クリスマスなのに、まさかのお仕事です
僕が水樹君の家に帰って来た時には、既に料理は出来上がっていて、それに、新しい人も増えていた。しかも、栞奈ちゃんもいる。僕がいない間、随分と色んなものが増えたなぁ・・・・。
「凛、おかえり!」
「あっ、えっと、ただいま・・・・。今までどこに行ってたの?」
「あのね、今までずっと、この子の家にいたんだ」
そう言って栞奈ちゃんが指差したのは、僕よりも少し年下ぐらいの女の子で、恥ずかしそうにモジモジしてる。恥ずかしがりやさんなのかもしれない。
「あっ、えっと、私は、白城鈴香と言います・・・・。えっと、新見君と同い年で、栞奈さんとは、今日出会って・・・・あの・・・・」
「ああ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ!そっか、栞奈ちゃんのお友達か!よかったね!」
「うん、そうね。こっちに来てから友達なんかいなかったから、ちょっと寂しかったんだ。あっ、そうだ。私、家が直るまで、鈴香の家に泊まるからさ、私のことは心配しないでって亜修羅に言って置いてね」
「うん、わかった!」
僕がそう言うと、栞奈ちゃんはモジモジしている鈴香ちゃんを連れて、部屋の奥へと行ってしまった。それにしても、このリビングは決して狭くはないはずなのに、人が沢山入り過ぎて、なんだか、バーゲンセール中のスーパーのような賑わいだ。
「あれ?君、新見君の友達?」
「あっ、うん、そうなんだ。・・・・と言っても、出会ったのは、今日なんだけどね」
「そうだったんだ・・・・。あっ、じゃあ、もしかして、竜さんの言っていた新入りって言うのは、君のことだったんだ!」
「えっ?どう言うこと?」
「なんだか色々事情があって、しばらくここに泊まることになったって言う人がいるって聞いたんだけど、君がその人なんだね!あっ、そうだ・・・・まだ自己紹介してなかったね。僕は、久村って言うんだ。新見君のクラスメイトで、友達でもある。よろしく!」
そう言って久村君は手を差し出してくるから、僕もその手を取って握手をした。眼鏡をかけてて、何だか賢そうな雰囲気の漂う子で、一見話しかけずらそうな雰囲気の子だけど、見た目とは裏腹に、随分と接し易い子でよかった。しかも、どうやら僕よりも年下らしい。何だか、僕の子供っぽさが改めて感じられるね。・・・・そんなこと、決して口には出さないけどさ。
「んなこと言ってっけど、俺には読めてるぜ」
「うわぁっっ!!?」
突然後ろからそう言われて、思わず飛び上がった。そして、慌てて後ろを振り返った。そこにいたのは、エプロンを外して、今度はサンタさんの服を着ている竜さんがいた。
・・・・随分と大変そうな人だなぁ・・・・。
「竜さん、何やってるんですか!?」
「しーっ、あんまり大声出すなって。これから、みんなにプレゼント配っから、手伝え」
「えっ!?そんな・・・・」
「さっきのこと、言っちゃってもいいのか?」
「・・・・やっ、やります」
「よしっ、それならいいんだ」
竜さんはそう言って笑うと、僕にサンタさんの服を貸してくれた。それは、町に行けばどこにでも居そうなサンタさんの服装だけど、普通に生活してたら中々手に入りそうにない代物だ。どこでこんなものを・・・・。
「んなことは気にするなって。じゃ、お前はこれを配れよ」
「あっ、はい・・・・」
「じゃ、ちょっとここで待ってろ。俺は、一回、服を着替えてみんなにパーティーを始めるように言った後、もう一回ここに来るからよ!」
「はっ、はい・・・・」
僕は、少し大きめのサンタさんの服を着たまま、廊下に立っていた。少し肌寒いけど、少しの我慢だ。
それにしても、まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
ため息をつきながら、意外に重い白い袋を地面に置くと、体育座りになってため息をついた。
なんだか、色んなことが一気に起こって、一息もつく時間がなかったから、この時間もまた大切かもしれない。
でも、そんな僕の時間は直ぐに消えた。どうしてかと言うと、玄関のドアが開いて、恭介君が入って来たんだ。
「・・・・何やってるんだ?」
「あっ、いやっ、あの、えっと・・・・」
僕は慌てて立ち上がり、近くにあった袋を持ち上げると、顔を隠した。今までは全然恥ずかしくなかったけど、恭介君が来たら、物凄く恥ずかしく思えて来たんだ。
「こんなところで立ってると風邪をひく。早く入った方がいい」
「まっ、まぁ・・・・っと、ちょっと待って!」
僕は、なんとか恭介君を呼び止めると、自分の袋の中をあさる。そして、「恭介に」と書いてあるプレゼントを取り出すと、渡した。
「これ、クリスマスプレゼントだよ!」
「・・・・は?」
「えっと、クリスマスプレゼント!・・・・って言っても、僕が用意したものでもなんでもないけどさ、プレゼント!」
僕は、中々受け取ろうとしない恭介君に強引にプレゼントを渡すと、僕がサンタさんの格好をしていることを内緒にして欲しいと言った。
「ああ・・・・なんとなく言いたいことはわかった。そう言うことなら、黙ってることにする」
恭介君はそう言うと、プレゼントをポケットにしまって、リビングの中に入って行った。それを見て、僕はなんだか嬉しくなる。なんでかよくわからないけど、嬉しくなったんだ。
僕がそんなことを思いながらドアの方を見ていると、竜さんが急いで廊下にやって来た。
「悪かったな、ちょっと、色々やっててな」
「あっ、いえ、気にしないで下さい。あっ、さっき、プレゼントを恭介君に渡しておきました」
「おお、サンキューな。と言うことで、今から配りに行こうか」
僕は、行く場所と言うのはリビングだと思っていた。だから、竜さんがリビングに背を向けて、玄関の方へ歩き出した時には不意を突かれた。
「えっ!?どっ、どこに行くんですか・・・・?」
「どこって・・・・子供達にプレゼントを配りに行くに決まってんだろ?」
「もっ、もしかして、町中の子供達にプレゼントを渡しに行くつもりですか?」
「まぁ、町中って言うよりも、ある条件を満たした子供だけだけどな」
「じょっ、条件って・・・・?」
僕がそう聞くと、竜さんはしばらく考え込んだ後、ため息をついて、僕に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。
「子供は、幸せになるべきだ」
竜さんはそれだけ言って口を閉じたから、僕は、その続きをいつ話すのかとずっと固唾を呑んで見守ってたけど、一向に話す気配を見せない為、僕はしびれを切らして聞いてみた。
「えっと・・・・それで?」
「・・・・忘れた」
「は?」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。ほら、さっさと行こうぜ。みんなが待ってる」
「わっ、わかりました・・・・」
僕は、全く話の読めないまま、仕方なく竜さんの後を追って外に出た。