何事にも真剣に取り組んでいれば、何かと役に立つ時がある
「わかった。とりあえず、しばらくしたら掛けなおすかもしれない」
〔あっ、了解です〕
俺は、それだけ言うと通話を切り、電話で話していたことを二人に話して聞かせた。
「なるほどな・・・・。じゃあ、問題点は二つってことか。まずは、どうやって警察から俺達の身を護るか。それから、森から出る方法だな」
「どちらも可能そうで不可能のような・・・・そもそも、この森って、有毒性の霧がある危険な森なのでしょう?今は、その霧はないようですが、なぜ、こんなところに・・・・」
「まぁ、種族争いをやめさせる為に必要なことだったんだ。・・・・で、お前、どうにか出来ないか?」
「は?・・・・私ですか??」
「ああ、そんな無理難題を解決出来そうなのは、お前ぐらいしかいないだろ?」
「そんな無茶なことを言わないで下さい・・・・」
そう口では言っているものの、真剣な表情で考え込んでいる。きっと、何か策があるかもしれないと考えてくれているのだろう。
「最悪は、森からでる方法だけ考えてくれればいいからな。警察は、俺達がどうにかする」
「なっ!?どうにかするって・・・・どうやって?」
「とりあえず、戦って止めるしかないよな」
「・・・・だよな」
そう言葉では言うけれど、ため息が出るのは事実だ。ここ最近、全然休んでいないから、少しは休みたいと思うんだ。まぁ、種族争いのことに関わった時から休みはないと思っていたが、流石に、思うのと実践とは疲れ方が違う。一回眠ったとは言え、まだまだ休養が必要なほど体が弱っていた。それは、俺と同じく戦い続けて来た神羅も同じだと思う。
「一応、方法は、なくもないです。ただ・・・・」
「・・・・なんだ?」
「持ち合わせの薬品では、その効果がある薬品を作り出せないことがわかりまして・・・・ははは」
そう言って苦笑いをする優羅に、俺は、今度ばかりは真剣にため息をついた。俺は、よくため息をする性質なのだが、今度ばかりは本気で漏れたため息だ。
「それは、どちらの方だ?」
「・・・・私が考えた方法と言うのは、森の入り口を塞いでしまえばいいと言うことです」
「なっ・・・・それじゃ・・・・」
「話は最後まで聞いて下さい。森の入り口を塞ぐと言っても、もともとこの森は、入ることは可能ですが、出ることは出来ない仕組みになっています。なら、それを逆転してしまえばいいと言うことです」
「なるほどな、入ることは不可能だが、出ることは可能と言う風にしようと言うことか」
「随分と便利なことが出来るんだな、お前って。魔法使いか?」
「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ、薬品のことを知り尽くし、その性能を最大限に活用すれば、そう言うことも不可能ではないんです。それに、私は、結構有能な研究員ですので、一般の研究員にはこんな芸当は出来ませんよ」
本人は普通に言ったつもりなんだろうが、俺は、その態度が物凄くムカついた。しかし、確かに、魔法使い並に便利なのは事実なので、下手に逆なでしないようにした。直ぐに機嫌を損ねそうだからな。
「そう言うことなので、一回、研究所に帰って薬品を持って来なくちゃいけないことになりました」
優羅はそこでうつむいた。俺は、優羅がうつむく理由がわからないが、嫌な予感だけはした。きっと、こいつのことだから、とんでもないことを言うに違いない。そう思ったのだ。
「しかし、ここから研究所までの距離はかなり遠いので、私が全力で行っても一日以上はかかりますから・・・・」
そこで、優羅は言葉を切ると、少しだけ顔を持ち上げて、上目遣いでこちらをジッと見て来た。その目が、何も言わなくても、全てを教えてくれた。
「・・・・ワープを使えばいいんじゃないか?」
「私だって、真っ先にそう考えましたが、一番最初に言いましたよね?私は魔法使いじゃないって。なので、薬品の力を使わないと、ワープも出来ないんですよ。長旅になると思ったのでかなりの量の薬品をストックしておいたのですが、ワープは、色んな種類の薬品を多くの量使うので直ぐになくなってしまいました」
「・・・・」
俺は、無言で優羅の方を見ると、再びため息をついた。確かに、優羅は魔法のようになんでもこなして来たが、あれは全て、調合した薬品の効果。今思えば、あの魔法のような効果に何度も助けられた。と言うことは、かなりの量の薬品を使ったと言う訳だ。これは仕方がないことか・・・・。
「そうですよ、貴方が色々ヘマをしそうだったので、そのカモフラージュをね?大変でしたよ」
「・・・・ああ、俺が悪かったよ。俺が悪かったから、どうか静かにしてくれ」
ため息まじりに俺が言うと、優羅もため息をついて、あの便利な機械をいじくりだした。俺は、大きく息を吐いた後、思考を巡らせる。
しょうがない、まずは、誰が薬品を取りに行くかと言うことを決めよう。ワープが仕えない優羅は、今は一番足が遅いことになる。この中で一番足が速いのは神羅だが、ここから距離が遠いと言うことは、それなりに体力も消費するはずだ。今の神羅に、全速力で研究所まで走っていける体力などあるのだろうか?
俺が、それとなしに神羅の方を向くと、神羅は何が言いたいのかわかったのか、「よしっ!」と一言言った。
「俺に任せろ!全速力で研究所まで行って、帰って来るぜ!」
「・・・・しかし、体力は大丈夫なのか?俺だって相当疲れてる。お前は、俺以上に疲れてるんじゃないか?」
「まぁ・・・・確かに、疲れてることは疲れてるぜ?でもな、やらなきゃいけない時には、自然と力が湧いて来るもんよ。まぁ、極限状態に限るけどな」
後々の言葉が、キリッとしたいい雰囲気を粉砕したが、それもまた神羅らしいだろうと思い、ここは素直に神羅に任せることにした。
「神羅さんが行ってくれるんですね、事情は私が話しておきましたので、神羅さんは、研究所に行けば薬品を渡されるので、それを受け取って来てくれれば大丈夫です」
「そうか・・・・じゃあ、早速行って来るかな!」
「悪いな、なんか、助けてもらって早々、大変なことをさせて・・・・」
「大丈夫ですって、族長。そんな顔しないで下さいよ。俺はいつだって全力で取り組んでるんで、体力だけは普通の奴の二倍はあるんですから、まだまだ大丈夫ですよ。じゃ!」
神羅は勢いよく言うと、目にも止まらない様な速さで走って行った。