居眠り星の王子
「ねぇ、起きて!起きてってば!!」
凛の声がしたかと思ったら、突然バシバシ叩かれた。それに驚いて飛び起きる。声のする方向を見ると、まだ真夜中なのに、凛が隣に座っていた。
「何だよ、まだ真夜中じゃないか」
「だけど、文化祭やってるんだよ!!」
「おい、文化祭が楽しみだからって嘘をつくな。つくならもっとマシな嘘をつけ。こんな真夜中に文化祭がやってる訳ないだろう?」
「だって、行ってみたらやってたんだもん」
そう言う凛の服装を見ると、確かにパジャマではなく、今出かけてきたと言える様な格好である。こいつ、バカか?真夜中に何で学校なんか行くんだよ。
「何で真夜中に学校なんて行ったんだ?」
「だって、楽しみだったから」
「バカか!それとこれとは違うだろう」
「亜修羅にはわかんないんだよ、一々人のこと叩くしさ。これ以上頭がよくなっちゃったらどうするのさ?」
「それを言うなら逆だ。『これ以上頭が悪くなったらどうするんだ?』だ。でも、安心しろ。お前の頭は最低以下の悪さだ。それ以上悪くなることはない」
「ああ!僕、傷ついちゃった。ガラスの心が粉々に崩れちゃった。これ以上ないくらいにパラパラになっちゃった。このまま、パラパラワールドに行っちゃうよ!飛んで行っちゃうよ!!いいの?ここからいなくなっちゃうよ?」
「ああ、勝手にしろ。パラレルワールドに行きたいなら行け。止めないから」
「えっ、止めてくれないの?あんなにずっと一緒にいたのに?」
「気持ち悪い聞き方するな。俺は止めない。そう言ってるんだ。さようなら」
凛が中々出て行かないから、俺が窓を開けて凛を外に放り出した。そして、また布団に入った。
と言うところで目が覚めた。
おかしい、さっきのは夢だったのか?それだったら、余りにもリアルだ。叩かれたところとか・・・・。
チラリと隣を見ると、寝始めた時よりも近距離に凛がいる。しかし、眠っている。寝ている時まで、こいつは俺の邪魔をするのか。
ゴキブリで多騒ぎする凛は、押入れでは眠れず、俺がタンスに入ってたのだが、俺もタンスで眠るのに疲れて、離れて眠ることにしたのだ。と言っても、部屋自体狭い為、あまり離れてはいないが。
夢の中に入っている凛は、ウサギの柄がついたピンクのパジャマを着ている。最初それを出された時には、本気で女かと疑った。しかし、どう見てもこいつは男だ。だとしたら、悪趣味だと言うことだ。
やはり、俺の見解はあっていた。こいつは、女装が趣味のバカだ。
前に、服をくれると言っていたことがある。しかし、全力で断った。服の実物は見ていないが、こいつの悪趣味ぶりを見ると、きっと、ウサギとか、ピンクとかのだろうと思ったからだ。
俺がそんなことを考えながら、凛のいる方向と反対側に寝返りをうった時、背中を蹴られた。
俺は、ムカッとして、布団からガバッと出ると、態々背後まで回って背中を蹴った。
しかし、凛はそれにさえ気がついていないように、動きもしない。本当に、こいつは熟睡してるな。こんなんじゃ、何やっても起きないな。
そう思って、もう一回蹴ってみた。すると、今度は起きているかのように寝返りをうって上手く交わした。こいつ、化け物か?
今度は、殴ったり蹴ったりしないで、凛の顔の前で手を振ってみた。しかし、これには無反応。一定的に聞こえる息の音だけ。
試しに、布団を引っ張ってみると、起きているかのように布団をガッチリ掴んでいる。思い切り引っ張って取ろうとしたが、途中で布団が悲鳴を上げだしたのでやめた。
遊ぶのをそろそろやめて、眠ろうと思って布団に入ると、今度は俺の布団を引っ張り出した。
「おい、離せ!これは俺の布団だ。お前のは、自分で下に蹴ったんだろう。さっきはあんなに強情として離さなかったくせに」
しかし、眠っている奴に何を言っても聞こえるはずがなく、手を離そうとしない。逆に、引っ張る力を強くして来る。
俺も負けじと、体に布団を巻きつけてしっかりと外れないように巻き、握る。
凛本人は、気持ちよさそうに眠っているのに、なぜ、俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。夢の中では、あんな願望を抱いてたのかもしれないな。惨めだな、俺。そして、可哀想だ。
そんな風にふと思った時、力が緩んだ。すると、今までずっと同じ力で引っ張っていた凛の元へ、俺は布団に包まったまま、ゴロゴロ転がって行った。そして、ガンッと激突。
俺は、頭を凛に強打して、しばらくの間星が回っていたが、やっと納まった。
ヨロヨロと立ち上がって凛を見る。何事もなかったように眠っている。こいつ、恐ろしい。あんなに思い切りぶつかって、起きないはずがない。
眠る時にはレム睡眠と、ノンレム睡眠との交互で成り立っているらしい。しかし、こいつには、レム睡眠がなく、ノンレム睡眠で成り立っているのかと思ってしまうほどに眠りが深い。いや、本当にノンレム睡眠しかしていないのかもしれない。
もしかしたら、ノンレム睡眠でもないかもしれない。いくら深い眠りの状態と言っても、もの凄い音がしたぐらい思い切りぶつかったんだ。起きるはずだ。ノンレム睡眠でも。
「居眠り星から来た、王子なんじゃないのか?凛」
「うん」
「・・・・」
今、眠っているはずの凛が答えた。これは、偶然なのだろうか・・・・。しかし、凛が居眠り星の王子。余りにも似合いすぎている。こいつは、居眠り星人かもな・・・・。