そこまでしてやった理由とは
「はぁ・・・・ここ、どこかな?」
「わかりません・・・・。でも、どこか変なところに連れてかれてしまったのは確かですね。唯一よかったと言うべきなのは、僕達が一緒に変な場所に連れて来られたと言うことでしょうか?」
「そうだね・・・・」
今、この不思議な空間に一緒にいるのは、僕と、桜っちと幸明だ。
「でもさ、優河君の姿が見当たらないんだけど、どこにいるのかな?」
「さぁ・・・・。凛君が一緒にいたんじゃないんですか?」
「いやね、僕も一緒にいた訳さ。でも、一足先に、この変な空間に連れて来られちゃったから、優河君がどこに行ったのかわからないんだよね」
「そうなんですか・・・・」
僕らがこうしてしゃべっている間も、幸明は黙り続けていた。なんでかわからないけど、不機嫌なのかな?と思って割り切ることにした。もともと、僕らはそんなに仲良しな訳じゃないし、あんまり首を突っ込まない方がいいと思ったんだ。
「でもさ、もし、優河さんだけがあの森に残ってて、警察の人が来たらどうしよう?そうしたら、優河さんはやられちゃうよ?」
「そうですね・・・・。あっ、でも、修さん達が近くに来ているようだったので、多分、大丈夫だと思いますよ?」
「そっ、そうなの!?」
「ええ、ここに連れて来られる直前に、神羅さんから電話があって、森の前にいると言っていました」
「そっか。無事に亜修羅を助けたんだね、やった!」
「ええ、神羅さんは約束を果たしたのに、僕らは・・・・」
そこで桜っちが黙り、うつむいた。それを見て、僕も、自然と気分が落ち込む。そうだ。僕らは、自分達の役目をまだ果たせていない。どうやって神羅と顔を合わせればいいのか・・・・。
「約束って、なんなんですか?」
「えっ!?」
突然幸明に聞かれて、僕は驚いた。だって、心を読まれちゃったんだもん。そりゃ、驚くでしょ?
「今、貴方が言っていた約束ってことですよ」
「えっ・・・・それは、まぁ・・・・この森の霧を払って、幸明に種族争いをさせないようにすることで・・・・」
「種族争いは、もうやりませんよ」
「えっ!??」
僕は、その言葉にとても驚いた。幸明は種族争いをとても楽しんでいて、何がなんでもやり続けると思ってたんだ。この森の霧を消しても、何か方法を考えて、種族争いを起こすつもりだと思っていた。だから、とても驚いた。
「なっ、なんで!?」
「なんで・・・・って、種族争いを続けてもらいたいですか?」
「いっ、いや!そんなことないけどさ、突然やめるって・・・・。何がなんでも種族争いだけはやり続けると思ってたからさ・・・・」
すると、幸明は大きくため息をついた後、ゆっくりと口を開いた。
「私は今まで、貴方達のことを、何も考えないで殺戮を行う非道な奴らだと思って来ました。だけど、こうして貴方達と接して、貴方達も私達と同じように、人を思い、自分を犠牲にすることも出来るんだと知りました。だから、もう、種族争いはやめますよ。約束もありますしね」
「はっ、はい・・・・」
僕は、大きく息を吐くと、桜っちの肩を叩いた。
その時だった。突然、僕等の目の前が光ったかと思うと、天命様と、魔光霊命様が姿を現した。
その突然の出来事に、僕は、思わず桜っちの肩を摑んだまま転んだ為、桜っちまで巻き込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
そう言って駆け寄って来る魔光霊命様に助けられて、僕らは立ち上がった。
「あっ、助けてもらえたんですね!」
「ええ、貴方達のおかげで、私はこうして復活することが出来ました。ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい」
僕らがそうして話していると、天命様がゆっくりと近づいて来て、僕らと幸明の間に割って入る。その表情は、僕らに向けられた時の聖母様のような優しげな表情ではなく、とても険しい顔をしていた。まるでメデューサのように鋭い目で、その目で睨まれたら固まってしまいそうだった。
それを見た魔光霊命様は、幸明から離れるように、僕らの手を引いて二人から離れる。幸明から離れるようにって言ったけど、もしかしたら、本当は、天命様が怖かったのかもしれないね。
「幸明・・・・貴方は、何も罪のない妖怪達を操り、自らの欲を満たす為に殺し合いをさせました。それだけではなく、自らの妹である魔光霊命を瀕死の状態に陥れました。その罪は重く、とても非道なことです。そんな行いをした神の罰を知っていますか?」
「・・・・わかっていますよ。神である権利を剥奪される・・・・ですよね?」
「ええ、よく理解していますね。それなのに、なぜ、そのような罪を犯したのですか?」
天命様の言葉に、幸明が黙り込む。
確かにそうだと思う。多分、神の権利を剥奪されると言うことは、僕らに置き換えてみれば、妖力を抜かれることと同じだと思う。要するに、なんの力もない者になるってことだ。だから、そこまでして種族争いを続けた理由が知りたかったんだ。
「・・・・わかりません」
その言葉を聞いて、僕は、漫画さながらにこけそうになった。だって、「わかりません」って・・・・。それなりの答えを期待してたのにさ、なんだか力が抜けちゃったんだ。
「わからない・・・・?」
幸明の発言に、天命様も眉をひそめた。まさか、そんな言葉が返って来るとは思ってなかったのだろう。
「はい・・・・なぜ、自分がそこまで種族争いに執着していたのか、わからないんです。最初の頃は、本当に種族争いを楽しんでいました。でも、年を重ねるごとに、段々と面白いと言う感情が薄れていきました。
しかし、そんな私の心境とは裏腹に、神達は種族争いの楽しさに目覚めたのか、種族争いを楽しみにするようになったのです。そうなっては、私はどうすることも出来ません。自分から種族争いのことを皆に教えたのに、自分の興味がなくなったからと言って、勝手に種族争いを止められませんから」
その言葉を聞いて、僕は、深いため息をついた。幸明は、もう、種族争いをやめてもいいとは思っていたけれど、大勢の神達が種族争いを楽しむようになって、もう、後にひけなくなってしまったんだ。自分から種族争いを始めたのに、自分の事情で種族争いをやめたら、きっと、神達は怒って反乱が起こるかもしれない。だから、やめられなかったんだ。
「・・・・悲しいことだね」
「そうですね、幸明が悪くないとは言えませんが、幸明も可哀相な立場ですね」
「でもまぁ、色々あるにせよ、種族争いをもうやらないって言ってくれたんだから、よかったよね」
僕は、その時、魔光霊命様の様子がおかしいことに気がついた。なんだかソワソワしていて、引きつった顔をしていた。なんだか、嫌な予感がするなぁ・・・・。
「どっ、どうしたんですか?そんなにソワソワして・・・・」
「えっ、ええ、気にしなくていいわよ?」
「でも・・・・表情も物凄く引きつってますよ?以上な程に・・・・」
僕がそう言うと、魔光霊命様はハッとした顔になって、うつむいたけれど、浮かない顔のまま、僕らの方に向き、小声で話しだした。
「幸明は、神である権利を剥奪されちゃうからよ」
「・・・・それって、そんなに深刻なことなんですか?まっ、まぁ・・・・結構深刻なことだとは思いますけど、そんな顔をするほどのことでもないような気が・・・・」
「神である権利を剥奪される・・・・それは、その人の死を現しているのよ」