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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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不思議な奴

「なぁ、そろそろ別行動したくならないか?」

「全然。楽しいじゃないか。二人の方が」

「・・・・一人で回らせてくれよ」

「わかった。でも、一人で先に帰ったりしないでよ?」

「ああ。後でうるさく言われるのはわかってるからな」

「全くさ。一人で帰るのが怖いくせに♪」

「うるさい」


からかって来る凛から逃げて、やっと一人で落ち着いて回れるようになった。凛のペースだと、ゆっくり見ている暇がない。自分のペースでゆっくりと歩きたかったんだ。しかし、中々そうも行かない。


女達に何回も声をかけられ、静かに自分のペースで歩くつもりが、うるさく乱されて行った。


そろそろ怒りが限界に達していた時だった、再び話しかけられて、嫌々振り向く。そこにいたのは、やはり女だ。しかし、なぜかあまり嫌な感じはしなかった。


「もしよかったら、一緒に回りませんか?」

「・・・・ああ」


そいつは今までの奴らよりも普通の格好をしていて、メガネをかけておとなしそうだったから、気が合うかと思ったんだ。


「よかった。一緒に回る人がいなくて、寂しかったんです」


そいつは、下手にベタベタもせず、普通に接する。こう言う奴が一番いいんだ。他の女は無闇にくっついてくるから嫌なんだ。


そいつは、俺が向かうところについて来て、文句一つ言わずに一緒にいた。美術部の絵を見ている時も、吹奏楽部の音楽を聞いている時も、静かに聴いていた。


「どこかで休むか?」

「そうですね、結構沢山回って疲れちゃいましたね」


そいつの承諾を得て、そこらへんにあった店に入る。それから、コーヒーを頼むと、一息ついた。


「名前は?」

「桜木明日夏です」

「俺は、伊織修だ」

「修さんですね?文化祭はやっぱり楽しいですよね」

「ああ。ワイワイやって、何だかこっちまで楽しくなって来る」

「ちょっと、トイレ行って来ます」


そいつは立ち上がるとトイレに向かった。しばらくすると、廊下の外まで来たようだが、中に入れないようだ。


声からして、大勢の女に囲まれているらしい。そして、罵られている。


「あんた、今時メガネなんかかけてダサいのよ!普通はコンタクトでしょ?」

「それに、胸だって全くないじゃない!」

「色気だって全くないのに」

「あの・・・・」

「何であんたが、あの人と一緒にいるのよ!全然釣り合わないんだから!!」

「だから・・・・」

「とにかく、さっさとどこか行ってちょうだい!邪魔なの!!」


廊下での会話がうるさく聞こえて来る。しばらくしてから戻って来たが、少し落ち込んでいる様子だ。


「何か言われたのか?」

「はぁ、どこか行ってくれって。邪魔だから」

「別に、俺にとっては邪魔じゃない。だから、お前がどこかに行く必要もない。お前が俺といるのが嫌ならどこかに行けばいい。でも、いたいなら、態々あんな奴らの言うことを聞かなければいいんだ」


さっき来たばっかりのコーヒーを一口飲む。ホットだから火傷しないかと心配だったが、余り心配はいらなかった。


「ありがとうございます」


そいつは、そう言うと席に座り、コーヒーを一口飲んだ。しかし、何かが違う。こいつは、何かが違うんだ。その何かとはなんだ?


「何か変ですか?」

「いや、気にするな」


考えに耽って、思わずジッと見てしまう。女にしか見えない。けれど、違和感を感じるのはなぜだ?何かがおかしい。その何かとはなんだ?


