怪しい人について行く時は、仲間を道連れにしましょう
「さぁて、行きますか!俺!!」
冥道霊閃を鞘から抜いて校舎の天井から飛び降りる。
久しぶりの感覚だ。こうやって風を切るように落ちるのって人間じゃ出来ないからね。
突如空から降って来た姿に驚いてみんなが一斉に上空を仰ぐ。
それは人種茸も同じで、僕の姿を見つけるとニヤリと笑った。
僕も、同じようにニヤリと笑ってやる。
それが気に食わなかったのか一瞬で顔を歪めたけれど、
僕はそれを無視してどんどんしゃべる。
「化け茸!観念しろ!俺が犬神だ」
剣先を突きつけて挑発する。久しぶりの感覚に心が高ぶってるのがわかる。
「来たな、犬神」
「ああ来たぜ。でも残念だな。
俺の姿をやっと見ることが出来たのに、その途端に消されるなんてな」
「何を言っている、お前がわしに食われるのだぞ」
「・・・・ものわかりの悪い奴だな。お前が俺に消されるんだよ!」
「ふんっ、ありえ・・・・」
最後まで聞かずに飛び上がると、剣先を下にして急降下する。
後は重力に身を任せるだけで人種茸を真っ二つに切り裂いた。
バチャンと言う音とともに紫色の液体がそこらじゅうに飛び散り、
飲み込まれていた人達が紫色のベチャベチャに包まれて出て来た。
幸いなことに四方八方に飛び散ったけど、
そのベチャベチャの弾力で無傷だったらしい。
その途端、
驚きや嬉しさ安堵の気持ちが溢れた人達が一斉に動くものだから、もう大変だ。
僕の場合も同様。
人間みたいな容姿なのに獣耳が生えているし、その上人間離れした身体能力だ。
こりゃあ野次馬やマスコミにとっては大きなネタになることだろう。
当然のことながら僕は大変な事になった。
「ちょっとお話を伺ってよろしいですか!?」
「いや、時間がないんだ」
「そこをなんとか!」
「生徒会長の知り合いですか?」
「今、空から降って来ましたよね?」
真ん中でもみくちゃにされる上に質問攻めで全く逃れられない。
これは生徒にとっても驚きだろうからね、ある生徒を除いては。
なんとかその生徒は僕のところに近づいて来てコソコソと話しかけて来る。
「りっ、凛君。大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫」
「もう直ぐ警察が来ます。見つかったら面倒ですよ?」
「そうか。じゃあ、ここらで退散っと。じゃあ、また!」
警察に見つかったら変な目で見られるに決まってる。
全身、人間とは全く違うからさ。
何とか人を振り切ると登場時同様に飛び上がって校舎の屋上に着地。
丁度その時警察のパトカーが到着したみたいだ。
男子トイレの窓から校舎に入って、個室の中でいつもの姿に戻ると
何食わぬ顔で体育館へ走って行った。
そこには警察と数人の先生、生徒しかいなくなっていて、
今までの騒ぎがまるで嘘みたいに静かになっていた。
「君が噂の生徒会長の丘本君だね?」
「あっ、はい。そうですけど・・・・何か?」
「ちょっと話を聞かせてもらっていいかな?」
警察官はにこやかに話しかけて来るけど、心の中はお見通しだ。
妖怪は、人間よりも勘が鋭いんだから。
「ちょっと待ちたまえ。それは困る。
生徒に取り調べのようなことをさせる訳にはいかない。代わりに、私が受けよう」
校長先生が再び僕の前に立つ。
頼もしいとは思うけど、ちょっと無理してるんじゃないかな?
そう思わせるほど校長先生の顔が引きつっていた。
僕はそれを感じて校長先生の前に回った。
今度は、自分で答えた方がいいと思ったんだ。
「大丈夫です、校長先生。僕が行きます。
それから一つお願いがあるんですが・・・・いいですか?」
「なんだい?」
「桜木君も一緒にいて欲しいんです。ダメですか?」
「別に構わないよ。話を聞かせてくれるだけでありがたいからね」
僕の申し出を素直に受け入れてくれたから
少しはいい人なのかなとは思ったけれども、警戒心を解くことは出来なかった。
「じゃあ、ちょっと桜木を呼んで来る!」
残っていた生徒が廊下を走って行く。
その子はなぜ残っていたのかわからないけど誰も止めたりはしなかったから、
用があった訳ではないらしい。
しばらくすると桜っちが一人で走って来た。
「何でしょうか?」
「丘本君が君と一緒なら質問に答えてくれると言っているんだ。
色々と忙しいと思うけど、少しだけいいかな?」
「はい」
「じゃあ、行こうか」
行き先もわからぬまま警察官の後について行くと、辿りついたのは図書室だった。
部屋の中に入った途端鍵を閉められる。
ただでさえこの辺は人気が少ないって言うのに鍵まで閉めてしまったから、
もう誰も入ることはない。
それ見て、やっぱり桜っちを連れて来てよかったなと心底思った。