人の心は中々難しいもの
何時の間に寝ていたのか、
誰かに足を思い切り踏まれて起きた時には朝になっていた。
よく布団もなしで眠れたなと思って起き上がると、
なぜか布団がかけてあった。
俺の記憶が正しかったら神羅に布団を奪われたはずだが・・・・。
おかしいと思って部屋を見渡すけれど神羅の姿はどこにみあたらないから、
もしかしたらあれは夢だったのかもしれない。
「今、誰が俺の足を踏んだ?」
「ごめん。なんせ、この部屋狭くてさ・・・・」
「ここ以外に適切な場所がないんだ。狭いのは我慢してくれ」
寝不足が祟っているのか頭がボーッとしている。
普段もボーッとしているが
今日はいつも以上にボーッとしていて酷い頭痛がする。
そんなところに栞奈が後ろから抱き付いて来るから、
俺はその勢いで前に倒された。
「あれ?大丈夫?具合が悪いの?」
「それより・・・・退いてくれ」
栞奈を振り払う力も出て来ないから退かれるのを待つしかない。
栞奈は直ぐに俺の上から退くと、
俺の着ているパジャマを見てとても驚いた顔をした。
「このパジャマ可愛いね・・・・亜修羅って、こう言う趣味あったんだ」
「・・・・おい、勘違いするなよ。これは、凛に無理矢理着せられたものなんだ。
こんな悪趣味パジャマ、誰が好きで着るか」
「でも、無理矢理着せられてたとしても
本当に嫌だったらそれを着てないんじゃないの?」
最もな発言に何も言えなくなる。
確かに、本当に嫌ならこんなパジャマをずっと着ている訳がない。
あれから、確か三ヶ月近く経ったんだ。
その間このパジャマを着ていたことは確かだ。本当は嫌じゃないんじゃ・・・・。
自分の恐ろしい思考を振り落とす。
そんなことはない!こんなパジャマ・・・・。
「本当は好きなんでしょ、このパジャマ!」
「はぁ?何言ってんだ?」
「だってさ、ずっと着てるじゃん。
それに、悪趣味パジャマなんかじゃないよ!
可愛いハムスター柄のパジャマじゃないか!」
「・・・・馬鹿か!」
文句を言っている凛を殴るとそのまま洗面所に向かう。
そこで顔を洗えば大分すっきりするかと思ったが、対して変わらなかった。
「全くさ、態々叩くことないじゃないか!」
「うるさい。お前のせいで寝不足なんだよ」
「そう言えば、今日は一段とぼーっとしてるよね」
「お前が昨日蹴ったからな」
「えーっ、本当?どこ?」
「凛が大の字で寝てて、その足が腹に直撃したんだよ」
「ごめんね?」
「・・・・」
「そんなこと言ってもさ、優しいんだぜ?族長は」
いつの間に部屋に入って来たのかわからないが、
俺の横で出された飯を食いながら、神羅が言った。
そこで、あの夢は現実だったのかもしれないと思い、慌てて神羅を止める。
「神羅!言うなよ」
眠気が一気に覚めて神羅の腕を掴む。
凛は気が付いていないのだから、そのままがいいんだ。わざわざ言う必要もない。
「わかってるさ」
「そうか。ならいい」
そう言って座りなおすけれど、なんだか訳がわからなくなって来た。
俺が布団をかけてやった部分は事実らしい。
と言うことは、神羅に布団を取られたことは、夢だったのかもしれない。
「何?なんで隠し事するの?」
「知らなくていいことだ」
「意地悪」
ブツブツ文句を言う凛を放っておき、神羅の方をチラッと見る。
すると、意味ありげな表情を浮かべられて、俺の頭の中は余計わからなくなった。
「おい、お前、俺の布団取っただろ?」
「そんなことしてないぜ?」
「・・・・嘘つくなよ?」
「ついてねーよ!なんで嘘つかなきゃいけないんだよ?」
「・・・・そうか」
・・・・何だかよくわからないから、
もうこの件について考えるのはやめることにした。
ため息をつくと気を取り直して、
目の前にある黄色のグルグルを箸でつまんで見る。
何だかフワフワしてるけれど、得たいの知らないもので不思議な感じがする。
俺の不思議そうな顔を見てか、
俺と同じものをつまみながら神羅が教えてくれた。
「あーっ、それな、『玉子焼き』って言うらしいぞ」
「ふーん」
とにかく口に運んでみる。
それはフワフワとしていて、味は何だか甘くも鹹くもない。中間ぐらいだ。
「上手いな。これ」
「本当!?」
感想を言った直後、栞奈が大きな声で聞いて来た為、
俺は思わず箸を落としてしまった。
「なっ、なんだよ!?」
「それ、私が作ったの」
「そうか」
「・・・・それだけ?」
「『それだけ?』って、他に何を言えばいいんだ?」
「ううん。いいよ。なんでもない!」
心なしか栞奈の気分が沈んでいるように見える。
俺は、また、栞奈を傷つけるようなことを言ったのか?
どうやら俺は気がつかないうちに人を傷つけてしまう性格らしく、
昔からよく栞奈を傷つけていた。
その度に申し訳ないとは思うのだが
どうしてそうなってしまうのか全くわからず、いつもため息をついていた。
「族長、あの子は族長に料理を褒めてもらいたかったんだよ。
と言うか、あの子彼女?」
「違う!ただの幼馴染だ」
「そっ、そうだよね、ただの幼馴染だもんね!」
栞奈はそう元気に言っているけれど、なんだか浮かない顔をしている。
それを見て、また傷つけてしまったのかと思うと嫌な気持ちになる。
やたらくっついて来るのはあまり嬉しいことではないが、
やはり幼馴染としては傷つけたくないとは思う。
しかし、嘘を言うのもどうかと思うのだ。
・・・・いや、それ以前に
栞奈がどのような関係を望んでいるのかもわからないし、
下手に嘘をつくよりは何も考えずに本当のことを言った方が・・・・。
俺は、とうとう訳がわからなくなって来て、この件も考えることをやめた。
人の心とは中々難しい。そう改めて実感し、重いため息をついた。






