子供にとって、「寂しさ」とは一番の敵
「修さん、なんだか楽しそうですね?」
「だな。やっぱり、似たもの同士で気が合うのかもな」
「はい」
僕達は、そんなことを話しながら隣の部屋のソファに座って、竜さんが作ってくれた料理を食べていた。
「にしても、凛はどうしたんだろうな?」
「そうですね、そろそろ帰って来てもいい頃だと思うんですけど・・・・ちょっと、外を見てきますね」
そう言って立ち上がると、コートを羽織って外に出た。外に出ると、一気に気温が下がって、思わず身震いしてしまう。
雪は降ってないものの、かなりの寒さで、手袋をしてくればよかったと思うほどだ。しばらくの間両手をこすり合わせた後、ポケットに手をしまった。
そして、ため息をつきながら空を見上げた。空は、なんだか青くもなく灰色でもないような、微妙な色をしていた。今にも雪が降りそうな雰囲気だ。
僕は、毎年毎年、クリスマスになるとこうやってずっと空を見上げてたんだ。それが、僕なりのクリスマスを祝う方法だった。だから、今年、こうやってみんなでクリスマスパーティーが出来てとても嬉しいと思う。なんだかんだで、学校で開かれているダンスパーティーには出られなかったけど、それ以上に楽しめたと思う。
「桜木君だよね・・・・?こんなところで何してるの?」
「あっ・・・・」
僕は、思わずお辞儀をしてしまった。僕に声をかけて来てくれたのは、黒川遊君。年下なのに、お辞儀しちゃったよ。
多分、これは、高徳中の番長の友達って言うことがあるからかもしれない。
「そんな風にお辞儀なんかしないでよ。俺、桜木君より年下なんだし」
「あっ、ごっ、ごめんね、くせなんだ」
「そっか・・・・」
黒川君はそう言うと、ドアを開けて外に出て来た。すると、後ろから元気な子供達が沢山出て来て、静かだった辺りが一気に騒がしくなる。
「この子達、黒川君の兄弟なの?」
「違う違う!このチビたちは、みんな恭介の兄弟。だけど、恭介は忙しいから、俺が遊んでやったりしてる。で、今は、大分時間も遅くなって来たし、そろそろ家に連れて帰った方がいいかなって思ったから」
「そっか・・・・偉いね」
「全然、俺だって恭介に助けられることあるしね。そう思えば、こいつらの面倒を見るくらいは大丈夫。それに、なんだかんだ言って、一番こいつらの世話をしてるのは竜さんだしさ」
「そうなの?」
「そう。かなり面倒見のいい人でさ、頼んでもないんだけど、面倒を見てくれてるみたい。恭介の家、水樹君の家の裏だからさ」
それを聞いて、僕はただうなずくことしか出来なかった。確かに、それぐらいのことは平気でしそうだ。だって、出会ったばかりの僕らのことを泊めてくれたりするんだもん。普通じゃ出来ないことだよ。
「ほんとに竜さんっていい人だよ。俺も初めて会った時は驚いたよ。こんなにいい人が、こんなに近くにいるなんて思ってもみなかった。それでさ、弟の面倒を是非見て欲しいなと思うんだけど・・・・どうだと思う?」
「えっ!?どっ、どうって・・・・」
話の急展開ぶりについていけなくなってしまって、思わず声を荒げてしまう。そして、慌てて「静かに」と注意をされた。
「寝てるからさ」
「あっ、ごめんね。ちょっと驚いちゃって・・・・」
「ゆうゆ、早く家に帰ろう?」
「ああ、ごめんな、ちょっと話し込んじゃって・・・・」
そう言って、黒川君は、中々歩き出そうとしない男の子の手をひく。けれど、一向に歩き出そうとしない。
「やだやだ!まだ帰りたくない!もっと起きてたいもん!」
「ちゃんと言うこと聞かないと、恭介に言いつけちゃうぞ?」
「・・・・いいもん!僕、怒られても平気だもん!」
「ねぇ、帰ろうよ、ゆうゆ。眠いの・・・・」
「ちょっと待って・・・・って、遅かったか・・・・」
その女の子は、黒川君に寄りかかったまま眠ってしまった。明らかに大変そうな為、僕も手伝うことにする。
「あのさ、僕も手伝うよ。どうすればいいかな?」
「助かるよ。じゃあ、この子を背負って。ほら」
黒川君はそう言うと、自分に寄りかかって眠ってしまった女の子を片手で持ち上げて、僕の背中に乗せて来た。女の子を片手で持ち上げて来た時は、さすがに驚いた。
子供だから体重が軽いと言っても、結構重さがあるはずだ。それなのに、黒川君はそんな女の子を片手で持ち上げたから、とても驚いたんだ。
「凄い力持ちだね、びっくりしちゃったよ」
「そうかな?あんまり自分では自覚してないけど・・・・。ほら、行くぞ和馬」
「嫌だよ、僕、ここに残るもん!」
「なんでそんなにここがいいの?家がそんなに嫌なの?」
黒川君がそう聞くと、和馬君は黙り込んでしまった。しかし、しばらくしてから、ボソッと呟いた。
「家に帰ったら、みんないなくなっちゃうから。寂しいのやだもん」
それを聞いて、僕はなんだか胸が苦しくなった。確かに、子供の頃は一人にされることが一番怖かった。寂しいのが嫌だった。それがわかるからこそこんな気持ちになったのかもしれない。
僕は番長の家の事情をよく知らないけど、色々と大変なんだなと思った。
「・・・・大丈夫。今日は、恭介もずっと家にいるから、寂しくなんかない」
「でも、明日は?明日になったら、お仕事行っちゃうんでしょ?」
そう言われて、僕は違和感を覚えた。お仕事と言うのがバイトと言うこだとしても、番長はまだ十三歳だから、バイトをすることが出来ない。なら、なんでバイトなんて・・・・。
そう考えて、僕は慌てて首を振った。今はそんなことを考えているよりも、この状況をなんとかしないと。
「あのさ、僕なんかでよければ、明日行こうか?」
「いいの?」
「うん、冬休みって言っても、別にやることはないだろうし、それに、色々と大変そうだからさ」
「・・・・わかった。じゃあ、帰る」
和馬君はそう言うと、やっと歩き出した。僕は、なんとなくホッと胸を撫で下ろす。
「お兄ちゃん、名前はなんて言うの?」
「僕?僕はね、桜木明日夏って言います。よろしくね」
僕が手を差し出すと、和馬君がその手を握った。そして、離さなくなったから困ったもんだ。僕は、握手をするつもりで手を差し出したんだけどな・・・・。
そのまま水樹君の家の裏に回ると、こじんまりとした一軒家が建っていて、表札には「佐川」と書いてある。本当に、水樹君の家の裏側にあったよ・・・・。
「恭介、帰って来たよ~!」
黒川君はそう言いながら扉を開けて中に入った。鍵を開けている様子はなかったから、きっと、鍵をかけてない状態だったのかもしれない。
随分物騒だなと思いながらも、僕も家にお邪魔させてもらった。