無断欠席常習者の、クリスマスケーキへの苦悩
「あっ、ちょっと待ってよ!一緒に帰ろうよ!」
「は?なんでお前と帰らなきゃいけないんだ?」
「だって、せっかく会ったんだしさ、一緒に帰ろうよ!」
「・・・・」
俺は再び無言で歩き出したが、女もついて来る為、
一人で静かに帰宅とはいかないらしい。
「そう言えばさ、伊織君今日学校来なかったよね?しかも無断で。
先生怒ってたよ?『またあいつは無断で欠席して!』って」
「・・・・それじゃあ明日、風邪とでも言っといてくれ」
「ええっ、明日も来ないつもりなの?」
「お前に言われる筋合いはない。明日も風邪で欠席する予定なんだ」
「えっ、予定って・・・・学校行こうよ?」
「・・・・そもそも、明日なんて、学校ないだろ?」
俺がそう言うと、女は黙り込んだ後、思い出したかのように笑った。
その顔を見た時、なんとも不思議な感情が芽生えた。
嬉しいとも楽しいとも取れないが、負の感情ではないのは確かだ。
「どうしたの?」
「いや、気にするな。
そう言えばお前、なんで学校行ってるんだよ?普通なら冬休みのはずだろ?」
「もしかして伊織君、委員会のこと忘れちゃった?」
「・・・・は?」
「あっ、そうなんだ・・・・それなら仕方ないね」
俺がわからないところで勝手に納得されて、なんとも言えない嫌な気持ちになるが、
めんどくさいから何も聞かないことにした。
「あっ、クリスマスケーキだ!」
「そんなにクリスマスケーキは必要なのか?」
「そうだよ。パーティーをする時には必要だよ?」
「・・・・」
「パーティーするの?」
「まあな。めんどくさいからやめようかと思ったが、
ちゃんとした奴らにはちゃんとした物をやらなくちゃいけないかと思ってな」
「ちゃんとした人って大切な人のこと?」
「・・・・知らん」
そう言われると何とも言えなくなってケーキ屋の中に入る。
甘ったるくてたまらないにおいだが、俺は食べなくていいんだから、我慢だ。
「ご注文ですか?」
「ケーキ下さい」
「えっと、ここはケーキ屋ですので・・・・。
ケーキはショウウィンドウにあるものを選んで下さい」
そんなことを聞かれても
全て同じように見えて、どれが目的の代物かわからない。
「じゃあ、クリスマスに食うケーキで」
「クリスマスケーキですか?右下の三種類がありますが」
指されたのはケーキの上にチョコレートの家とその隣にサンタがおいてある、
いかにもクリスマスを思わせるケーキだ。
それが、右から、白、茶色、緑色になっている。
俺は論外としてあの二人はどれが好きだろうか。
白、茶色、緑。ここは・・・・。
「茶色で」
「わかりました。クリスマスケーキのチョコですね。何時に取りに来られますか?」
「明日」
「お時間は?」
時間まで決めるのかと思ってめんどくさいと思ったが、
とりあえず話が進まなそうだから、仕方なく十時と答えた。
「わかりました。
ただ今クリスマスキャンペーンを行っておりまして、
ケーキをお買い上げ頂いたお客様にクジを引いていただくことになっています。
どうぞお引きください」
突然四角い箱を差し出され、その中に手を入れろと催促される。
中に何が入っているかわからないから、自然と警戒する。
「どうされました?」
これ以上躊躇うのはおかしいと思われそうだから、仕方なく手を突っ込むと、
中には大量の紙が入っていた。その中の一枚を恐る恐る取り出してみる。
すると、店員が手を差し出して来る為、店員にその紙を渡すと、
二つ折りになっている紙を開いて言った。
「三等ですね!
三等の景品は十月にオープンしたばかりのネバーランドの無料入場チケットを
ペアで差し上げます!」
二枚の紙切れを渡されてもあまり嬉しくはないが、取りあえず受け取る。
そして、すぐにでもこのにおいから開放されたくて足早にケーキ屋の外に出た。
すると、もう帰っていたと思った女が待っていた。
別に待っていろと言っていないのに、なぜ待っていたのか・・・・。
「なんで待ってたんだ?」
「あのね、ちょっと話したいことがあってさ・・・・」
「何だよ?」
「えっ・・・・その・・・・あのね、遊園地・・・・」
そう言われて、だったらいらないこの紙をやろうと思った。
どんな場所かは知らないが、こう言う娯楽系統は苦手なんだ。
後で凛にでもやろうと思ったが、まぁいいだろう。
「これ、やる。好きな奴と一緒に行けよ」
すると、女はなぜか大喜びをした。
そんなに、あのネバー、ネバー?が行きたかったらしい。
「じゃあ、俺は帰る」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
追いかけて来るけれど、今度こそ無視。
それよりも、今は魔界からの追っ手が来ないかが心配だ。あいつは危険だからな。
俺の家がバレないかがとても心配だ。
下を向き誰にも顔を見せないように歩いて、無事家に着くことが出来た。