楽観的でいることがいい時もある
「族長、鈍感だな」
「は?」
「鈍感だよ。本当に」
「?」
俺の両隣にいる二人は、全く同じ言葉を発した。
俺の苦悩も知らずに、二人は俺のことを鈍感だと言うのだ。
なんだか、物凄くムカつく。
こっちは結構真剣に考えていると言うのに・・・・。
しかし、そのまま嫌な気持ちになるのもなんだか二人に負けたような気がして、
話を逸らすことにした。
「そう言えばお前、怪我をしてたとか言ってなかったか?」
「・・・・そんなこと言ったっけ?」
「言ってなかったか?」
「あんまり思い出せないな・・・・。まぁ、俺は大丈夫だぜ」
「そうか」
とりあえず話を逸らせたようだ。別に怪我をしていたなんて聞いてない。
ただ、そう言えば話が逸れるかと思ったのだ。
思ったとおりに話は逸れたから俺の考えは成功したらしい。
しかし、違う面でからかわれることになった。
「優しいですね、族長」
「違う!俺は優しくなんかない!
仲間が怪我をしたら心配するのが普通だろう?」
「だってよ、凛」
「知ってるよ、亜修羅が優しいってことはさ」
凛は何杯目かの飯を食いながらさらりと言うから、
あまり違和感を感じなかった。
だから、俺は文句を言うタイミングをつかめず、何も言えなかった。
「栞奈ちゃん、おかわりある?」
「よく食べるね~」
「まあね。沢山食べないと力が出ないし、一日が始まった気がしないからね」
凛の言葉にため息をつきながら時計を見ると午前八時だ。
一応、ケーキを取りに行くのは十時って言ったが食う機会なんてあるんだろうか。
夕方から、凛達に連れられて学校に行くだろうし・・・・。
「昨日、パーティーやるって言ってたが、本当にやるのか?
夜から学校に行くんだろ?」
「あっ、やるよ。そうだ。お昼はパーティーにしようよ!
それから学校に行けばいい!」
「でも、そんなに食ってまだ食えるのかよ?」
「大丈夫だよ。万が一の時は、とっておくから」
「でも修さん、反対してたんじゃないんですか?」
「・・・・まぁ、考え直したんだ」
なんとも言えない気持ちになり、凛達から視線を逸らす。
なんだか、ちょっと恥ずかしくなったのだ。
そんな俺のことを見ていた神羅が、ニヤニヤしながら小声で言った。
「族長って、信念を貫き通せないタイプだな」
「うっさい!人の考えにちゃちを入れるな!」
「ああ、はいはい」
「・・・・」
「でもさ、ケーキ・・・・」
「ああ、そのことなんだが・・・・」
俺が言いかけたその時、急に窓が割れたかと思ったら、
沢山の下級妖怪が部屋に突っ込んで来た。
そいつらは訳がわからないくらいにもみくちゃになって襲って来る。
一体何があったのかわからないが、とりあえず、考えている暇はなさそうだ。
「栞奈、後ろに隠れてろ!」
「うっ、うん」
栞奈をかばうように前に出て、烈火刀刃を鞘から抜いて構える。
「族長、どうします?ここで暴れちゃ、部屋が壊れますぜ」
「とりあえず、部屋には気を配って欲しいが、最悪は壊してもいい」
「いいんですか!?」
「・・・・この場合、やむを得ない」
そうは言ったが一応は家を守りたい。
しかし、いくら下級妖怪とは言え数が物凄く多く、
本気でやらないと怪我をする可能性がある。
だから、最悪は部屋を壊してもいいと思ったのだ。
「でも、家を壊しちゃったら大変なことになるんじゃ・・・・」
「修理代を払えば大丈夫だろ?」
「・・・・あはははは・・・・はぁ」
凛は笑った後深いため息をついた。
それにつられてか、他のみんなもため息をつく。
・・・・なんなんだよ、金を払うのは俺なんだ。別に、問題ないだろ?
そして十分後、妖怪を全て倒した。部屋は壊滅状態・・・・。
ああは言ったもののいざこうなると、なんとも言えない気持ちになる。
「・・・・どうする?」
「とりあえず、大家に言って来る。それで、修理に必要な金を払う」
「そうじゃなくて、ぼくらの寝床は!?」
「・・・・部屋が直るまで、とりあえずはホテルかどこかに泊まるか」
「それしかないですよね・・・・」
みんながみんなため息に近い声で言った。こればっかりは仕方ない。
俺達が家に気を使う使わないの問題はさほど関係ないと思う。
あいつらが入って来た時点で既に窓も壊れてるしな。
それが、ただ部屋中になるかならないかの違いだろう。
「そう言うことだ。とりあえず俺は大家にこのことを伝えて来るから、
お前等は自分の荷物をまとめて外に出ているように」
そう言うと、急いで大家にこの件のことを伝えた。
きっと、死ぬほど怒られるだろうが、仕方ないな。
今回ばかりはこっちに非があるのだから。