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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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人間界での生活

俺は、いつから道を踏み外したのだろうか?親父が生命を殺し、どんな風になって行ったか知っているはずなのに、何でも屋の仕事で殺しを引き受けている。それが、段々当たり前のように思えて来るのが自分でも怖かった。


その代わり、金は沢山入って来たから、楽にアパートを借りることが出来た。それに、学校へ入る手続きも。けれど、汚いことをした金で借りたアパートは内装が綺麗でも、くすんで見える。やはり、自分も親父のようになるのかと思うと、少し怖くなった。


だから、もう心を閉じることにする。冷酷と言う気持ち以外に蓋をし、外に出さないようにした。こうしたら、もう何も悩むことは無い。









「伊織君、どうしたの?」

「・・・・」


そうだ、今は学校にいるのだ。物思いにふけって忘れていたが、授業と言うものを受けているのだ。その間にボーッとしたら怒られる。最初の時にボーッとして痛い目にあったから、やめようと決めたんだ。


今話しかけて来たのは、隣の席の石村友美。俺がボケッとしてると、しつこく話しかけて来るうざい女だ。そいつが隣の席だから、ろくに考え事すら出来ない有様だ。


「伊織、ここの問題は?」


数学の教師が、聞いていなかった俺をわざと当てる。けれど、俺は何のためらいもなく答えを述べると、着席した。教師は得意そうな顔をしていたのに、俺が答えると、悔しそうな顔をしたが、一応「よくわかったな、眠っていたくせに」と皮肉を言った。この数学の教師も嫌いだ。うるさいし、めんどくさい。


俺が人間界で使っている人間での名前。それは、伊織修。俺は三週間ほど前に転校して来たのだ。出来るだけ注目を浴びないように細心の注意を払っているのだが、なぜか目立つ羽目になる。


俺は、妖孤としての能力など一切発揮していないのに・・・・。全て、俺の右隣にいる女のせいだ。こいつが纏わりついて来るから、他の奴らもつられて来る。だから、この女との縁を切りたいのだが、どうやったところで離れない。凄い執念と言うべきか・・・・。


そんな憂鬱な二時間目が終わり、休憩時間になった。すると、隣の女はそれと同時に話しかけてくるのだ。だったら、こっちはそれよりも早く逃げる。けれど、いつも捕まってしまう。なぜだか・・・・。こいつはエスパーだろうかと本気で思ったこともある。


「ねぇ、伊織君ってさ、どうしてあんまりしゃべらないの?それに、今だって明らかに嫌そうな顔をしてる」

「・・・・人の勝手だろう」


纏わりついて来る女を振り払う。その時、後ろから何かが飛んで来た。瞬時にそれをキャッチする。と言っても、見るだけでも面倒なので、後ろを向いたままでだ。


「凄い、伊織君!」


手の中にある消しゴムをピシッと一点の方向に向かって飛ばすと、そのまま教室を出て、屋上に行き、真ん中辺りで寝転がった。


人間界にいると、生活が狂いだす。それは事実だ。現に、人間界に来てからほとんど睡眠時間がない。こんな状態でいるから眠くなるんだ。


夜が開ける頃くらいまで仕事はびっしりな為、ほとんど眠っている時間はない。せいぜい、休み時間中だけだ。


そう思い返して来ると、睡魔が襲って来た。妖怪とて、休養は必要だ。


そんなことを思って気を緩めると、気がついた時には瞼が下りて来て、眠ってしまった。








どれくらい経った時だったかは知らないが、物音がした。その物音は目の前だ。


近づいて来た物のにおいすら感じなかった。そんな自分を責めながら急いで目を明ける。すると、目の前にいたのは、あのうざい女だった。


動きを止めた時、上から何かがパサッと落ちて来た。それは、ここの制服の上着だ。


「伊織君がいなくなったら、どこ行っても見つからなかった理由って、ここにいたからなんだね?」


そう言われて、しまった!と思った。いつもは鍵をかけておく屋上のドアだが、今日は、迂闊にも鍵を閉め忘れていた。これで、俺の時間はどれくらい減って行くんだ。ほとんどがここにいる時間なんだ。


