クリスマスデート・・・・ですか?
「あっ、伊織君、ちゃんと来たんだね!風邪、ひけなかったの?」
「・・・・まぁ、そんなもんだ」
「そっか・・・・うん、嬉しい!」
「別に、お前の為に来た訳じゃない」
「あっ、うん、ごめん・・・・」
俺は、ため息をつきながら席に座ると、後ろからついて来た聖夜を俺の前に座らせる。今日学校に来ている生徒は全員ではない為、空席が結構あるのだ。その中で一番近かったのが、俺の前の席だったのだ。
「あれ?その子は?」
「知り合いだ」
「今日学校に来たのは、僕が連れて行けと言って、無理矢理つれて来たんだ」
聖夜がそう言うと、女は少し驚いたような表情をしたが、なぜか、聖夜に向かって礼を言った。それには聖夜も驚いて、不思議そうな顔をしている。
「なんで、僕にお礼を言うんだ?」
「だって、あなたが伊織君を学校に連れて来てくれたんでしょ?だから、嬉しくて」
「・・・・どう言う意味だ?」
俺がそう聞くと、その女は赤くなって顔を伏せた。俺は、訳がわからずに聖夜の方を向くと、聖夜はわかっているようで、俺を馬鹿にしたような目でこちらを見て来た。
「お前、わかってるなら教えろ。わからないことで馬鹿にされるのは、物凄く腹が立つ」
「あっ、やっ、ダメ!!」
「わかってる」
「・・・・お前」
「この人が言うなって言ってるんだ。だから、僕は言えない。言う時は、この人自身が言うんだ」
聖夜は、余計訳のわからないことを言うと、パソコン起動し、パソコンにヘッドホンを挿した為、俺の言葉にこれ以上答えないつもりだろうと思い、ため息をついた。
「で、どう言う意味なんだ?」
「えっ!?」
「さっきの意味。教えろ」
「えっ、あの・・・・うーん」
「なぁ、ちょっといいか?」
俺が女を問いただしてると、突然後ろから声をかけられた。誰だろうか思って振り返ると、そこには、どこかで見たような顔があった。が、思い出せない。
「・・・・誰だ?」
「ちょっと来い」
そいつはそう言うと、俺の腕を引いて、強引に教室の外に連れ出した。そいつは、俺とほとんど身長が同じくらいで、痩せ型。そして、顔は芸能人みたいな奴だった。俺は、そんな奴をどこかで見たような気がした。しかし、それがどこだったかが思い出せない。
そんな風に俺が考え込んでいる中、そいつは俺の腕を引いてズンズン歩いて行く。この表現だけを聞くと凛みたいだが、力加減が全然違うから、こいつの方が、腕への負担が少ない。凛の場合、俺の腕が外れそうになるほど引っ張るから、キツイと言ったらキツイのだ。・・・・いや、そんなことはどうでもいいんだ。
「おい、どこに連れてくつもりだ?」
「もうちょい待ってな」
「・・・・はあ」
俺は、ため息をつきながらそいつに引っ張られて行った。いつまで引っ張られていくんだと思っていたその時、やっとそいつは俺の腕を離し、立ち止まった。その場所は屋上で、かなり用心深い奴だなと思った。
「やっと立ち止まったな。で、お前はどこの誰だ?」
「・・・・その様子だと、見せた方が早いか」
そいつはそう言ったかと思うと、どこからか白いマントを取り出し、それを着た。そして、そのマントで自分の姿を隠すように包むと、横に一回転した。その間に着替えを済ませたようで、着替えた後の姿を見て、俺はやっと思い出した。
「やっと思い出したんだね」
「・・・・普通、口調が変わってたら気づかないだろ?」
「そんなことはないよ。僕だって直ぐに気づいたんだから」
そう言われて、こいつと出会ったのは昨日の夜だったこと。そして、その時の俺の姿は妖怪だったことを思い出して、目の前にいる怪しい男を見た。
「そんな目で見ないでよ。僕は怪しくない。それに、君だって判断したのはこの子だしね」
そう言うと、どこからか飛んで来た鳩を手に止まらせて、俺に差し出して来た。
「・・・・その鳩が、俺だって教えたって言うのか?」
「そう言うこと。ああ、そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕は、新見水斗。これが本名。で、この時は・・・・」
