枕投げは、人の迷惑にならない程度にはしゃぎましょう
「さて亜修羅君、さっきの話に戻そう。どっちを選ぶのかね?」
「・・・・何の話だ?」
「わかってるくせに!
だから、石村さんと栞奈ちゃん、どっちを恋人にするんだい?」
「なっ!?」
「そんなに驚かなくても、わかってるでしょ~」
そう言いながら凛がわき腹を小突いて来る。
こいつ、この状況を楽しんでいるらしい。
どっちを恋人にするなんてそんなの考えたこともない。
いや!そもそも考える必要はないんだ!
「おまえ、何かを勘違いしているようだが・・・・」
「あああーーーー聞こえない~」
無言で凛の頭を殴るとそのまま背を向けた。
「とにかく、俺は知らん。
どっちを選ぶってそんな選択肢を求められる必要もないんだ。俺は」
「だ~めだこりゃ」
「・・・・なんか言ったか?」
「まっ、いいよ。いずれわかるかもしれないからさ、その難問の答え」
何だかよくわからない質問をされた上、回答しないとダメだと言われる。
おかしな話だ。そもそも、俺はどちらも好きな訳じゃないんだ。
よって、そんな質問の答えを言う権利はない。
それに、俺にはあいつがいる。だから・・・・。
「それよりさ、亜修羅はクリスマスにどこか行く予定はないの?」
「ん?」
慌てて我に返る。少し余計なことを考えてしまったようだ。
「だから、クリスマスにどこか行かないのかって聞いてるんだけど?」
「それ、前にも聞いただろ?」
「いいの!それよりもどうなの?」
「だから、どこにも行かないって言っただろ?」
「なんだ。つまんないの」
・・・・なんなんだ。俺の決めたことをとやかく言われる筋合いはない。
何度も似たような質問をして来てなんにもないと答えればつまらないと言われる。
この言われようはなんだ?なんて答えたらこいつは満足するんだ?
「そう言えば、なんで学校があったんだ?普通なら冬休みのはずだろう?」
「そう言えばそうだね。何でだろう?」
「凛君、忘れたんですか?」
「何を?」
「学校でクリスマスパーティーがあるじゃないですか。
それに参加する人が登校したんですよ?ほとんど全員でしたけど」
「そうだったね。
でも、それって確か本当の名前はクリスマスパーティーじゃなくて、
ダンスパーティーじゃなかったっけ?」
「そうですね。年々名前が変えられて来てしまいましたけど・・・・。
あっ、お知らせしておきますね。凛君寝てたんで。
日時は24日の6時から9時までだそうです。
服装は出来るだけ正装がいいそうで。
それと、このパーティーは生徒だけしか行けないものじゃないので、
色んな人が参加出来るんです。修さんもどうですか?」
「俺か?」
「はい。ちょっとした遊びをした後、
ちょっと食べてから9時15分前までぶっ通しで踊る事になりますけど、
その後にプレゼント交換をするのでプレゼントは持って行った方がいいですよ?」
「俺は行かない。絶対に栞奈は行きたがると思うけどな。
だから、絶対に言うなよ?」
栞奈に引っ張って行かれたら振り切ることは不可能だ。
だからあいつには、あいつにだけはバレたくなかった。
「楽しそうに話してるけど、なんの話をしてるの?」
一番聞きたくない声が聞こえ、心の中で必死に語り続けた。
絶対に言うな。言わないだろうな?
俺、今さっき言うなって言ったばかりだもんな?言わないよな?
しかし、俺の祈りは届かなかった。
「僕達の通ってる学校でパーティーをやるんだけどね、
亜修羅も行くからさ、栞奈ちゃんも行く?」
「本当?行く!!服装は?」
「正装で!」
「おい!話すなって言ったろ!」
・・・・それからの成り行きは話をすることすらも嫌だけれど
凛が無理矢理話を進め、俺は栞奈に引きずられて服を買いに行かされた。
散々振り回された挙句、俺の金で服を買い死にそうになりながら帰って来たんだ。
こうなることが目に見えていたから
凛に言うなと釘を刺しておいたのだ。それなのに・・・・。
「凛、なんで言ったんだ?」
「だってさ、ついとっさにね。・・・・もういいじゃん。
いつまでもうじうじ言ってると、夢にまで出て来るよ」
「・・・・今、布団を被ってるよな?」
「そうだよ。でないと寒いじゃないか」
「なら、布団と敷布団の間に挟んだまま、巻き寿司にしてやる」
「やだよ。それじゃ動けないもん」
「二人とも、暗闇で何やってるんですか?
枕投げでもしてるんですか?いたっ」
凛が何かをを投げて来たからこっちも投げ返しているうちに、
間に挟まれている桜木に当たったようだ。
「そうだよ。暗闇の枕投げ!どこから枕が飛んで来るかはわからない!
修学旅行の夜を思い出すよねっ!」
「そっ、そうじゃなくて・・・・狭いんですからそんなに暴れないで下さい。
ほとんどギュウギュウなんですから。あっ、足踏まないで下さい!」
「ごっ、ごめん!」
桜木が抗議の声を上げた直後誰かに足を引っ掛けられて俺も前に倒れ込む。
きっと、足を滑らせた凛がもがいて俺の足を蹴ったんだろう。
「痛い」
「・・・・」
「二人が暗闇で暴れるからこうなるんです。
今から電気をつけるんで、それから続きをやって下さい!」
「あっ、待って!」
ドンッと音がする。
これも想像だが、凛が桜木のどこかを引っ張って、
桜木がバランスを崩したってところか。
「どうしたんですか?」
「いいよ。もう寝るからさ」
「そうですか。ならよかったです」
やっと静まり返ったかと思ったら、
外の階段をダンダンと音を立てて上って来る音が聞こえた。
その直後凄い勢いでドアが叩かれる。
俺達は一斉に布団に潜り込むと耳を塞いだ。
「凛、出ろ」
「やだよ。下の階のおばさんうるさいもん。桜っち、よろしく」
「僕も嫌ですよ。
・・・・でも、僕が修さんに言っても無理そうなので、ちょっと行って来ます」
意を決っした桜木が歩いて行き、
ドアを開ける音がした直後凄い怒声が響き渡った。
それは、俺達が騒いだ10倍の騒がしさだった。
「みっ、耳が・・・・」
「うるさかったな。布団にもぐってても凄い声だった」
言い合っていると桜木のげんなりした声が聞こえて来た。
「とにかく、もう騒がないで下さいね。もう真夜中なんですから・・・・」
「でもさ、亜修羅がいつまでもうるさいから・・・・」
「なんだと?絶対に言うなって言っただろうが!」
直ぐ近くに寝転がっている凛の胸倉を掴んで揺すると
か細い声が返って来た。
「修さん、僕です。
離して下さい・・・・首が絞まって息が出来ません・・・・」
「ああ、悪い」
「僕はこっちだよ?」
「はぁ・・・・」
ため息をついて桜木から手を離すと自分の布団に戻る。
どうせ眠ったって、凛に蹴られて起こされるだけなのに・・・・。