「ねぇ、伊織君、私のこと・・・・嫌い?」


そう聞かれた時、なぜかうなずかなかった。ここまで嫌っているのに、なぜうなずかないのかは知らないが、そう言う自分が少し意外だったのは事実だ。


俺は、その問いにはえないまま、制服の上着を返すと、教室に戻った。もうすぐ授業が始まる。女もしばらくしてから戻って来たが、今度は俺に話しかけることはなかった。


それから何とか授業を終え、下校する時刻になった。いつもなら、この時にも女はしつこくくっついて来るが、今日は会いもしなかった。その分俺はストレスが溜まらず、気分がすっきりしていた。


何でも屋の仕事が始まるのは、午後九時から。今は午後四時だから、五時間の間は余裕がある。その時間は、学校の宿題や、依頼の整理などのことをしているから、直ぐに時間が過ぎるんだ。


下校の途中、道路を群がって塞いでいた連中と出会った。


「道路の真ん中にいるのは邪魔だ。どこか他のところで集まれ」

「何だよ、兄ちゃん?」


一人の男が肩を掴んだ。そして、ギュッと力を入れて来る。俺は、その手を二倍の力で握り返してやった。人間の出す力なんて、下級妖怪にも及ばない。そんなのの二倍なんて簡単だ。楽に百倍ぐらいは行けるんじゃないのか?


「いててててて」

「退くのなら離す。退かないなら、このままお前の手を握りつぶす」

「わっ、わかったよ」


男共は、俺が離すと急いで去って行った。ああ言う奴らは、一度締めれば懲りるはずだ。自分より強い相手にはひれ伏すタイプだろうな。そう言う奴が一番嫌いなのだが。


それからアパートに着き、鍵を開けて中に入る。部屋の中にはほとんど家具を置いていないから、引越し直後か引越し前によく間違われる。しかし、それには答えないで、いつも追い返すのだ。


学生鞄を置くと、宿題として出されたものを取り出す。それから、明日の時間割をそろえ、宿題に移る。


学校の勉強はさほど難しいものではないが、面倒だ。だから省くと、バツにされる。本当にめんどくさいものだ。


二十分程度で宿題を終わらすと、今度は押入れの中にある山積みの紙の束を取り出す。それに、氏名と依頼内容、報酬が書いてあるのだ。それに俺が同意したものだけ、実行すると言う何とも簡単なことだが、面倒なのは、引き受けた相手に知らせる手段。それが、手紙なのだ。しかも、一枚一枚丁寧に書いて行くからめんどくさい。


コピー機を買う余裕はあるが、家の余裕がない。だから、仕方なく手書きで書いているんだ。これで、五時間かけてやっている作業がわかったと思う。


届いた依頼に目を通し、実行するものだけ依頼主に手書きの手紙を書く。これを、ここ三週間ずっと繰り返しているのだ。いい加減飽きて来たが、何とか頑張っている。


いつの間に時間が過ぎて、午後九時を回った。


大きく伸びをすると、人間の変化を解き、元の妖孤の姿に戻る。それから、今日やる仕事の内容が書かれた紙を白装束の中に押し込むと、窓から外に出て、しっかりと鍵を閉めた。


依頼の内容とは、妖怪じみたことや、人間みたいなものもある。妖怪じみたことは、人を驚かすための道具を設置して来るとか。はっきり言って、妖怪の部類に入るかどうかは謎だが・・・・。人間みたいなものとは、新発売のゲームの順番待ちをしてくれとのことだった。他にも、隣の家がうるさいから静かにしてくれとか、重い荷物をどこどこまで持って行ってくれとか、ひどい時は子供の面倒を見ろと言われたことまであった。


しかし、どれも的確にこなして行って、ボーナスをもらえるほどだった。それだけ、何でも屋の仕事になじんでいると言うことになる。


今日も、朝の三時半まで仕事に費やし、それから二時間半は依頼の整理をし、学校に向かうために家を出る。それが毎日の繰り返しだ。


そんなことが毎回続くから、今日も同じなんだろうなと言う気持ちを隠しきれずにいた。


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