水斗はそう言って、再びマントで身を隠し、一回転をした。すると、さっきまであったマントと帽子が消えて、今度は、さっき着ていた制服の姿になった。
「有澤瑞人。こっちの姿では、普通の高校生として過ごしてるんだ。まぁ、普通と言うよりは、羽目はずし過ぎてる感もあるけどなぁ、まぁ、いいよな。うん」
俺は、コロコロ姿を変える水斗に、少し驚いていた。まず驚いたのは、その着替えの速さ。まるで、着替えている素振りが見えなかったのだ。それから、服を変えるだけで、違う奴になりきれること。
そして、一番驚いた事。それは、違う奴になりきったと同時に、声自体を変えたこと。その変えたと言うのが、凄いくらい代わるのだ。まるで、別人がしゃべってるんじゃないかと思うほどに違う声だった為、俺も気づかなかったのかもしれない。
「お前、声まで変えられるのか?」
「そうだなぁ~。まぁ、声を変えられるぐらいは当たり前だろ?つか、お前だって変えられるだろ?」
「・・・・馬鹿だな、お前みたいな器用な奴が早々いるか」
俺の言葉に、そいつはカチンと来たようで、ズンズン近付いて来たが、俺は、それを無視して、屋上から教室へ戻ることにした。
正直に言うと、俺は、そんな風に器用に声を変えることは出来ない。かと言って、あいつに向かって、出来ないと言うのは何だか嫌だった為、逃げるような形になったが、無言であいつの前から去ったのだ。言葉を言うよりは、まだ、行動に移した方がいいと思ったのだ。
俺が教室に戻ると、それと同時に、聖夜が俺の方を向いて、自分のつけていたヘッドホンを俺に渡して来た。
「なんだよ?」
「知り合いから電話が来てる」
「?」
俺は、不思議に思いながらも、ヘッドホンを耳につけて椅子に座った。すると、なぜか、栞奈の声が聞こえた。
「あっ、えっと・・・・もしもし?」
「栞奈か。どうした?」
「あっ、通じてる?」
「ああ、普通の電話よりもよく聞こえるぞ」
「そっか・・・・。あっ、まぁ、別にそれはどうでもいいんだけどさ、今からちょっと校門前に来れる?」
「まぁ、別にいいが・・・・なんでだ?」
「ほら、亜修羅って寒さに弱いでしょ?だから、マフラー編んでたんだ。それが、今さっき出来たから、届けに来たの」
「そうか。じゃあ、今から行く」
「わかった。じゃあ、待ってるね」
会話が終わって、俺がヘッドホンを外すと、聖夜が、「終わったか?」と聞いて来た為、ゆっくりとうなずいた後、登校する時に着て来たコートを羽織って校門まで走って行った。
急いで校門のところに行くと、栞奈は、冬の格好とは思えないような薄着で立っていた。
「お前、そんな格好してたら風邪ひくぞ?」
「大丈夫だよ。ほら、私は亜修羅と違って寒さに強いから、これくらいの寒さなら大丈夫なの。はい、これ」
そう言って差し出されたマフラーの色は、明るい赤色で、俺は少しうろたえた。もう少し控えめな色にして欲しかったのだ。
「・・・・もしかして、気に入らなかった?」
俺の様子を見てか、栞奈がおずおずと聞いて来た為、俺は慌ててマフラーを受け取った。せっかく編んでくれたのに、受け取らないのは悪いと思ったのだ。
「いや、そうじゃない。ちょっと考え事をしてただけだ」
「そっか、それならよかった!」
「ああ、それじゃあ、そろそろ行くぞ」
「あっ、待って!」
「ん?」
「あのね、今日の夜、大丈夫かな?」
「今日の夜?」
「うん、今日の夜ね、駅前広場の噴水がイルミネーションで綺麗になるらしいんだ!だから、それを一緒に見に行きたいなって思って!」
「イルミネーション?」
「うん、キラキラして、凄く綺麗になるの」
栞奈はそう言って楽しそうにしているけれど、俺は、そのイルミネーションとか言うもののよさが全くわからない。しかし、特に用事と言うのもなかった為、うなずいた。
「ほんと!?」
「ああ。そんなに驚かなくてもいいんじゃないか?」
「あっ、うん。そうだね、ごめん。じゃあ、今日の夜七時に、駅前広場に集合ね!」
栞奈はそれだけ言うと、逃げるように走って行ってしまった。俺は、なんだかよくわからないけれど、そろそろ授業が始まりそうな為、急いで教室に戻った。