時には妥協することも大事なのです
ため息ををつきながらあの子供のことを考えていると、やっと神羅が追いついたようで、息を切らしながら聞いて来た。
「族長、どうした?突然走り出したりして・・・・??」
「・・・・いや、なんでもない」
「こっちに妖気を感じたとか言ってたけど・・・・?」
「ここに来た時には、気配が感じ取れなくなっていた」
なぜか、さっきの奴の存在を言いたくなかった。奴のことを認めるようで嫌だったのか。または怖かったのか。自分でもわからない。でも、あいつのことは、人に言ってはいけないような気がしたのだ。
「そっか。まぁ、族長が言うなら仕方ないな」
「ああ、急に走って悪かったな」
「そんな風に謝らないで下さいよ。何だか変な気分になるじゃないですか」
「・・・・わかった。もう一生謝らないから覚悟しろよ」
俺がそう言うと、神羅が抗議の声を上げながらついて来る。あいつはお気楽そうで羨ましい。いつもそう思うんだ。
「今、俺がお気楽そうだって思っただろ?」
「ああ、思った。事実だろ?」
「なっ、ひでーな!俺はな、常日ごろから族長を守る為に必死に神経を張り詰めてんだぞ!」
「・・・・まぁ、悪いとは思って・・・・ない」
「あっ、今、慌てて自分が言ったこと思い出したんだろ!ははははっ!」
自分の意味がわからないところで笑われて、なんとも複雑な気持ちになる。別に、笑われるところでもないと思うんだが・・・・。
とりあえず訳がわからないから、神羅を無視してケーキ屋の中に入った。
結構神羅に酷いことをしているが、これでも、神羅がいてよかったと一応は思っている。それはきっと、あいつのせいだ。訳のわからないマントの男のせい。第一、俺はあいつの名前すら知らない。何だって言うんだ?
俺がこんなに変なことを思うのもあいつのせいだ。あいつのせいで、神羅がいてよかったとか意味のわからないことを思っているんだ!
なんだか段々、自分が思ったことが恥ずかしくなって来て、ため息をついた。何女みたいなことを思ってるんだと思った。もうやめよう、このことを考えるのは。今は忌々しいケーキ屋の中だ。そのことを考えよう。
昨日来たケーキ屋の中には、俺達の他に、高校生ぐらいの男が一人立っていて、ケーキを買おうか買うまいか、悩んでいるようだ。
「あいつ、なんか面白い奴だな。男一人でケーキ選んでるぞ」
神羅がそうコソッと俺に言うと、そいつは俺達の方をチラッと見た後、近づいて来た。
「今、まるで俺が変わり者みたいな言い方したな。お前の族長さんだって、ここに一人で来たんだぜ?俺だけ変わり者って言われるのはおかしいんじゃないか?」
俺は、そいつの言葉にとても驚いた。コソコソと言ったはずだから、人間のこいつには俺達の声は聞こえないはずだ。それに、なんで、俺が一人でここに来たって知ってるんだ?このことは、会話にすらしてないぞ・・・・。
「お前、何者だ・・・・?」
「俺は、単なる通りすがりのケーキ好きですよ。ああ、そうだ。ケーキの予約をキャンセルするなら、俺にくれよ。買ってかなきゃいけないからよ」
「・・・・なっ、なんで俺達がケーキの予約をキャンセルする為に来たって知ってるんだよ!?」
「俺、心読めるから」
サラッと言われた一言が信じられなくて、思わず耳を疑った。今、心が読めるなんて言ったか?
「今、心を読めるって・・・・」
「まあな。読めるぜ。読んでやろうか?」
「やめろ!」
「まぁ、誰でも心を読まれるのは嫌なもんだよな。と言うことで、ケーキの件なんだが、こう言うのはどうだ?今、丁度家が壊れてるらしいな。だから、ケーキを俺にくれたら、俺ん家に泊めてやってもいいぞ」
「・・・・上から目線だな。ことわ・・・・」
「わかった!」
俺は断ろうとしたんだが、神羅が物凄い食いつきを見せて、俺の言葉はかき消された。
「よっし、決まりだな!」
そいつは嬉しそうに言ったけど、俺は、こいつがどうも気に食わない。勝手に心を読まれるような奴と一緒に住むなんて嫌なもんだ。
俺は、嫌々ながらもケーキを受け取ると、そいつにケーキを渡した。すると、代金を払うと言われて、かなり驚いた。
「なんで、料金を払うんだ?」
「なんでって、俺は、もともとケーキを受け取るつもりで言っただけで、欲しいなんて言ってねぇもん。だから、料金は払うって言ってんだ」
俺は、ちょっとばかりこいつを見誤っていたようだ。こいつも中々筋が通っている奴らしい。それなら、少しは信用してみようと思ったのだ。