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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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理解

あれから、俺は眠ることが出来なかった。明らかに起きているとしか言いようのない凛の動きによって・・・・。


「あれぇ、どうしたの?寝不足?」

「ああ。誰かさんのせいでな」

「誰かさんって、誰?」

「ここの家には、俺を除いてお前しかいないだろう!」

「だって、僕、何にもしてないもん」


さっきからそう言い張る凛に、俺は真夜中の出来事を話して聞かせた。しかし、凛が食いついたのは、全く違う場所だった。


「酷い!何で僕を窓から放り出すのさ。ここ、二階だよ?死んじゃうよ?いいの?僕が死んじゃっても!!」

「だから、夢だって言っているだろう。何回言えばいいんだ!」

「夢だからってさ、引き止めるくらいしてくれたっていいじゃないか・・・・」

「だから、そんな夢のことで泣くな!バカだな」

「バカじゃないもん。酷い・・・・」


夢で、凛を引き止めなかったからと言っただけで、凛は泣き出した。まるで、子供が泣くようにうるさい。何度も夢だって言ってるのに、全然聞く耳を持たない。


「だから、夢だって言ってるだろう。夢だからそうやって追い出したんだろう」

「現実だったら?」

「・・・・」


そう言われて、思わず黙り込んで下を向く。「絶対しない」と言い切れないからだ。


「やっぱり、追い出すんじゃないか!!」

「実際では追い出す訳ないだろう、凛がいなくなったら、それなりに寂しくなるし」

「・・・・本当?」

「ああ、きっとそうだ」

「でも、前にも、家に入れてくれなかったじゃないか」


一度止まった涙も、また流れている。ああ、こいつは本当にめんどくさいな。俺に恥ずかしいことを言わせたいのか?あれ以上の言葉、言えないぞ・・・・。恥ずかしくて。


「じゃあ、何て言えば泣き止むんだよ」

「もっと慰めて」

「は?」

「だから、もう少し優しく慰めてよ。親が子供を慰めるみたいに」

「無理だ。俺自身、親に優しくされたことすらないんだ。親が子供を慰めるって言うのが知らない」

「いいの!」


凛は、まだ泣いている。子供だな、体格のでかい子供。それ以上に言いようのない奴だ。


しばらくは、どんなことをすればいいのか迷って、耳が痛くなるのを我慢していたが、一向に泣き止まない。


「おい、文化祭に間に合わなくなるぞ」

「いいもん、文化祭なんて行かないもん」


凛は、すねて向こうの隅っこに歩いて行き、体育座りで座った。仕方ないから、とりあえず、適当に慰めようと思う。


「いい加減泣き止め」


出来るだけ優しい声で言った。言葉は全く変わっていないから、ダメなんじゃないかと思ったが、なんとか泣き止んだ。


やっとうるさい声から開放されて、自然とため息が漏れた。これでよかったらしい。


「・・・・おい、あんなんでよかったのか?」

「うん。優しさを感じた」

「どうして急に泣き出したりしたんだ?」

「知らないよ。なぜか無償に悲しくなったり時々する。その時は、何だか我慢が出来ないんだ」

「わがままな奴だな」

「わがままじゃないよ!亜修羅は慈悲の心を持ってないの?」

「慈悲の意味すら知らない。それよりも、さっさと文化祭に行くぞ。昨日は散々だったんだ。今日は遊ばせてもらうからな」

「あったりまえじゃん♪」


いつもの通りに戻った凛。こいつも、こいつなりに大変なんだろうかと思った。


「二日目はどんなことをやるんだ?」

「覚えてないよ。とりあえず、回っておけばいいよ」


「こんな気楽な考えの奴が、大変なんだろうか?」と、今さっきまで思っていたことを考えている途中も、凛に腕を引っ張られて外に引きずり出された。


こいつは体は華奢なくせに、物凄い怪力を持っている。きっと、本気で俺の腕を握ったら、俺の骨は折れるだろう。それぐらい脅威的だ。しかも、性格も面倒だから、こいつを敵に回して得なことは一つもないな・・・・。


そう感じていた時、背後で視線を感じた。とっさに振り向くと、老婆がいた。しかし、老婆の目は只者の目ではなく、明らかに妖怪であった。しかし、俺を狙う者の目じゃない。


すると、老婆は手招きをすると、クルリと後ろを向くと、そのまま歩いて行った。何だか、不思議な老婆だが、ついて行かないといけない気がした。


「おい凛、先に行っててくれ」

「・・・・わかった」


凛が学校に向かったのを確かめた後、その老婆の傍まで走って行った。そして、横に並ぶ。


「お主、凛の友達か?」

「友達って程の者じゃない。ただの知り合いだ」

「そうか。お主には言っておかなくちゃならんことがある。時間はあるか?」

「出来るだけ手短にしろ」

「そうか。じゃあ、まずは私のことを話そう。私は、見ての通りの妖怪だ。そして、犬神凛の祖母にあたる者じゃ。これから話すことは、凛のことなんじゃが、いいか?」

「手早くしてくれよ」


俺は、凛の婆さんにそう言うと、その場で立ち止まって、コンクリートに寄りかかって腕を組む。


普段なら、あまり関係ないような話を聞くようなことはないが、何か訳がありそうな話だったからだ。


「凛は幼い頃に両親を亡くした。それからは、私が育てて来たのだが、凛はいつも一人ぼっちだった。理由は、冥道を開くことが出来るから。冥道を開くことが出来る者は、大人になったら同じ種族の仲間に恐れられ、やがて殺される。凛の両親は、共に冥道を開くことが出来た。だから、恐れられ、殺されたのだ。幸い、凛はその事実を知らんのだが、冥道を開くことが出来るせいで、話すことも出来なかった。凛は、今まで人と話したり、一緒にいたりとしたことがほとんどなかったんだ。私も、冥道を開ける凛を恐れておった。それがわかっていたのか、私にも懐かなかった」

