まず始めは、自己紹介から
竜君の後ろからついて来た二人を見て、僕はとても驚いた。だって、亜修羅と神羅だったんだもん。
向こう側二人も驚いたようで、リビングの入り口で立ち止まっている。僕らはと言うと、つい立ち上がってしまったんだ。
「ん?なんだよ、この空気。俺、帰って来ちゃいけなかったか?」
「あいつ等は俺の知り合いだ。だから驚いただけだ」
「そうなのか・・・・って水樹、帰って来てたのか。それに、優樹さんも起きてるみたいだな。随分そろってるじゃねぇか」
「あっ、えっと・・・・」
この面白い展開に水樹君は戸惑ってしまって、何も言えなくなっている。でも、竜さんはそんなことはお構いなしに、さっさとキッチンに入ってしまうから、なんとも言えない沈黙が流れた。キッチンはリビングと繋がるようにあるから、竜さんの様子が見える。だから、僕はずっと竜さんを見ていた。
「とりあえず、お前等全員の心がわかった。まずは、それぞれ自己紹介。それから始めよう」
竜さんはそう言うと、キッチンから出て来た。
「俺は、牧原竜。そこにいる水樹のいとこで、この家の家事やら何やらを任されている、所謂・・・・親代わりみたいなもんだ。そんで、年は十五。普通なら学校に通っている年齢だが、城地卒だから、その必要なし」
竜さんはそう言うと、急に、テレビを指差した。すると、突然テレビがついた。これには驚きだ。
「俺は、人の心を読めると同時に、物の声を聞くことも出来る。だから、耳が痛いのなんのって・・・・。でもまぁ、その変わり、物と会話をすることが出来るから、まるでマジックのようなことが出来るんだ。今のも、テレビにつけって言ってつけたものだ。その他にも、浮いて欲しいって言ったら浮かすことも出来るし・・・・まぁ、色々出来るんだ。まぁ、試しにやってみると、こんな感じだな」
そう言って、竜さんはキッチンの方を向いた。すると、まるで竜さんに引き寄せられるようにエプロンが飛んで来て、竜さんの手の中に納まった。
「こう言うこと。と言うことで、次は水樹だ。ちゃんとそれぞれ、自分の特殊能力を紹介するように。以上!」
竜さんはそれだけ言うと、手に持っていたエプロンをつけて、料理を始めてしまった。
今、目の前に起こったことも信じられないけど、竜さんの言い方だと、まるで、ここにいる全員が特殊能力を持っているような言い方だったけど、まさか・・・・ねぇ?
僕は、桜っちの方をゆっくり向くと、桜っちもうなずいた。桜っちも、目の前で起こったことが信じられないようだ。でも、実際に起こったことで・・・・。
色々考えていると訳がわからなくなって来たので、僕は何も考えないことにした。
「えっと、僕は、新見水樹と言います。えっと、青山学園に通っている中学一年生です。僕は、特殊能力・・・・と言えるのかどうかわかりませんが、妖力を生力・・・・生きる力に変えることが出来るんです。えっと、これで僕の自己紹介を終わります。えっと、次はお兄ちゃん!」
水樹君は、こっくりこっくりと眠り出したお兄ちゃんに声をかけると、椅子に座った。ここまでで、色々考えなくちゃいけないことは沢山あるけど、ここにいる人達はみんな普通じゃないから、その疑問はみんなの自己紹介が終わってからにしようと思うんだ。
水樹君のお兄ちゃんはよろよろと立ち上がると、一回伸びをしてから、アイマスクを取った。と言っても、目からおでこにあてただけで、直ぐにでもつけられるようになっているけど・・・・。そんなにアイマスクを手放したくないのかな?
「えーっと、俺は、新見優樹って言います。んー、なんだっけ・・・・」
何かを言おうとしたらしいけど、忘れてしまったらしい。うーん、なんだか、頭があんまり働いてなさそうに見える。起きて、こうやってしゃべってるのに、寝ているとしか思えないほどのだるさだ。
「あっ、あれだ。高校三年で、特殊能力は・・・・ないな。以上。俺は寝るから。じゃ」
なんだかよくわからない自己紹介をした後、優樹さんはアイマスクを元の位置に戻して、階段を上って行った・・・・?
あれ?今、僕普通に言ったけど、おかしかったよね?アイマスクをしながら階段を上るって、危ない行為じゃないか!?
僕の心が伝わったのか、水樹君が、優樹さんの自己紹介じゃ不足していた大事な部分を教えてくれた。
「えっと、もう一度自己紹介をしておくと、今の人が新見優樹。高校三年生で、受験生。特殊能力は、寝ながらでも、起きているかのように生活を送れるんです。いつもは、部屋にこもって勉強をしてるので、こうやって起きている状態でみかけることは少ないです。えっと、上手く説明することは難しいんだけど、眠りながら、しゃべったり階段を上ったり、学校に行ったり出来るってことです」
なるほど・・・・それって、凄いよね。優樹さんは、自分の特殊能力を自覚してるのかしてないのかわからないけど、眠りながら行動出来るって羨ましいなぁ・・・・。そしたら、眠くて遅刻するなんてことないだろうなぁ・・・・。
僕がそんなことを考えていると、青山学園の制服を着た男の子が立ち上がった。身長は、僕よりも少し大きいから、水樹君よりは年上かもしれないと思った。
「僕は、月野理人と言います。制服を見ればわかると思いますが、青山学園に通っている中学一年生・・・・で、水樹君のクラスメートです。特殊能力と言えるかどうかわかりませんが、僕は、時間を操ることが出来るんです。だから、こう言うことが出来ます」
そう言ったかと思うと、月野君は近くにあったテレビのリモコンを上に投げた。すると、そのリモコンが空中で静止した。まるで、リモコンの時間だけが止まったかのように、動かないんだ。
「このように、ある物の時間だけを止めたりすることが出来るんです。それから、こんな感じで・・・・」
そう言ったかと思うと、急にリモコンが落下し始めた。でも、そのスピードは、普通に落ちるよりもはるかに遅くて、不思議な感覚だ。
「落ちるスピードも操作出来るので、逆にすることも可能です」
そう言ったかと思うと、急に凄いスピードでリモコンが下に落ちて行く。そのスピードは、普通に落ちているもののスピードじゃなくて、投げつけたような速さだ。
そして、地面に付く直前でリモコンが止まった。と思ったら、今度は、上に向かって動き出した・・・・?
「逆再生も出来ます。でも、エスパーじゃないので、物じたいを浮かすことは出来ません。これで、僕の自己紹介は終わりです」
月野君はそう言うと、席についた。
月野君の自己紹介を聞き終えて、ショックだったことが一つある。それは、僕の身長よりも背が高い月野君が年下だったことだ。
単純に、僕の身長が小さくて、月野君の身長が高かっただけなんだけど、六センチぐらい差があるんだ。その事実を知って、僕は改めて自分が小さいことを思い知り、深いため息をつくしかなかった。