それから、ずっと観察をしているのだが、何だか違和感が拭えない。人間じゃないって言う違和感とは違う。変な奴だ。しかし、気は合う。


それにしても、何だか後ろから凄い数の視線がついて来るのがわかる。振り返るのも怖いぐらいの視線だ。しかし、それを向けられているのは俺ではなく、桜木だ。


「やっぱり、変でしょうか?」

「気にするな」


そうは言っても、かなり気になる。これは、妖怪並みの睨みだ。人間の女は、怒ると妖怪並みの睨みを放つらしい。メデューサみたいに石化させる能力があったら、桜木はひとたまりもないだろう。それくらい、恐ろしい睨みと殺気だ。


すると、向こう側からも女に囲まれた奴が来る。最初はよく見えなかった。何しろ、女が多過ぎて見えなかった。


「あっ、修!」


声を聞いて驚いた。凛だ。あいつの言ってること、嘘じゃなかったんだな。


凛が、わらわらと群がって来る女を何とかかき分けて近づいて来る。もう、ここ一帯女だらけだ。


「それに、桜木君も」


・・・・君?


そこにいる一同全員が驚愕した。ただ二人だけ、凛と桜木を除いて。


「・・・・あんた、男だったの?」


凄いにらみを放っていた女の一人が問いかける。何だか、凄く疲れた顔をしているのが手に取るようにわかる。俺の感じていた違和感がこれだと気がついたのは、それからしばらく経った後だった。


「はい。みなさん、何かを勘違いしているようで・・・・」

「そうだよ、桜木君は男だよ、僕も初めて会った時はびっくりしちゃったけどさ」

「時に宗介。何でそんなにゾロゾロ連れ歩いているんだ?可哀相な男達にも分けてやれるくらいじゃないか」

「いやぁ、参ったな。っと、そうそう。生徒会長が言ってたんだけど、文化祭は男女の組で回れって。でないと、賞を取ったクラスも落とすって。だから、修も誰か女の子を見つけた方がいいよ!じゃあ!」

「ちょっと待て!どこにそんな自己中な生徒会長がいるんだよ!」


俺はそう怒鳴って凛に聞いたが、凛は何も答えないで歩いて行ってしまった。しかし、腕が上がって、ピースをしている。それで、大体のことはわかった。


あいつ、生徒会長までやってるのか?どうりで滅茶苦茶な文化祭だ。


それに、会長があんなに女を引き連れたら、他の男はどうすればいいんだ?


「あっ、えっと・・・・。僕のせいで迷惑をかけてしまったみたいで、すみませんでした」

「お前も、誰か女を見つけた方がいいぞ」

「しかし、中々相手が見つからないんです。一応、宗介君と同じクラスなので、見つけないといけないと思ってたんですけど、見た目がこうなんで、どうもダメなんです」

「丁度いい。この中から選んだらどうだ?」

「いえ、それは・・・・」


俺は、桜木の言葉を最後まで聞かずにそのまま歩き出した。


生徒会長は一番偉いらしいが、そんなことは関係ない。凛が生徒会長なら、破ってもいいだろう。


そう思ってブラブラ歩く。空は、大分暗くなりかけていると言うのに、人だかりは減ることはない。むしろ、増えていた。みんな、バカな生徒会長の言うことを鵜呑みにし、必死で女や男を捜してる。


「修」


肩をトントンと叩かれて、振り返ると、凛が女装をして立っていた。


こいつ、完璧悪趣味・・・・。


「女の子がいないの?最悪は僕が一緒に歩いてあげるよ。出ないと、外に出ることすら出来ないし」

「うるさい、耳が痛くなるほど声はかけられた!でも、めんどくさかっただけだ・・・・」

「じゃあ、桜木君に頼めば?」

「何を?」

「だから、一緒に行こうって。桜木君なら男の子には見えないよ」

「さっき、無理矢理別れてきたんだ。それなのに、そんなことを頼める訳ないだろう」

「そう言うと思って、つれて来た。ちゃんと女装してますよ♪」


凛は勝手に言うと、傍にある樹に向かって手招きをした。そこから、女としか思えない桜木が出て来る。凛の悪趣味に付き合わされ、凄く可哀想に思える。


「これで大丈夫、形だけ作っておけば通るようにしてあるから」

「お前が生徒会長なんだろう?何でこんなめんどくさいことしたんだ?」

「いやぁ、文化祭は恋の進展にいい機会だと思ってさ。だから、無理矢理にもね。じゃあ、僕はこの後やることがあるから」


凛は、女子に見つからないようにそそくさとどこかに消えた。きっと、女装も変装と称しているらしい。


「どうしてそうなった?」

「えっとですね・・・・修さんがいなくなった後、違う意味で女子に囲まれたんです。それに戸惑ってるところを助けてもらったんですけど、そうしたら頼みたいことがあるって言われて。それでメガネを取ってこれを着ろと言われました。反論しようとしたんですが、宗介君もするようなので、一人でさせるのは可哀想だと思い、着ました」

