彼が怒る時
「あれは・・・・桜木じゃないか?」
「・・・・そうですね、明日夏さんです!」
俺達は、不思議な空間から出て来る桜木を見つけ、慌てて走り寄った。
「大丈夫か?」
「はい、僕は大丈夫ですけど、凛君が・・・・」
そう言って、桜木が、自分の背中にいる凛の方を見る。凛は、まるで眠っているかのように目を瞑って動かない。
「眠ってるのか?」
「いえ・・・・実は、気を失ってしまったようなんです。ちょっと、中で色々ありまして・・・・なんとかここまで運んで来たんですけど、力がなくて・・・・」
そう言う桜木は、今にも凛を落としそうだった為、俺が凛を背負うことにした。
なぜ凛が気を失ったのかがわからないが、桜木の様子からすると、あまり聞いてはいけないことなのかもしれないなと思い、俺は、黙ったまま歩き出していた。
「そう言えば、あの、恐ろしい女性は・・・・?」
「あいつは、優羅がなんとかしたんだ。あいつは凄い奴・・・・」
そう言いかけた時、突然、入り口の方から血のにおいがすることに気づき、言葉を切る。そして、もう一度大きく息を吸い込み、その血のにおいが誰のものかわかった。
「急ぐぞ!」
「なっ、なんでですか!?」
「・・・・優羅が危ないんだ!」
「そんなっ!」
俺の言葉に、朱音の顔が一気に蒼くなり、立ち止まった。しかし、その手を桜木が引っ張って走る為、自分も、凛を背負ったまま走り出した。
入り口に行くに連れて、血のにおいが強くなるのを感じ、自然と気持ちが焦る。もし、あいつが死んでしまったら・・・・。
俺達は全力で走り、なんとか森の入り口にたどり着いた。しかし、そこにあった光景は、既に血を流して倒れている優羅と、それをかばうように立ちふさがる優河の最期だった。
スローモーションのように、目の前の光景が流れていく。優河は、俺達の目の前で警官に撃たれ、地面に崩れ落ちた。それを見て、朱音が走り出した。桜木は、それを止めようと手を伸ばしたが、朱音の手には届かず、朱音は、そのまま、二人の元に走り寄った。しかし、それと同時に警官が発砲して、朱音の体を拳銃の弾が何個も貫通した。朱音は体中血だらけになったが、尚も二人のもとへと歩いて行こうとする。俺は、それを止めようと走り出した。
その時、後ろにいた凛が意識を取り戻したのか、もぞもぞと動いた。俺は、とっさに、凛の方を見てしまった。その動作がいけなかったのか、警官に隙を突かれて、発砲されてしまった。
体のいたるところに激痛が走り、思わず顔をゆがめるけれど、何とか立ち続けた。今倒れたら、凛を落としてしまう。だから、なんとか歯を食いしばって頑張った。
「修さん!」
「・・・・凛を預かっててくれないか?」
「なっ、何するんですか?・・・・まさか、この大人数相手に戦うつもりですか?!無理ですよ、勝てません!そんな無茶なことはしないで下さい!」
「大丈夫だ。俺は、絶対に死なない。お前は、自分と凛の身のことだけを考えてろ」
「でも・・・・」
俺は、それ以上桜木の言葉を聞かずに、凛を桜木に預けると、烈火闘刃を鞘から抜き、目を瞑って大きく息を吐くと、警官を見据えた。