだからさ。ほっといてあげようよ。無闇に声をかけようものなら、半殺しに遭うよ」

「えっ・・・・」

「だからさ、僕らは帰ろう?」

「はい。でも、あそこには修さんがいますよ?」

「大丈夫、今は非常事態だから、犬神の姿に戻る。そのまま桜木君も運んで行ってあげるよ。そこまで奴らもついて来ないでしょう?」

「はい・・・・しかし・・・・」


桜木君の言葉を聞き流し、サッと元の姿に戻ると、慌てる桜木君を抱えてさっさと近くにある家の屋根に飛び移った。


何とか亜修羅にはバれていない・・・・と思った。


「ちょっと、降ろして下さい!」

「そんなに暴れたら、本当に落としちゃうよ?」


お姫様抱っこのような状態のまま、桜木君が暴れる。でも、下をちらりと見てからおとなしくなった。


「すみませんでした・・落とさないで下さい・・・・」

「大丈夫、落とす気はないから」

「はぁ・・・・」


桜木君は僕の答えを聞いて、安堵のため息を漏らした。それにしても軽い。大きな羽を持ってるみたいだよ。


「凄く軽いね」

「いや、僕、重いですよ。多分、妖怪からしてみれば軽いと思うんですけど・・・・」

「そう言えば、今何時かな?もうとっくに給食の時間かもね」

「いえ、もう給食の時間はとっくに過ぎてますよ。多分、五時間目か六時間目くらいじゃないですか?」

「ええっ!!!?いつもお昼抜いたことないのに・・・・。あっ!」

「なっ、なんですか?その明らかにまずそうな・・・・悲鳴に近い声は・・・・?」


桜木君の問いは、屋根から落ちて行くことで答えを表した。お昼を抜いたと言う事実を知って、驚いた時に足が滑っちゃったんだ。


「大丈夫、ここから落ちても死なないから」

「僕は死んじゃいますよ!」

「あれ?って、人間の姿に戻っちゃったよ!!」

「・・・・何とか今まで危機を乗り越えて来ましたが、僕の命もここまでなんですか・・・・」


僕らは、重なって屋根から落っこちた。僕が下で、桜木君が上。でも、僕の下は固いコンクリートじゃなかった。コンクリートのはずなのに。


下を見ると、何かを踏んづけている。きっと、布団か何かだろう。


「こんなところに布団が落ちててよかったね」


その時、前に伸びていた何かがもぞもぞと動き出した。


「いえ、違いますよ!人間です、人ですよ!!」

「そんなぁ、桜木君。いくら桜木君が軽いって言ってもさ、僕は四十あるんだから。この布団、つぶれちゃってるよ」

「いや、今動きましたから。手が動きましたから。早く退きましょう」


桜木君に腕を引かれて、布団の上から退く。すると、それは桜木君の言う通り、人間だった。


「大丈夫ですか?」

「・・・・」

「あの・・・・」


桜木君が、その人を起こすと気絶していた。しかも、頭から血を流している。


「あああああ・・・・血が・・・・」

「だから言ったじゃん!つぶれちゃってるって」

「そんなことより、早く病院に連れて行きましょう!!」


桜木君は、その男の人の足を引っ張って、病院まで連れて行こうとするけど、太ってはいないと言っても、男の人だから六十はあるんじゃないかな?桜木君が苦戦している。


「凛君も手伝って!」

「桜木君は後からついて来るだけでいいよ。僕が引きずって行くから」


桜木君の変わりに足を持つと、そのままコンクリートの上をズルズルと引きずって行く。


「ああ、凛君!頭をガンガンぶつけてますよ!」

「しょうがないなぁ、担ぐしかないか」


今度は腕を引っ張って、自分の背中に男の人を乗っけると、ズンズン歩き出した。その様子を驚いたような目で見ている桜木君。


「凄いですね、凛君。僕とそんなに体重変わらないのに、普通の顔をして背負えるなんて」

「まぁ、妖怪だからね」


そんな感じで近くの病院まで男の人を連れて行った。


「大丈夫でしょうか?」

「うん、そんなに傷も深そうじゃなかったし。大丈夫だと思うよ?」

「・・・・大丈夫ですかねぇ」


その時、看護婦さんが僕等を呼びに来た。何でも、お礼を言いたいらしい。


看護婦さんの後について病室に向かう。


「あの、怪我は大丈夫ですか?」

「・・・・結構ひどい怪我だったけど、あの人の生命力は凄いわ。普通の人なら、一週間は意識不明なところなのに、もう意識が戻って起き上がってるわ」

「そうですか」


僕は、安心している桜木君に向かって親指を立てた。


「ほら、言った通り。大丈夫だよ!」

「うん、よかった」

「他の患者さんはお休みしてる時間だから、静かにしてね」


看護婦さんは扉を開けて、僕らを促す。僕らは、看護婦さんが言った言葉にうなずくと、中に入った。


