お金は時に、人間関係をも狂わせる
「・・・・お前はいいよな、金の力で退学を逃れてんだからな」
「なっ、何言ってんだよ!?」
「俺だって、最初から怒ってた訳じゃないんだぜ?お前の性格は知ってる。だから、お前の自慢話には慣れてた。でも、退学の件については許せる域を超えてた」
「・・・・どう言うことだよ?説明しろ」
「その様子だと、お前は知らないみたいだな。自分が、金のおかげで城地に通っていられるって事」
「なっ!?」
「お前だって不思議に思ってたんだろ?どうして俺と同じくらいの成績の自分は落ちなくて、俺達よりももっと頭のいい奴が落ちたかって。その事実がこれだよ」
「・・・・どう言うことだよ?訳わからないぞ?」
「だから、お前が今も城地に通っていられるのは金のおかげで、おまえ自身の力じゃないってことだよ!」
「・・・・」
まさかの事実に、城地に通っている男の子は黙り込んでしまった。僕はと言うと、城地学園と言う学校自体が遠い存在だから、訳のわからない状態になっていた。でも、一つわかることは、城地はいい学校じゃないなってことだ。
「最初の頃は、当然金持ちも集ってこなかった。でも、今では、城地卒業ってだけで簡単に就職出来るほど有名な学校になって来てる。そうなると、当然、金の力で子供を城地に通わせたいって思う親も増えるだろう。だから、実力で城地に通っている生徒は退けられて、金のある生徒が入って来るんだ。お前の場合もそうだ。親が金を払ってるから、城地に通ってられるんだぜ?」
「・・・・そんなの、どこに証拠があるんだよ!」
「お前の親父と校長が話してるのを聞いたんだよ。丁度、俺が退学させられた直後にな。最初は、傷つくと思って言わないでおいた。でも、お前は俺を馬鹿にした。だから、真実を言ってやったんだよ!」
「・・・・」
城地に通っている男の子は目を丸くして驚いていたけれど、顔を思い切りしかめてうつむいた。すると、その反応を見て、城地に通っていない男の子は、少し言い過ぎたと思ったのか、複雑そうな顔をして視線を逸らした。
僕は、何も言えずに耳が痛くなるほどの沈黙を耐えていた。僕が口出し出来る次元の話じゃないから仕方ないことだけど、本当は二人の気持ちを慰めてあげたかった。でも、城地に通っていない僕が言っても、もっと嫌な気持ちになるだけだろうと思って、黙っていた。
すると、今までずっと黙っていた竜君が、静かに言った。
「・・・・悪いのは学校だ。お前等は、傷つけられた被害者なんだ。だから、もう喧嘩はするな」
「俺達が被害者だって?」
「ああ。お前は、金と言うどうでもいいもののせいで退学させられ傷ついた。こいつは、金と言うもののおかげで城地に通っていられると言うことを知って傷ついた。どちらも傷ついたから、お前等は被害者。悪いのは、お前等を傷つけた城地なんだ」
「・・・・」
「だから、お互いを責めるのはやめろ。どちらも悪くないんだ。まぁ、それが気に食わないなら、どちらも悪いと思えばいい」
「・・・・」
二人は、うつむいたまま何も言わなかった。二人が何を考えているのか僕にはわからないけれど、二人が怒ってないのは確かみたいだ。
「・・・・悪かったな」
「え?」
「お前のこと馬鹿にするようなこと言って。俺なんか、金がなかったら、城地にいられないって言うのにな・・・・。最低だな、俺」
「・・・・俺だって悪かった。いくら怒ったとはいえ、お前を傷つけるようなこと言って・・・・」
二人はショボンとした様子で謝りあった。それを見て、やっと僕は安心した。
「そうそう、そうやって謝れば、仲直り出来るんだ」
「・・・・なんだか、訳がわからないが、とりあえず、悪かったな」
「ああ、俺達の喧嘩に巻き込んじまってよ」
「気にすんなよ。と言うか、俺よりも、店の中にいる奴らに謝っとけ。俺は迷惑とは思ってねぇけど、奴らは思ってるかも知れねぇからな」
「・・・・ああ」
二人は申し訳なさそうにうなずくと、店の中に入って行った。
「じゃあ、俺らは行くか」
「えっ、どこに?」
「どこって、次の店に行くんだろ?」
「あっ、そうだったね!」
「それに、優さんのシュークリームだって買って帰らなきゃいけないしよ、早くいかねぇとな」
「そうだね。じゃあ、みんなを呼んで来るよ」
僕はそう言うと、ラーメン屋の中で待ってるみんなを呼びに行った。