クリスマスって、なんでしょう?
「こう言う車、好きじゃないか?」
「・・・・別にいい」
「こう言う車しか持ってないんだ。勘弁してくれ」
そう言った聖夜の表情は、本当に勘弁してくれと言う表情だった為、これは本当なのだなと思った。
「別に、いいって言ってるだろ。俺が勝手に苦手だと思ってるだけだ。それに、こうやって車で送ってもらってる訳だ。そんな文句も言えないだろう」
「そっ、そうだな!」
「・・・・全く」
「なっ、なんだよ!お前がいいって言ったんだぞ!」
「気にするな、お前のことじゃない」
俺は、急にムキになって怒り始めた聖夜を宥めると、窓の外を眺めた。景色がどんどん流れて行って、何だか不思議な感覚だ。
よく考えてみると、普段から、車と言うもの自体にあまり乗ることがないから、勝手に苦手意識を持っているのかもしれない。
外は完璧にクリスマスカラーに包まれていて、何だか複雑な気持ちになる。
魔界では、クリスマスと言うことでここまで盛り上がったりしないから、どうしたらいいのか戸惑ってしまう。だから、同じ妖怪であるはずの凛が、クリスマスではしゃいでいたことに驚きを隠せなかったこともある。
クリスマスになったら、クリスマスツリーを飾って、クリスマスケーキを食べて、プレゼントをもらって。そんなの、子供が喜びそうなことだと思っていた。大人はそんなことに浮かれないだろうと思った。しかし、大人たちも結構はしゃいでいて、呆れることもしばしばあった。でも、それも平和だから出来ることで、そう言うことも大切なんだって思うと、むしろ、羨ましく思った。
・・・・結局、俺は何を考えて、言いたかったんだろうか?
色々考えているうちに、なんだか訳がわからなくなって来て、ため息をつきながら考えることをやめた。いつの間にか学校の前に到着しており、どうやら俺は、長い間、悶々とクリスマスループに流されていたらしい。
「ほら、行くぞ」
「ああ」
俺は、クリスマスを忘れる為に、首を振って車から降りた。そして、先に歩いて行く聖夜の後を追おうとした時、車の扉を開けていた運転手が、俺を呼び止めた。
「どうした?」
「今日は、聖夜様の誕生日なのですが・・・・」
「・・・・だから?」
「ですから、伊織様も一緒にお祝いしていただけないでしょうか?」
「なんで俺が?」
「聖夜様が気に入られているようですので・・・・」
「わかったよ」
俺は、ため息交じりにそう言うと、急いで聖夜の後を追いかけた。授業に遅れてしまうからと言うこともあったが、何よりも、聖夜が変なことをしないようにする為だ。あいつを野放しにするのは危険だと判断したんだ。
俺が思ったとおり、聖夜の周りには既にひとだかりが出来ていて、さっそく何かをしでかしたんだと思った。これから長い間、こんなことが続くなんてうんざりだなと思いながらも、俺は仕方なく聖夜と生徒達の間に割って入った。
「こいつがどうかしたのか?」
「どうかしたのかもこうしたのかもないだろ、伊織。こいつ小学生じゃないかよ。こんなところに連れて来ていいのかよ?」
「まぁ、今日はクリスマスだからな、なんでもありなんだ」
俺は、凛みたいな言い訳を言ってるなと思いながらも、嫌がる聖夜の腕を摑んで、教室へと引きずって行った。
幸いなのは、今日がクリスマスで俺達の学年以外誰もいないと言うことだ。だから、まだ、被害は最小限に抑えることが可能だろう。
「僕が、何かするとでも思ってるのか?」
「まあな。俺が監視してないと、危ないからな」
「失礼な・・・・」
「とにかく、俺から離れるなよ。なんだかんだ言って、お前のことは何も言わずに連れて来てるんだからな」
「・・・・仕方ないな」
一々反応にムカつくが、ため息をついて自分の教室の中に入った。何だか、色々と大変なクリスマスになりそうだ。