「奥に入って右よ」

「ありがとうございます」


病室に入って奥に行くと、包帯を頭に巻いた男の人がベットに座っていた。


「あの・・・・頭、もう大丈夫なんですか?」

「ああ、もう大丈夫だよ。でも、君達、確か空から降って来たよね?」

「ああ・・・・えっと・・・・。はい、ちょっと屋根に上って遊んでいたら足を滑らしてしまって。すみませんでした」

「えっ・・・・!?」


僕の言い訳に驚く桜木君。でも、男の人は納得したようにうなずいた。


「俺も、よく屋根に上って落ちたよ」

「ええ・・・・!?」


二回目の驚きが桜木君を襲ったけど、僕はそんな予感がしていたから、驚きもしなかった。


「それでよく頭を打つから、回復力が凄くなっちゃってね。それより、ありがとう。ここまで運んで来てくれて。俺、重かっただろ?」

「ああ、いえ。朝飯前です。日ごろから三百キロの物を持ち上げているんで」


日ごろから、三百キロのものを持ち上げているって言ったのは、本当なんだよ?信じないだろうと思うけど、僕は物凄く力持ちだから、それぐらいは全然平気なんだ。


「ははははは、冗談が上手いね。まるで本当に聞こえるよ。ところで、名前は?」

「僕は、丘本宗介。この子は、桜木明日夏君です」


僕が紹介すると、桜木君は無言でお辞儀をした。


「そっか、丘本君と桜木君だね。改めてありがとう。俺は、鳴瀬七海。変な名前だろう?よく、女、女ってからかわれる」

「いい名前だと思いますよ?」

「そっか、ありがとう」


それから、僕等はしばらく話をした後、鳴瀬さんと別れた。


大分時間が過ぎて、下校途中の生徒の姿が垣間見れるほどになっていた。


「今から学校に行っても遅いよね?」

「でも、鞄置いてきちゃいましたし、戻った方がいいと思います」

「でも、また出歩くと変な奴等に捕まっちゃうと思うよ?」

「はい、それも承知の上で、何とか頑張りましょう」


さほど頑張ることでもないだろうと思いながら、やっぱり追いかけて来る奴等を払い除け、鞄を取ると、急いでアパートに戻った。


しかし、亜修羅の姿が見当たらず、中に入ることが出来ない。


「では、隣の部屋に行きましょう。朝、修さんが隣の部屋の鍵を渡して下さったので」

「そうだね、亜修羅が帰って来るまではお邪魔させてもらうよ」


桜木君は、鍵を開けて中に入れてくれた。これは言葉では言えないけど、人間のにおいは強い。別に、変な意味じゃないけど、妖怪はにおいを消すことが出来るから、そう感じちゃうんだと思う。だから、部屋中桜木君のにおいがする。あっ、変な誤解はしないでね!僕はまともな妖怪だから!!


「何ボーッとしてるんですか?」

「いや、何でもないよ」


桜木君に聞かれて、慌てて首と手を振ったから、首が外れるかと思った。


それから、しばらく桜木君のところに居ながらも、外に耳を傾けていた。しかし、亜修羅が帰って来る様子がない。そろそろ不審に思った頃、やっと鍵を開けるカチャッと言う音が聞こえた。


「帰って来た!」

「来ましたか?」


二人で外に出て行くと、丁度亜修羅が入って行くところだった。それに声をかけようとしたけど、亜修羅は全く気がついていないようで、目の前でバタンとドアを閉めてしまった。


「もしかして、まだ落ち込んでいるのかな?」

「わかりません。でも、いつもの修さんとは雰囲気が全く違いましたよね。何と言うか、しぼんだ風船のように」

「よし、励ましに行ってこよう」


中に入って行くと、亜修羅はまるで心が入っていないかの用に、一点を見つめたまま、鞄も下ろさないで立っていた。


「元気出しなよ!まぁ、人間にフられる妖怪は初めて見たけどさ」

「・・・・」

「どうしたの?」


僕が目の前に回って覗き込むと、やっと僕達に気がついたようで焦点が合った。


「いや、何でもない」

「そんなにショックだったの?」

「・・・・」


亜修羅は、感情のこもっていない声で答えた後、首を振った。顔も無表情で、何だか心を丸ごと抜かれたような感じだ。


かなり重傷なので、どうしようかと迷ったけど、あんまりベタベタくっつくなって言われてるし、今の亜修羅をからかったって、何の面白みもないから、今日は離れることにした。


「桜木君、今日は君の部屋に眠らせてくれる?」

「あっ、はい。わかりました」


そうして僕らは、亜修羅を置いて部屋を出た。


何だか、いつもと雰囲気の違う亜修羅が心配ではあったけど、下手に首を突っ込むと怒られそうなので、しばらくはほおって置くことにした。


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