いつでも不安は拭いきれないもの
「鍵をかけられてしまいましたね。これじゃあ出られません」
「最悪の時は、窓ガラスでも割って出るしかないね。
あっ、それか、ドアを蹴り飛ばすとかね」
「最悪な事態が起こらないことを願います・・・・」
なぜこんな会話をしているのか。
それは、この警察官が妖怪であって
僕らを襲おうとしている可能性もゼロじゃないからだ。
「それじゃあそこに座って。2、3個質問するだけだから」
指定された椅子に座ると、警察官は僕らの向かいに座る。
あんな大騒動を起こしたんだから、
妖怪が警察官に成りすますなんて簡単に想像する事が出来る。
まぁ、大暴れしたのが僕だからなんとも言えないけど・・・・。
「まずは一つ目。丘本君は、この事件の何を知っているんだい?
わかることを教えてくれないかな?本当に少しのことでもいいんだ」
そんなことを言われてこと細かく説明する奴なんていないよ。
まだ信用出来るってわからないんだから。
僕は、とことん知らないふりをすることにした。
万が一のことがあっても大丈夫だろうと言う確証はないけど、
二人がかりならなんとかなりそうだしね。
「わかりません」
「本当にわからない?」
「はい。わかりません」
「そうか。残念だな。君なら知っていると思ったんだが・・・・。
じゃあ、桜木君は何か知らないかい?」
「いえ。僕は何も」
「じゃあ、二つ目の質問に行くよ」
警察官は帽子を目深に被っているから顔がよく見えなくて、
余計に怪しく思えて来る。
体型は細めで結構背が高い。
これだけなら特に怪しいとも思わないんだけど、
その警察官がずっと浮かべている笑みが怖くもあって、怪しくもあるんだ。
これは、人間の警察官がただ笑ってるんじゃないって直感で思うんだ。
「体育館で暴れ回った・・・・」
そこで警察官は咳払いをすると、慌てて言い直した。
「いや、体育館にいた人物とは知り合いらしいね。どう言う繋がりなんだい?」
「知り合いです。それだけです」
「他には?」
「何もないですよ」
「そうか。それじゃあ、三つ目」
僕がじっと見つめていると警察官はガタンッと大きな音を立てて立ち上がり、
大声で怒鳴り始めた。
校舎の端っこじゃなきゃ、三つぐらい先の教室まで聞こえそうな声で・・・・。
「いい加減にしろお前ら!!よりによって、なんで今騒ぎを起こしたんだ!
このめんどくさい時に。これで奴に気が付かれたらどうする!!」
「あっ、あの・・・・」
突然怒鳴られ僕らは身が縮こまるのを感じた・・・・と思う。
桜っちはどうだかわからないけど固まってしまったから、きっと驚いたと思う。
表情が引きつってるし。
知らない警察官に怒鳴られた経験がある人は僕らの気持ちがわかると思う。
とてつもない驚きだ。
それに、襲われることは覚悟してたけど、
怒鳴られるとは思ってなかったから正直、こっちの方が辛い。
僕らの動きを見てか、警察官が帽子を取った。
そして、いつもどおりに話しかける。
「魔界にちょっと帰っている間何があったかと思えば、
人種茸に襲われている学校があるって言うから来てみれば、
耳のある人間が倒したって言うじゃないか。
一体どう言うことか、ちゃんと詳しく説明しろ」
「なっ、なんで警察官の服なんか着てるのさ?」
「魔界で追われててな。この服の主は、今頃茂みでぶっ倒れてる」
「何をしたの?」
「後ろから殴った」
どっ、獰猛。と言うか、残虐。
背後から殴りかかるなんて、
撲殺をしようとしたって訴えられても文句は言えない行為だよ。
僕は少し、亜修羅と言う人物を優しいと思い過ぎていたかもしれない。
ほんとはこんなに怖い人なんだと思い知らされた。
でも、怪しい警察官が亜修羅だとわかってほっとしたのは当たり前。
知らない妖怪じゃなくてよかった。
「で、説明しろ。なんで人前で妖怪の姿になった?」
「仕方ないじゃないか。
人種茸は消化するのが早いからさ、その前に倒す方法はこれしかなかったんだ」
僕の答えに重いため息をつく。
その様子から、これはただごとではないなと思った。
せっかく種族争いが終わったと言うのに、また・・・・。
僕も気分が沈んで来てため息が漏れた。そして、意を決して亜修羅に聞いてみた。
「魔界で、何かよからぬことでもあった?」
「まあな」
「・・・・何?」
「いや、なんでもない」
何をそんなに口ごもるのかさっぱりわからないところだけど、それが余計怖かった。
もしかしたら、僕達のことを気遣って言わないのかもしれないし、
本当になんでもなかったらいいけど、もし、何かを隠しているのであれば・・・・。
何が大変なのかとても気になるのだけれど、
これ以上無理に聞こうとしても絶対に答えてくれないとわかってるから、
僕はこの不安を抱えたまま口を閉じた。
「とにかく、もう二度とあんなことはするなよ?」
「わかったよ。でも、亜修羅はこれからどうするの?」
「俺は、これから警察としての調査だと言い、お前が変なことをしないように見張る」
「えっ、なんかひどっ・・・・」
「騒ぎを起こしたお前が悪いんだ。ほら、さっさと授業に戻れ!」
「亜修羅だって授業をサボってるじゃないか!」
「俺の場合は、場合が場合で止むを得ないからだ!」
そう言って、鍵を開けてから僕らを外に押し出して教室まで連れて行く。
なんだか上手く言いくるめられた気がするけど、あえて考えないようにしよう。
「失礼します。話が終わったので連れて来ました。
今後このようなことがありましたら、またお願いします」
警察官は一礼すると僕らに目で話しかけて来た。
「もうやるなよ。今度やった時はわかってるな・・・・」って。
僕らは互いに顔を見合わせた後、ため息をついた。
そして、ゆっくりと自分の席に座った。