似た者同士は喧嘩が絶えません
「そう言えば、凛はどこに行ったんだ?」
「そうですね・・・・。それに、竜さんの姿も見当たりません・・・・」
「どこに行ったんだかな・・・・」
ため息をつきながら近くにあった椅子に座り込む。部屋中に人がいる為、少し疲れたのだ。人はそこまで嫌いと言う訳ではないが、こんなに沢山人が集っていると、誰でも嫌になるはずだ。
「・・・・疲れた?」
「なんだかんだ言って、お前から話しかけて来るんじゃないか」
いつの間にか、俺の隣に座っている聖夜に言う。こいつは、俺に「話しかけるな」みたいなことを言っていたくせに、なんだかんだと俺に話しかけて来るのだ。全く、訳のわからない奴だ。
「別にいいじゃないか」
「お前は疲れないのか?人が苦手みたいなことを言っていたが・・・・・」
「・・・・人は嫌いじゃないけど、めんどくさいから嫌だ。だから、嫌いじゃない」
聖夜はそう言うけれど、俺は、その意味があまりよくわからなかった。中々難しいことを言う奴だ。人は嫌いじゃない。それは俺と一緒だ。しかし、めんどうだから嫌と言うのはどう言うことなのだろうか?面倒だから嫌ってことは、人間が嫌いと同じじゃないのか?
「自分と合わない相手と話すのは疲れるから嫌だ。でも、自分と似ている相手であれば、疲れないからいい」
「・・・・なんとなくわかった。人が沢山いることは別に構わないが、話しかけられたりするのは面倒なのか」
「ああ」
聖夜はそう言いながら、机においてある料理を皿に取ると、食べ始めた。最初と比べて、こいつはかなり俺に懐いたようだ。口調も全然子供らしくなっているし、それに、俺が話しかけなくても、寄って来るようになった。・・・・言うことは、俺も、こいつと似てるってことなのか?
「食べないのか?」
「あんまり腹が減らない体質なんだ。でもまぁ、そこまで言うなら、少し食うか」
「・・・・そこまでってほどしつこく言ってない」
聖夜はそう言いながら、皿の上に乗っているサラダをつついた。それを見て、少しだけ可愛いなと思ったのは、秘密にしておこう。
「今、変なこと考えただろ!」
「何も考えてない。ほら、そんなに余所見してると、こぼすぞ」
「子供じゃないんだ。そんなことする訳・・・・」
そう言いながら、聖夜は皿をひっくり返した。すると、かなり慌てた様子で言い訳をはじめた。
「・・・・てっ、手が滑ったんだ!だから、別に余所見をしてたからひっくり返した訳じゃない。手が滑ったんだからな!!」
あまりにも必死に言い訳をするものだから、俺は何も言わずに聖夜の方を見ていた。しかし、その態度が気に食わなかったのか、今度は俺のことに対して文句をつけて来た。
「・・・・なんだよ、その目は。僕は、手が滑ったって言ってるのに、信じてないんだろう?それなら別にいい。お前に信じてもらえなくたって、僕は困らない」
俺は別に、皿をひっくり返したことに対して文句を言うつもりはなかった。ただ、俺が何も言わずに黙っているのは、聖夜の慌てぶりが面白くて、笑いを堪えるのに必死だったのだ。
「なっ、なんだよ、なにか言えばいいだろ?」
「別に、俺は、お前が皿をひっくり返したことについて文句を言うつもりはさらさらなかった」
「・・・・じゃあ、なんで黙ってたんだ?」
俺は、そこで一回口を閉じた。言おうか言わまいかと迷ったんだ。俺がこのことを言ったら、こいつは、怒るか拗ねるかのどちらかの行動を起こすはずだ。そして、そのどちらも面倒なことだ。だったら、嘘をついて言わない方が面倒なことを避けられるのではないかと思ったんだ。
「何を考えてる?」
「・・・・まぁ、色々考えてたから、黙ってた」
「色々?」
「お前がずっとしゃべってたんだから、話せるタイミングがつかめなかったんだよ」
「そうか・・・・」
俺の言い訳にやっと聖夜は納得したようで、どうしてかわからないが、満足そうな表情を浮かべている。
「・・・・その顔はなんだ?」
「気にしないでくれ。いろいろ考えてるだけだからな」
「はぁ・・・・」
俺はため息をつくと、聖夜がひっくり返したのと同じサラダを食い始めた。
「とにかく、もう余所見をして食うなよ。余所見して食うなって親に教わっただろう?」
俺がそう言った途端、聖夜が動きを止めて、小さく息を吐いた。
「・・・・両親なんかいない。僕が小さい頃に死んだらしい。だから、顔も知らない」
そう言われて、どうして聖夜がこんな性格になってしまったのか、何となくわかるような気がして来た。
「そうなのか・・・・。俺も、お袋は既に他界してる。親父は、もう直ぐだ」
「もう直ぐだって言うのに、傍にいなくていいのか?」
「・・・・ああ、色々事情があるんだ」
俺は、そう言って時計を見た。もう直ぐ八時になる。外は、雪は降っていないだろうけど、中々寒そうだ。
「そうなんだ・・・・。似てると思った。そしたら、やっぱり似てた」
「・・・・俺なんかに似ちゃダメだ。お前は、もっと幸せになるべきだ」
「何言ってるんだよ?」
「なんでもない」
何を言ってるんだと思って、慌てて皿に乗ったサラダを頬張る。何かを聞かれても、しゃべらないようにする為だ。ついしゃべってしまうのであれば、しゃべることが出来ないようにしてしまえばいいのだ。
「何を考えてるかはっきりとわかるぞ」
「・・・・」
「慌てて頬張ってるみたいだけど、みっともないぞ」
「・・・・」
何を言われたって無視だ。絶対しゃべるなよ、俺。今なら、墓穴を掘れる自信が大いにある。まだ、こいつとはそんなに仲がいい訳ではない為、俺は、絶対に墓穴を掘りたくなかった。
「意外と子供っぽいどころもあるんだな」
「・・・・うるさい」
何とか口の中のものを飲み込んで呟くと、なぜか知らないが、聖夜は少しだけ笑った。
「なんで笑うんだよ?」
「お前は面白い。だから、笑ったんだ」
「そうじゃない。どこが面白かったんだ?」
「普通の人間とは違う感じがする。だから、面白かったんだ」
「・・・・はぁ」
俺は、再度ため息をつくと、わかりずらい説明をした聖夜にでこピンしてやった。
「なっ、何するんだよ!?」
「笑った罰だ」
「なっ・・・・理不尽だぞ!」
「笑うお前の方が悪いんだ。苦情は受け付けないぞ」
「・・・・ふん、おかしいものはおかしいんだ。何が悪い!」
「悪いものは悪いんだ!それ以外のなにものでもない!」
「めんどくさいな、お前」
そう言われて、本気でカチンと来た。こいつ・・・・少しこっちが下手にでていれば・・・・。俺はそう思って、ゆっくりと立ち上がったが、流石に子供に手をあげるのははまずいだろうなと思い、ゆっくり椅子に座った。
「・・・・その言葉を弁解する余地を与えよう」
何とか落ち着いた口調でそう言うと、聖夜の方をゆっくりと向いた。