表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
173/591

一番恐ろしい事は・・・・。

席に座ると、小声で周りの生徒に話しかけられた。

だけど曖昧な答えしか返さなかった。

これ以上騒ぎを大きくしたら、本気で怒られるかもしれないからね。


なんだか亜修羅に怒られてから、妙に気持ちが沈んでしまって落ち着かない。

ノートの隅っこに落書きをしていても左の指が机を叩く。

それに加えて、足まで貧乏揺すりを始める。


多分、怒られたからって言うのもあるだろうけど、

あの言葉が僕の不安を掻き立ててるのかもしれない。

やっぱり、無理にでも聞いておけばよかったかな・・・・。


「聞いているのか?丘本!」


今の授業をやっている先生はチョーク投げの名人と言われる程の腕前で、

そのチョークを止めた者はいないと言われている先生なんだけれど、

僕にとってはゆるいスピード。簡単に止めることが出来る。


だけど、いつもは普通の子と同じく額に激突させてた。

でも、今日の場合意識するのを忘れて考え事をしてたから、

つい普通にチョークを取っちゃったんだ。しかも、下を向いたまま。


「おっ、丘本!?」


先生は、自分のチョークのスピードに誇りを持っていたんだろう。

青ざめた顔で唇をわなわなと震わせている。


僕はと言うと最初のうちは何でそんな顔をしているのかわからなかった。

でも、自分の手を見てすぐにまずい!と確信した。

そして慌てて立ち上がると、必死に弁解を始めることにした。


「あっ、あの・・・・。寝ぼけてて。

たまたま手があったところにすっぽりとはまって。

先生は、それを見越して投げたんですよね?凄いです!」


「そうなんですか?先生?」

「俺は生徒会長が取ったように見えたぞ」

「そうかな?私は、先生が投げたと思ったんだけど・・・・」


教室中がその事でザワザワとざわめき始める。

ここで、なんとか先生のおかげと言うことにすればいいんだ。

僕は、普通の人間の子供だって思わせないと・・・・。


まぁ、あんな化け物を倒しちゃうような人が友達って言う時点で

普通じゃないと思うだろうけど、そこはツッコまないで欲しいな・・・・。


「先生のチョークが僕に取れる訳ないじゃないか!先生の目測だよ!

そうですよね?先生!!」


「あっ、ああ・・・・」


僕の押しに流されたように先生がうなずく。

これは強引とも言えるけど、誰にも害はがないからいいと思う。


それを見て再びクラス中が騒ぎ出すけど、先生が一喝をしてクラス中が静まり返る。


「とっ、とにかく、授業を続けるぞ」


先生が気を取り直して黒板に向かうけれど、中々書こうとしない。

僕も、やっと落ち着きを取り戻してゆっくりと椅子に座って落書きを続行する。


前に、バカなのは授業をちゃんと聞いてないからだって言われたけど、

そんなの関係ないよ。ちゃんと聞いてたってわからないんだもん。

だったら、頭がパンクしそうになりながら覚える事はないんだ。


「おっ、丘本、聞いてるのか!」


再び注意をされたけれど、今度はチョークを投げられなかった。

きっと、しばらくの間、チョークを投げることはないだろう。


「はい、聞いてませんでした、ごめんなさい!」


急いで立ち上がると綺麗にお辞儀をして座る。

先生も呆れたなか、そのままうなずいて授業を続ける。


二回も注意をされたから今度は落書きをしないでちゃんとノートを取るけど、

あんまり頭に入らない。

xとかyとかaとかを並べられてもわからないものはわからない。

何かの公式だろうけど、僕にはただの羅列に見える。


その羅列を見ているうちに、だんだん眠くなって来て・・・・。


ガンッと音が聞こえたけど気が遠くなって、そのまま意識をなくした。

普通なら眠りにつけるような痛さじゃなかっただろうけど、

今の僕は凄く疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。











気が付くと大きな草原の真ん中に立っていた。

風が吹いて腰の辺りまで伸びている草が揺れる。

服は制服のままだけど、妙なことに僕の手には冥道霊閃が握られていた。


確かに冥道霊閃は持ち歩いているけど、戦闘時以外はちゃんと隠して持っている。

それなのに、なんで・・・・?


