人の睡眠を妨害する事は、立派な犯罪です
「・・・・うっ」
不意に何か重いものが落ちて来てうめきながら起き上がる。
原因はわかる。毎度のことだ。凛に殴られたり蹴られたりするのは。
斜め上で寝ていた桜木はと言うと、いなくなっていた。
と言うか避難したようで、そこに姿はなかった。
「・・・・どんだけ寝相悪いんだよ」
カーテンを少しだけ開け、今度は凛の顔に向かって枕を投げつけた。
ささやかな仕返しは、何の妨害にすらならなかった。
さっきは凛の足が俺の腹に乗っかって来たようだ。
大の字になって、俺の布団まで侵入して来ている。
時間は真夜中の三時といったところだろう。
多少荒々しいが凛の腕を掴み、引きずって元の居場所に戻す。
でないと寝ることすらままならない。
それから、真冬だと言うのに剥いでいた布団をかけてやると、自分も布団に入った。
誰かに見られたら絶対に何か言われそうだが、
風邪をひかれたら困るしな。
「・・・・優しいところ、あるんだな」
「誰だ!?」
布団から飛び起き窓の方をにらみつける。大体検討はついていた。
「そんなに警戒すんなって。護衛のものですよ、族長さん」
「神羅か・・・・見てたのか?」
「は?何のことですかい?」
「・・・・そうか、見てなかったのか。ならいい」
安心して布団に入る。
さっきはついガバッと飛び起きてしまったが、凄く寒かったんだ。
「ああ、さっきの布団のことか・・・・」
「ん!?」
慌てて神羅の方を見ると、まるで馬鹿にしたような表情を浮かべている。
それが指している事実に気付いた時は何だか恥ずかしくなって、
神羅に背を向けたまま顔を布団の中に隠す。
「知ってたぜ、前々からな。優しいってことは」
そう言いながら俺の枕っ引っ張って来る。
何が目的なのかは全くわからないが一つだけいえることがある。
それは・・・・。
「俺の睡眠を妨害するな!」
「そんなに怒鳴ったら凛達が起きちゃいますぜ?」
そう言われて慌てて凛達の方を向くと、何とか眠っていた。
桜木の方は少しだけ動いたから起きてしまっただろうかと思ったが、
そうでもなさそうだ。
「・・・・人の睡眠を妨害するのはな、立派な犯罪なんだぞ!」
「んなこと言ったってよ、自分達だけ布団で寝てずるいじゃんかよ!」
「はぁ?そんなの、護衛だったら我慢しろよ」
枕を取られないように必死で押さえ込んでいるが、
横になっている俺と座っている神羅とでは、やっぱり神羅が強い。
直ぐに枕を奪われた。
「何がしたいんだ!お前は!」
「しーっ!」
何とか言葉を飲み込むと神羅から枕を奪い返そうとするが、
上手くかわされて中々奪い返せない。
「ちょっ、返せ!何が目的なんだ!」
「だから、俺を布団で寝かせてくれよ。さすがに冬は寒いんだよ」
「・・・・目的はそれだけなのか?」
「うーん、まあな。あんまりわがまま言うと怒りそうだしな。それで我慢してやるぞ」
「偉そうだから、却下」
「なっ!?」
一瞬だけ気を抜いた神羅から自分の枕を奪うと、
もう枕を取られないように布団の中までもって行った。
ここまでしたらきっと神羅も邪魔して来ないだろうと思った。
しかし、盲点を衝かれた。布団を持っていかれたのだ。
「じゃあ、俺はこれをもらって行くからな」
「・・・・勝手にしろ。その代わり、これ以上俺の邪魔するなよ?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、寒いんだろ?なら、別に持って行っていい」
「でも・・・・」
「あまりごちゃごちゃ言うな。もう眠いんだ俺は。
用件を呑んだんだから、さっさと寝てくれ」
俺はそれだけ言うとその場に寝転がり、神羅に背を向けた。
本当を言うと、布団を取られるのは辛い。
しかし、それ以上に眠ることを妨害されることが嫌だったんだ。