クリスマスへの苦悩
「ふーん。そんなに襲われたいのか?」
「違うって!ただ、なぜか夢でそんなことになっちゃってたんだよ・・・・」
学校からの帰り道。
警察官に服を返して私服になった亜修羅と桜っちにさっきの夢の話をした。
でも、泣いたことは話していない。
一応男の子だしさ、そんなことを話したくはないじゃないか。
まぁ桜っちにはバレてるけどね、亜修羅には絶対に話したくなかったんだ。
絶対からかわれるだろうから。
「ぼっ、僕は、そんなことはしませんよ?」
「ばーか。血迷うことはあるかもしれないけど
そんなことを実際にするなんて、よっぽどのことがないとしない」
「えっ、よっぽどのことがあったらやるの?」
「まぁ、その時による」
「なっ、なんてことを・・・・」
愕然とした気持ちで歩く。
もしかしたら、僕が思っているよりも
亜修羅は僕らのことを大切に思ってないのかもしれない。
そう思いたくないけど、亜修羅の態度はそう思わせるようなものばかりだった。
ため息をつきながら歩いていると、
向こうの方からお母さんと手を繋いだ小さな女の子が
はしゃぎながら話しているのが聞こえた。
「お母さん!もうすぐクリスマスだね!
私、クマさんのぬいぐるみが欲しいの。サンタさんに言っておいてね?」
「わかったわ。でも、明後日だからね。
サンタさん、急過ぎて間に合わないかもよ?」
「えーっ!!」
「嘘よ」
その会話を聞いて、忘れかけていた行事を思い出す。
「あーっっ!!クリスマス!明後日クリスマスだよ!!」
「そうだなー」
「そうですね」
「あのさ、楽しみとか思わないの?」
「俺には関係ないからな」
「僕にも無縁なものなので・・・・」
「夢がないね、二人とも。そうだ、サンタさんに欲しい物言っておかないと」
全くクリスマスに乗り気じゃない二人のことを僕は考えずに、
楽しいクリスマスのことを考える。
クリスマスと言えば、ケーキにパーティーに、プレゼント、そして雪!
いいこと沢山あるのに、二人はそんなクリスマスに興味がないなんて・・・・。
「あっ、そう言えば、クリスマスの日は友達と祝う約束してたんだ・・・・。
だから明日、クリスマスイブにクリスマスパーティーしようよ!」
「いいですね、それ!」
「俺はやらないからな。勝手に開いてくれ」
「なんでさ、やろうよ!」
「無理だ。やるならお前等だけでやれ」
「・・・・もういいよ。帰ろう!桜っち」
話しの通じない亜修羅を置いて桜っちの腕を引っ張って行った。
どうせ一緒に帰ってても別れちゃうんだよね。こんな感じでさ。
でも、無関心な亜修羅が悪いんだから。
クリスマスは、子供にとって一大イベントなんだ。
それをやらないって言う亜修羅が悪いんだもん!
・・・・クリスマスは、そんなに大切な行事なのか?
機嫌を損ねた凛達はいつも先に帰ってしまう。
それじゃあいつも一緒に帰っている意味がないと思う。
だったら、元から一緒に帰らなくてもいいと思うんだが・・・・。
しかし、凛の見た夢を聞いた時には内心ゾッとした。
俺も、そんな夢をよく見るからだ。しかし、それは種族争いが起こる前のこと。
起こった後の今は、そんな夢など見ない。・・・・いや、たまにしか見ない。
おそらく不安な心や恐怖の感情が未だ拭えていないのかもしれない。
夢などは想像以上に心の内を映し出すものだからな。
こう言う場合はどうしたらいいだろうか。
パーティーをやれば少しはそんな感情を薄れさせてやれるんだろうか・・・・。
でも、俺がわざわざそんなことしなくたって
パーティーなんてそこらへんでしているだろうし・・・・。
色々悩んだ結果、やっぱり、クリスマスパーティーをすることにした。
こういう場合、まずは安心させることが大事だ。
でも、俺は人を安心させるなんて出来る人間ではない。
なら、せめて楽しませてやろうと思ったんだ。
小さくなって行く凛達を見てそう決めた時、後ろから急に肩を叩かれた。
人間なら振り返らないとわからないだろうが、
俺なら肩を叩かれただけでも誰だかわかった。
「馴れ馴れしく触るな。と言うか、もう俺に付きまとうな」
乗せられた手を振り払って振り返ると、やっぱり例の女だった。
「えっ、つきまとってないよ、
偶々伊織君が前を通ってたから話しかけちゃったの。いけなかった?」
「別に悪くはないが、そう付きまとわれると気分が滅入るんだ」
「そっか・・・・」
そこで一度言葉を切ると小さく息を吐き再び視線を持ちあげる。
「あっ、あのね、伊織君って今年のクリスマスは誰と過ごすの?」
「お前もクリスマスか・・・・」
「えっ、お前もって・・・・?」
説明しようかしまいか迷ったが、
少し、こいつの意見を聞いてみようと思った。
「俺の知り合いがクリスマスにパーティーをやろうってうるさいんだ。
クリスマスにはパーティーをしなくちゃいけないのか?」
「うーーーん、しなくちゃいけないことはないと思うよ?
でもね、年に一回のクリスマスだし、やっぱり、やった方がいいとは思うかな?」
「不安な気持ちとかを緩和することも可能か?」
「そうだね、全くなくなることはないかもしれないけど、
少なくとも緩和することは出来る・・・・かな?
でも、どうしてそんなこと聞くの・・・・?」
「・・・・気にするな」
それだけ言うと無言で歩き出した。これだけ聞ければ十分だ。
もう用はないから、さっさと目の前からいなくなることにしたんだ。