原因は・・・・
「おい!」
僕は、体を思い切り揺すられて目が覚めた。そこは、僕が気絶した倉庫の中だった。
「あっ、あの!!」
僕は、とっさに起き上がろうとしたけれど、体が思うように動かずに、番長に助け起こされた。
「大丈夫か?」
「ぼっ、僕のことはいいんです!それよりも、黒川君は!?」
「大丈夫だ、安心しろ。遊ならここにいる」
番長が指差した先を見ると、まるで死んでしまったかのように目を瞑って動かない黒川君がいた。その姿を見て、僕は涙が出て来た。
「どうして泣く?遊は死んでないぞ?」
「死ぬ、死なないは、あまり問題にはならないんです。ただ、なんだか、凄く悲しくなって・・・・。あっ、あの・・・・他の人達は?」
「ああ、軽症がほとんどだが、一人だけ精神をおかしくした奴がいた。でも、それ以外は全員無事だ」
「なっ、ナイフで刺された人は?」
「なりかけた奴が、精神をおかしくした。でも、体に傷はない。俺がギリギリのところで止めたからな」
「・・・・そうですか」
それを聞いてなんだか力が抜けたのか、僕はそのまま倒れそうになった。そこをなんとか番長に支えてもらって、座りなおす。
「・・・・歩けるか?」
「まだ痺れが続いてるんですが、なんとか・・・・」
「そうか。本当は手伝ってやりたいんだがな、こいつを背負うから・・・・」
「大丈夫ですよ、僕は壁伝いで歩いて行くんで」
本当は、自力で立てるほど回復はしてなかったけれど、番長にあんまり無理も言えないから、僕は自力で立ち上がった。
それを確認した番長は、黒川君を背負うと、僕のペースに合わせて歩き始めた。
本当は、色々と聞きたいことがあった。でも、なんだか話しかけるのが怖くなって来てしまったんだ。あの時は、かなり必死だったから躊躇うこともなく電話をかけることが出来たけれど、今はそんな状況でもない為、話しかけることは出来なかった。
お互い、何も言わないまま倉庫から出る。外は、思っていたよりも暗くなっておらず、僕はそこまで長い間気絶していた訳ではないんだなとわかった。
「・・・・何も聞かないのか?」
「えっ!?」
「・・・・ずっと黙ってるから」
「えっ、いや・・・・」
まさか、「話しかけ難いので!」と言えるはずもなく、僕は、どうしようかと只管考える羽目になった。しかし、そんな僕の心が読めたかのように、番長が口を開いた。
「ここまで巻き込んでおいて説明しないのは悪い。だから、聞いて来ないのなら、俺から話す」
「・・・・でも、いいんですか?黒川君がいないところで勝手に・・・・」
「それは、遊が悪いんだから仕方がない。何か言ったら、黙らせるから大丈夫だ」
「はぁ・・・・」
僕は、友達にも厳しい番長にビクビクしながらも、話を聞くことにした。素直に話を聞いておかないと、殴られそうだったんだ。この状態で殴られたら、いくら普通の人間よりは丈夫だと言っても、きっと倒れてしまうに違いないからね。
「遊は、音を自在に操ることが出来る。それと同時に、意識チェンジを行うことも出来る。意識チェンジとは、曲によって、感情を入れ替えることが出来るんだ。例えば、悲しい曲を聴けば、嬉しい時でも悲しい気持ちになることが可能だ。
遊は、比較的めんどくさがり屋だから、滅多に喧嘩はしないが、喧嘩をする時は、いつも自らの闘志を高めていたんだ。しかし、あまりにも闘志が高まり過ぎるのも危険だ。だから、その調整として、楽器などに触れることで、その音を頭の中に流し、調整をしていた。ここまでの話、理解出来たか?」
僕は、何とか話をまとめようと必死になりながらうなずいた。まるで、中学生なのに高校の授業を聞いてる気分だ。
「しかし、その調整として持っていたフルートを奪われた遊の頭の中では、フルートの音は聞こえなくなり、不安定な状態になる。それが、あの怪音現象の理由だ。あれは、遊の頭の中で収拾しきれなくなった音が外に出ることによって起きることで、その場合は遊本人もコントロール出来ない。だから、お前にもその音が聞こえてしまったんだ。
そして、その怪音は、遊の意識を引き戻すことによって一端納まる。意識を取り戻すと言うことは、コントロールが可能になるからな。しかし、またしばらくすると、今度はさっきよりも大きな音となって溢れ出る。そうなった場合は、最悪な状態だ。そうなると、遊は意識を失い、完璧に別人格となる」
「えっ!?」
「・・・・どうした?」
「えっと、いえ・・・すみません、続けて下さい」
僕は、もう何がなんだかわからなくなって来て、頭がパンパンになって来た。でも、もう少し聞いたら、わかるような気がして、もう少し聞いてみることにした。