色々と事情のある者達
「ほんとに物騒だよね、鍵ぐらい閉めないと、泥棒に入られるよっていっつも言ってるんだけどさ、『別に、盗まれるものなんか一つもない』って言うんだよ」
「そうなんだ・・・・」
僕は、苦笑いをしながら黒川君の後について廊下を歩いた。ちょっと歩くと、左側にリビングがあるのが見えた。だけど、電気がついていなくて暗かったから、あれ?と思ったけど、黒川君は普通に歩いて行くから、僕もそのあとについて中に入る。
リビングには、普通のテーブルとテレビが置いてあって、普通の家よりは家具が少なめだけど、それ以外は、普通とあまりかわらなかった。
しいて言うなら、床に子供達のおもちゃが散乱していて、暗闇で歩くのはかなり危険と思われることぐらいだろう。
リビングの隣が寝室みたいで、襖が開いたまま、子供達が眠っている。番長も、一番小さい子を寝かしつけている時に眠ってしまったようだ。
「ほら、みんなが寝てるんだから、静かするんだぞ」
「は~い」
和馬君は素直にそう答えると、静かに洗面所に向かった。僕は、眠っている子供達をまたいで、空いている布団に女の子を寝かせると、布団をかけた。そして、安堵のため息を吐く。やっぱり、人を背負ってたりすると、落としちゃいけないとか色々気を使って、もの凄く疲れちゃうんだ。
「手、洗って来たよ!」
「よしっ、じゃあ、寝ようか」
「えーっ、遊兄は起きてるんでしょ?僕も起きてたい!」
「でも、ほら、時計見てみ?もう直ぐ十時だよ。いつもは九時に寝てるんだ。オーバーしちゃってるだろ?」
「でも、今日はクリスマスだもん!」
和馬君が言うと、黒川君はしょうがないなと言うような表情でため息をついた。
「それじゃあ、パジャマだけは着とけば?それで、十時になったら寝るんだぞ?」
「うん、サンタさんが来なくなっちゃうもんね!」
「そうだね。来なくなっちゃうから」
黒川君が言うと、和馬君は慌ててリビングから出て行った。多分、パジャマを取りに行ったのかもしれない。
「全く、子供にはきつく出来ないものだね」
「そうだね、なんでだろう?」
「うーん、やっぱり、自分より弱いとわかってるからかな?」
そんなことを言いながら黒川君は慣れた足取りで子供達を踏まないように部屋の奥に行くと、押入れの襖をゆっくりと開けて掛け布団を持って来た。そして、完璧に熟睡している番長にかけた。それから、やっとリビングにやって来たかと思ったら、今度は散乱しているおもちゃを片付け始めた。僕も、それを手伝う。
「何だか大変そうだけど、お母さんはいないの?」
「ああ、恭介の母親はね、入院してるんだ。それで、父親は既に他界してる。そんな状態だから、恭介がお金を稼ぐしか方法がなくて、自分の年齢を偽って働いてるんだ」
「そうなんだ・・・・大変だね」
「だからさ、恭介がバイトとかやってる間は、俺が面倒を見てるんだ。さすがに、バイト中は抜け出すことなんか出来ないだろうしね。後は、家の片付けとかも、俺の仕事なんだ」
「なんだか、お父さん役とお母さん役みたいだね?」
「まぁ、そんな感じだろうね」
「そう言えばさ、黒川君の両親はこんな時間まで外出してて怒らないの?」
僕がそう聞くと、黒川君は一回手を止めたけど、また直ぐにおもちゃを片付ける作業を再開した。
「怒らないさ。・・・・と言うより、俺がいないってこと事態わかってないと思う。両親は、俺よりも色んな面で優れている弟を可愛がってるからね。色々出来損ないな俺は、嫌な存在なんだ」
「・・・・」
そう言う風に黒川君が言っていても、僕は、何も言えなかった。「そんなことないよ」とか言って反論すればいいのだけれど、僕は何も言えなかったんだ。
「でもまぁ、それだって俺はいいんだ。俺よりも弟の方が出来のいい子だってわかってるから、悔しいとも思わないしね。俺がダメなのは事実で、弟が出来る。その事実が本当のことだから、俺は別に気にしないし」
「・・・・そうなんだ」
なんとかそれだけ呟くと、僕は再び口を閉じた。
僕の場合、両親がもともといないから、そう言う気持ちがわからない。そんな僕が、簡単に意見を言っていいところじゃないかなって思ったんだ。
「ごめん、何だかすっかり変な空気にしちゃって・・・・」
「ううん、気にしないで。僕が聞いたことだしさ」
「ありがとう」
黒川君がそう言った時、番長がモゾモゾ動いたかと思うと、ムックリと起き上がった。僕は、びっくりして飛び上がりそうになったのをなんとか堪えると、恐る恐る番長の方を向いた。
「ああ、起きたんだ。チビ達なら眠ってると思うよ」
「そうか・・・・悪いな、色々やらせて」
「気にしないで大丈夫・・・・と、今思い出したけど、和馬どうしたんだろ?」
「そう言えば、帰って来ないですね」
「ちょっと様子を見に行って来るよ」
黒川君はそう言うと、急いでリビングから出て行ってしまった為、残されたのは、僕と番長の二人だけだ。
最初は、黒川君がいるからそんなに怖くなかったけど、今は、何だかとても怖そうに感じる。・・・・寝起きだけど。
僕は、出来るだけ番長と目を合わせないようにする為に、おもちゃを片付けていた。目が合っただけでとんでもないことになりそうだったんだ。
「お前、さっき新見家にいただろ?」
「あっ、はい・・・・」
萎んでしまいそうな声でそれだけ言うと、自然と正座に座りなおした。これは、とっさにお辞儀をしてしまう癖とおなじような癖だ。
「遊を手伝ったのか?」
「てっ、手伝ったって程のことはしてないんですけど、一応は・・・・」
「そうなのか・・・・悪いことしたな」
「あっ、いえ、気にしないで下さい」
僕がそう言うと、番長はゆっくりうなずいた後、再び横になってしまった。もしかしたら、とても眠かったのかもしれない。
しばらくしてから黒川君が戻って来た。その手には和馬君がいたけど、熟睡をしている。どうやら、パジャマを取りに行って、そのまま眠ってしまったようだ。
黒川君は、和馬君を布団に寝かせると、大きなため息をついた。
「ああ、疲れた・・・・。あれ?恭介は?」
「さっき眠っちゃいました。相当疲れてたみたいで・・・・」
「そっか。じゃあ、俺も寝ちゃおうかな。そろそろ眠いし」
黒川君はそう言ったかと思うと、テーブルを部屋の隅におしやり、その場に寝転んで、そのまま眠ってしまった。
僕は、一瞬どうしようかと迷ったけれど、僕も段々眠くなって来たので、その場に寝転んで目を瞑った。