「あいつのことは気にしなくていいんだぞ。元から悪趣味なんだからな」

「悪趣味とは?」

「パジャマなんか、ピンク地にウサギ柄がついたのを着てるんだぞ?」

「可愛いですね」


桜木の答えを聞いて、物凄く驚いたけれど、こいつにこれ以上言っても無駄だと思って、まだ回っていないところを思い出し、桜木を連れて回った。


桜木は、何も言わずについて来る。だから、俺もあえて話さなかったが、何だか、物凄く気まずい。


「そう言えば、お前、昨日は来なかったよな?」

「あっ、はい。実を言うと、今不登校で・・・・。三年生の始めに宗介君が僕の家に来てくれまして。そして、ちょっとした知り合いになったんです」

「何かされなかったか?」

「何かとは?」

「例えば、家を燃やされかけたとか、恥をかかされたとか、大声で泣かれたとか」


俺の言葉に桜木が一瞬目を見張る。それから即座に「ないですね」と答える。と言うことは、ああ言うことをするのは俺だけなのか。凛の婆さんは甘えていると言っているが、俺にとって、いつも命を狙われているようで溜まったものじゃない。俺を恨んでいるだけかと思っていた。


丁度七時五分前になった頃、向こうの方からこっちに向かって来る人影が見える。


わかるだろう?凛だ。凛以外に、俺達に近付く奴等はいない。


「何だよ」

「はぁ、はぁ」

「大丈夫ですか?」


桜木の言葉に、膝に手をついて息をしていた凛が、「待って」と言うように手を上げるから、しばらくの間待ってやると、やっと話しだした。


「あっ、あのさ、七時になったら花火を揚げるんだけど、手伝って。桜木君も」


凛は、息を整えたはずなのに、まだ、苦しそうだ。しかし、それには構わず、俺らの手を引いて校舎の中に上がりこみ、放送室のところまで来た。


「僕が、一分前に何か言葉をしゃべる。例えば、『楽しかった文化祭も、そろそろ終わりの時間になりました』とかさ。だから、その放送が聞こえたら、打ち上げ花火をセットして。それから、カウントを数えるから。十の辺りでライターをセット。それから、三のところで最初に揚げる花火に火をつけて。それからは、次々と火をつけて行っちゃっていいから。それが終わったら、また放送室に戻って来て」

「・・・・めんどくさいな」

「ああ、亜修羅。絶対めんどくさがって帰らないでよ?大事な話があるんだから」

「ああ。後でお前にブーブー言われる方が後始末が悪いからな」

「じゃ、よろしく!」


凛は、警官が取る敬礼のポーズをする。しかし、俺らはうなずいた。


「・・・・ダメじゃん。二人も敬礼、はい!」

「・・・・こうか?」

「こうですか?」

「そう。そして、『ラジャー』って」


「そんな恥ずかしいことが出来るか!」と言いたいが、誰もいないし、やるだけやってやろうと思った。甘いな、とことん甘いよ、俺。


「・・・・ラっ、ラジャー・・・・」

「よし、行って来い!」

「調子にのんな!バカ!!」


せっかく従ってやった俺の気持ちも知らず、偉そうな態度の凛を叩く。子供にはしつけが大切だ。こいつは、でっかい子供だしな。


「いった・・・・」

「行くぞ、桜木」

「あっ、はい」


痛がる凛を置いて、俺は、桜木と一緒に花火が置いてあるところに向かった。


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