「そうか」

「しかし、凛はお主に出会った。お主だけは、自分を嫌わず、ずっと一緒にいてくれる。そう思ったようだな。だから、お主に甘えることがあるだろう。その時は、甘えさせてやってくれないか?子供みたいに、泣き出したりすることがあるかもしれん。その時は、優しく慰めてやってくれ。凛は、今まで誰にも甘えることなく生きて来たんじゃ。しかし、そろそろそれも限界のようでな。それだけだ」


俺は、閉じていた目を開くと、凛の婆さんに言った。


「随分長い話だったな。俺は、『手短に』って言ったぞ?」

「これが手短じゃ。そこら辺を理解してくれ」

「ふん、あいつの事なんか。これっぽっちも理解したくはないな」


そう言って、凛の婆さんの前から走って、凛の学校に行った。


本当に理解したくない訳ではない。しかし、何となく恥ずかしいじゃないか。理解したいと思うなんて、俺らしくない。


文化祭で大盛り上がりの校内に入ると、俺を見つけた凛が走り寄って来る。


「あっ、あしゅ・・・・修!」

「そんなにごちゃごちゃ持って走ってると、ずっこけた時・・・・」


俺が言い終わる前に、凛は石につまずいて転んだ。見てるこっちが痛くなって来るような転び方だった。


「うわぁっ、服がドロドロだ」


凛の服は酷い有様になっていた。アイスと生クリームと、キャラメルソースと、ドロが混ざって、明らかに変な色になっていた。


「そんなに両手に持ったまま走って来るからだろう」

「だってさ・・・・」


そう言いながら服を見下ろす凛。


子供・・・・か。そのまんまだな。


そう一瞬思ったけれど、直ぐに我に返って、凛を立ち上がらせようとする。


「早く立ち上がれ。邪魔だぞ」

「ああ、うん・・・・。はぐしゅん!」

「なんだ、それ?くしゃみか?」

「そうだよ」

「変なくしゃみすんなよ」

「わかった。まともなのに挑戦してみるよ。・・・・はぐしょん!」

「わかった、もういいから。保健室に行くぞ。そのままじゃ風邪を引くかもしれない」


変なくしゃみをする凛を引っ張って行った。保健室には、ちゃんと保健の先生がいて、苦笑しながら代えの服を渡してくれた。


保健の先生が苦笑する理由がわかる。普通、はしゃいだからって、もう直ぐ高校の奴が、服をドロドロにするだろうか?しないだろうな。だからきっと笑ったんだろう。


「亜修羅、さっき、僕に対して初めて笑ったよね?」


「・・・・笑っていない」

「いや、笑ったって。保健室に促している言葉を言った後、少し表情を緩めたじゃん。あれは、確かに笑ったと思うよ。それに、今だって意表を突かれた表情をしたよ?」

「意表を突かれた表情なんかしていない。それに、あれは、凛がバカだと思ったからだ。決して笑ってはいない」

「そうかな?亜修羅、口にはあまり出さないけど、顔は素直だから」

「とっ、とにかく、俺は笑ってない!」

「はいはい。そんな大声を出さなくても結構ですよ~~」

「そんな口を利いてるから、バカになるんだ」


最後の方は何とか勢いで押した。かなり焦った。実を言うと、かすかにだが、笑ったような気がする。でも、凛には秘密だ。


「それって、関係ないと思うけど?」

「俺が言いたいのは、バカな奴は何をしゃべってもバカだってことだ」

「ふん、バカバカって。バカにばっかりしてると、カバになっちゃうよ」

「俺は、元々狐だ」

「僕だって、元は犬だよ」


凛はそう言って胸を張るが、不意に視線を自分の着ている洋服に移した。


「なんかこの服、ダサいよね?」

「そうか?お前にはぴったりだぞ」

「僕がダサいって言うのかい?」

「いや、アホだって言いたいんだ」

「ふん、もういいよ。亜修羅となんか、回ってあげないから。他の子誘うもん」


凛は一人でいじけて歩いて行ってしまった。たまに甘えるかもしれないと凛の婆さんは言っていたが、ほとんどいつも甘えてるようなもんだぞ、凛は。


「じゃあな!」

「待ってよ、追いかけて来てよ!!」


凛が、止めない俺を慌てて追いかけて来る。いつもなら、うざいと思うところだが、凛の婆さんの話を聞いた後だったからか、少し嫌とは感じたが、ちゃんと理解が出来た。


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