「愚弄」の意味がわかれば、頭がいいのです。
「名前は?」
「佐久間」
「下は?」
「和音」
「そっか、和音君か。僕は、この学校の生徒会長、丘本宗介。よろしくね」
そう言って手を差し出すけど、僕のことを無言で睨み続けている。
それを見て握手は無理だなとため息をつきながら手を引っ込めた。
まずは、仲良くなることからかな?
「ところでさ、教頭先生のこと・・・・嫌い?」
「・・・・」
相変わらず挑戦的とも言えるような目で睨みつけて来る。でも、ひるみはしない。
だって、戦ったら僕の方が上だもん。だから大丈夫。
まぁ、暴力を振るわれても自分からは攻撃しないよ?
そんなことしたら和音君に怪我を負わせちゃうからね。
「じゃあ、誰先生が一番嫌い?」
「・・・・」
尚も言わない和音君を今度はじっと見てみた。
けど、そう言うのって苦手だからすぐに降参した。
戦闘になると普通に出来るんだけど、普段は一点に集中するのが苦手なんだよね。
「さっきさ、教頭先生と話してたんだけどね、
残り少なかった髪が全部抜けて相当ショックを受けてたよ。
でも、僕にとっては最高。
教頭先生が朝礼台で話してる時に風が吹くとさ、その髪がなびくんだよ。
それがおかしくてさ、いつも死ぬ気で堪えてる。
だから、髪が抜けて堪えることがなくなったからもう最高。
死滅した毛根はもう二度と再生しないからね」
僕が笑いながらそう話していると、
しびれを切らしたように和音君が口を開いた。
「お前、喧嘩のことを聞きに来たんじゃないのか?
不良はどうのこうのって、愚弄しに来たんじゃないのか?」
和音君の言葉に頭が真っ白になる。ぐっ、ぐろう?グロー?それとも、グロウ?
頭の中で「グロウ」と言う言葉が色んな形で変換されるけれど、
どれも違う気がする。
僕の脳内辞典にその言葉は存在しないようだ。
「あのさ、悪いんだけど先に聞いていい?」
「・・・・」
無言なので勝手に聞いていいと解釈をし、
「グロウ」とか言う言葉の意味を聞いてみる。
「グロウってなに?」
「は?」
睨みつけていた表情が驚きの表情に変わった。
それを見て少し嬉しい気持ちになるけど
自分の頭が悪いんだなと実感して少しへこむ。
だって、学校が・・・・学校が悪いんだもの!
「さっき言ってたじゃん。『グロウしに来たんじゃないのか?』って。
その、『グロウ』ってなんて意味なのかなってこと」
「グロウじゃない。愚弄だ。そんなこともわからないのか?」
「そうだよ。わからないんだ。だから、教えてって言ってるの」
和音君は心底僕を馬鹿にしたような表情をしてため息をついた後、
渋々と言った様子で説明してくれた。
「愚弄は、『バカにしてからかい、価値を認めないような扱いをすること』だ」
「・・・・和音君って、頭いいね」
「当然だ」
滅多なことがない限り愚弄って使わないと思う。
普通の中学生ならもうちょっと子供っぽい言い方すると思うんだよね。
なのにそんな言葉を遣う和音君を僕は心底凄いと思った。
「酷いんだよ、教頭先生ってさ和音君のことを不良って言ったんだよ!」
「お前もそう思ってるんだろう?」
「そんなことないよ。和音君は不良でも良い不良。だから不良じゃないだ!」
「・・・・何言ってるんだ?」
今度は少し困惑の表情を浮かべる和音君。その表情の変化が、なんとも面白い。
「その言葉の通りだよ。簡潔に言うと和音君はいい人で、不良じゃないってこと」
「簡潔に言えるなら何で始めから言わないんだ?」
「上手い言葉が見つからなかったんだ」
その言葉にブツブツ文句をつぶやくけれど、
最初の時みたいな雰囲気はすっかりなくなっていた。
敵対心・・・・殺気がなくなったって感じかな?
「バカだな」
「そうだよ。もう、いろんな人に言われてるから慣れちゃったよ。
見返す気はないのか?って言われるけどないって答えるしね。
それに、そんなことを聞いた先生だって言ってたんだから普通、言えないよね?
言えるとしたら、ボケたか相当の鈍さだね」
すると、今まで固かった和音君の表情がフッと和らいだ。
その表情を見て思ったのは、色んな仕草が亜修羅に似てるってっこと。
口調とか、動作とかがね。
「お前なら、その心配もなさそうだな」
「?」
「いや、何でもない。行けよ、話はついた。
授業を受けないと、それ以上頭が悪くなるぜ」
「あっ、嫌・・・・それはいいよ。これ以上頭が悪くなる事はないからさ。
ちょっと待ってて、今持って来るから!」
「おい!」
慌てて呼び止めようとする和音君の言葉を無視して廊下に出ると生徒会室に向かう。
そこに、みんなが楽しめるものがあるんだ。
こっそりと生徒会室に入り、
鍵のかかっている引き出しからあるものを取り出すと、
誰にもバレないように謹慎ルームへと戻った。