例えどんな凶悪な人でも、傷つくことは必ずある
「亜修羅、聖夜君について行ったけど、どうしたんだろう?」
「何か用事でもあったんでしょうか?」
「きっと、こいつらのせいだろうな」
神羅がそう言って指差したのは、リビングのドアで、そこから沢山の子供がなだれ込んで来る。その後ろから、二人の男の子が入って来た。もしかしたら、この子供達のお兄ちゃんなのかもしれない。
「・・・・亜修羅らしいね」
「だな」
「それにしても、凄い数の子供達だね?」
「そうですね。あんなに兄弟がいたら、とても大変だと思います」
僕らがそんな会話をしていると、後ろから入って来た男の子の一人が、水樹君に話しかけている。時々僕らの方を見ることから、多分、僕らのことを聞いてるんだとわかった。
しばらくすると、水樹君と話していた男の子が僕らに近づいて来て、挨拶をしてくれた。
「こんばんは。水樹君から聞いたよ、家が壊れちゃったんだってね」
「うん、そうなんだ。だから、しばらくここに泊めてもらうんだ。あっ、僕、丘本宗介。よろしくね」
「俺は、黒川遊。高徳中に通う中学一年だよ」
その言葉を聞いて、僕と桜っちは顔を見合わせた。何も知らない神羅は、不思議そうな顔をして僕らの方を見ている。
なんで僕らがそこまで驚いたのかと言うと、黒川君の通っている中学校に驚いたんだ。
まずは、高徳中のことから説明するね。高徳中学校は、全国で有名なほど評判の悪い学校で、喧嘩や暴力事件はもちろん、万引きや強盗、詐欺などに手を染める生徒もいるほどの中学校で、とても危険な学校なんだ。だから、高徳中の周辺には建物があまりないんだ。とても危険だからね。
とにかく、そんなに危ない中学校に通っているとは思わなかったから、とても驚いたんだ。
「やっぱり、みんなそんなリアクションするよね・・・・。じゃあ、自己紹介しない方がいいかな?」
黒川君の言葉は、僕達に聞くと言うよりも、自分に聞いているように聞こえた。
「凛君、ちょっといいですか?」
不意に桜っちに言われて僕は振り返った。何だかコソコソしていて、人に聞かせたくない話しのようだ。
「黒川遊って、どこかで聞いたことある名前じゃないですか?」
「えっ、そうかな?僕は覚えがないんだけど・・・・」
僕がそう言うと、桜っちは複雑な顔をしたまま、ため息をついた。
「何々、どうしたのさ?」
「今思い出したんですけど、黒川遊って、あの高徳中の副番長じゃないですか?」
「・・・・えっ!?」
「僕も、よくは知らないんですけど、高徳の番長の傍にいるから、副番長って呼ばれてるって聞いたことを思い出して・・・・それでなんですけど、もしかしたら・・・・」
そう言って桜っちが見た方向は、黒川君と一緒に入って来た男の子の方だった。その子はとても背が高くて、髪の毛の色は茶髪。でも、染めたような色じゃないから、悪くは見えない。でも、桜っちの言いたいことがわかった。
「えっとさ、黒川君、あの子の名前、なんて言うの?」
僕は、自分の考えが正しいかどうかを確認する為に黒川君に聞いた。すると、黒川君は、「いいの?」と言う目を僕に向けて来る。
「いいのかい?」
「・・・・教えて欲しいんだ」
「わかった。じゃ、ちょっと連れて来るよ」
黒川君はそう言うと、部屋の端っこに立っていた背の高い男の子を連れてこっちに来る。
「誰だ?」
「人の名前を聞く時は、まず自分の挨拶から」
黒川君は、その人のマフラーを強引に奪うと、挨拶をするように促す。こうやって見ると、その人の身長の大きさを実感することになる。黒川君でも、僕よりも背が大きいのに、それよりも背が大きいんだもん。それに、目つきが怖いから、睨まれただけですくんじゃいそう。
「・・・・俺の名前を聞いたって、誰も得しない。むしろ、嫌な思いをするだけだ。俺の名前は知らない方がいい」
そう言って、その子は自分の名前を言わなかったけれど、代わりに黒川君が教えてくれた。
「佐川恭介。高徳中に通う一年生。俺と同じクラス」
・・・・僕の考えは当たっていたらしいね。
ここまで来れば、大体想像がついてると思うけど、一応言っておくと、高徳中の番長の名前は、佐川恭介。だから、今僕の目の前にいる人は、高徳中の番長なんだ。
さっきも説明したとおり、高徳中とは物凄く評判の悪い学校で、その番長ともなると、全国の不良を操ることも出来るとか噂されてる。本当のところはどうかわからないけどね。
しかも、佐川恭介は、今までの歴代番長の中で一番強いと言われていた石山和矢(高徳の前期番長)を楽々と倒して番長になったそうだ。中学一年生の為、番長として周りの上級生達には認められていないけれど、歯向かえば問答無用でねじ伏せられるから、上級生達も手が出ないらしい。
結構長々と説明したけど、言いたかったことはただ一つ。高徳中の番長は、とても危険で危なく、なおかつ、佐川恭介はその番長の中でも最年少ながら、一番強い人だと言うことだ。
黒川君が僕らに自分の正体を明かしたのが気に食わなかったのか、佐川恭介は怒った。
「なんで言うんだ!」
「この子達が恭介の名前を教えてって言うからだよ。俺を責めないでくれよ」
「・・・・帰る」
佐川恭介はそれだけ言うと、黒川君の言葉を聞かずに帰ってしまった。もしかして、怒らせちゃったのかもしれない。そして、原因は僕らにあるのかも・・・・。
「あっ、あの、なんかごめんね、僕らが番長の名前を聞いちゃったからさ・・・・」
「別にいいんだよ。いつものことだから」
「えっ?」
「ほら、高徳中に通ってるってだけでも怖がられるのに、その番長ともなると、凄いことでしょ?だから、みんな怖がるんだ。それを知ってるから、恭介は普段、自分で名前を名乗ろうとしない。怖がられるのが嫌と言うよりは、その場の空気を壊さないようにする為にね」
「・・・・そうだったんだ」
「恭介、ああやって無愛想に見えるけど、結構人のことを考えてたりするからさ、多分、さっき帰ったのも、これ以上自分がいると、宗介君達が怖がったりすると思ったから出て行ったんだと思うよ」
「・・・・」
それを聞いて、どことなく自分に似てるような気がした。僕も、戦闘種族の族長で、結構みんなに怖がられるようなこともあったから、わかるような気がするんだ。
「ちょっと、追いかけて来る!」
「あっ、ちょっと、凛君!」
僕は、桜っちが止めるのも無視してリビングから出ると、急いで靴を履いて、佐川恭介のにおいを追いかけた。なんで追いかけてるのかわからないけど、僕も同じ仲間だって伝えなきゃいけないような気がしたんだ。