不意に気配を感じて振り返ると、亜修羅と桜っちが立っていた。

それは不自然じゃない。いつもとなんらかわらないことだ。でも、不自然なことがある。

その手には烈火闘刃と、雷光銃が握られていることだ。


「どうしたの?そんな物騒なもの持って?」


僕の問いに答える代わりに、二人は武器を構え、僕に突進して来た。


最初はふざけてるのかと思った。

でも、その顔が無表情で一行に変わる様子がない。それがとても怖かった。


「やっ、やめてよ!」


僕は、慌てて後ずさろうとするけど、

足がセメントで固められたように動かなくて気持ちだけが焦る。

なんで、種族争いが終わった直後にこんなこと・・・・。


二人はドンドン迫って来て、その勢いが衰えることはない。

自然と涙がこぼれるのがわかった。


二人を襲うよりは襲われた方がマシだと思ったことがある。

でも、実際にそうなってみるととても悲しいんだ。

言い様のない悲しみが心を包んで、真っ暗にするんだ。


でも、僕が泣いたって二人はとまらない。

そのまま、亜修羅は烈火闘刃を振り下ろし、桜っちは雷光銃の弾を放った。

その二つの武器が空を切る音が聞こえて、僕の心と体を引き裂いた。












「・・・・あれ?」


気が付くと先生が上から見下ろしていて、クラス中の視線を集めていた。


「夢の途中で起こし方がよかったかね?」

「えっ・・・・あっ。すみませんでした」


やっと自分が授業中に居眠りをしていたことを思い出して、

急いでさっきの夢のことを忘れさせる。今は、授業に集中しなくちゃ。


「いや、そう言う意味ではなく・・・・」


先生が自分の目を指差す。僕は何気なく目を触ると、水で濡れていた。

どうやら、夢の中だけではなく本当に泣いてしまっていたらしい。


「泣いていたから」

「あっ・・・・」


慌てて制服の袖で涙を拭うと机の上の涙も袖で拭いた。

そして、慌てて笑顔を浮かべる。泣き顔なんて、僕らしくないからね。


「どんな夢を見ていたんだ?」

「いえ。何でもないです。それに、これは涙じゃないですよ、よだれです!」

「いや、しかし・・・・」


「よだれですって!僕、寝てる時によだれが出る癖があるんですよ。

まさか学校でもその癖が出ちゃうなんて・・・・ちょっと恥ずかしいです!」


「・・・・まっ、まぁ深くは問わんが、

もう、よだれを垂らして恥ずかしい思いをしないようにな」


「はいっ!」


元気よく返事をするとノートに目を移した。

ノートは涙で濡れていて文字をかけるものじゃない。

これを見て、よほど泣いてたんだなと把握出来た。


ため息をつきながら僕はそっと桜っちの方を向いた。

気付かれないように、さりげなくしたつもりだった。

でも運が悪かったのか僕が桜っちを見た時に偶々桜っちも僕のことを見てて、

一瞬で目が合ってしまった。


僕は、早く目を逸らそうとしたけど

メデューサに睨まれたように目を逸らせない。

本当は逸らしたいけれど、怖くて動けなくなってしまったんだ。


しばらく長い間僕らはお互いを見ていた。

その間桜っちは全く動かなくてとても怖かった。また襲われるんじゃないかと思った。


でも、桜っちの反応は僕が思っていたもの以上に優しくて、ホッとするものだった。

まるで、僕の夢を理解して大丈夫だよと言うように、笑ってくれたんだ。


それを見て、ようやく目を逸らすことが出来た。

よかった、あれは完全なる夢で、今見ている世界が現実なんだね。


「丘本、ちゃんと授業を聞いていないと言うのは

今回の内容がちゃんとわかっているとみなして、

休み時間にこの授業で習った問題を解いてもらうぞ」


「えっ・・・・、そっ、そんな・・・・!!」


「私の授業がそんなにつまらないと言うことは、

さぞや内容がわかっているだろうに」


先生がそう言って笑う。それがとても怖く感じた。

でも、そんな今が平和だと思えて嬉しくなって来る。


僕は素直に謝って、先生に今日習った場所を教えてもらいながら問題を解いた。

あの夢を見て、少しは平和の大切さを思い出したからね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