ある意味、長い戦いでした。
警備員を吹き飛ばして大きく息を吐くと、神羅達の方を向いた。すると、優羅はフードを取っていた。きっと、正体をばらしているのだろう。
「お前・・・・誰だ??」
「私は、優羅と申します。今まで騙していてすみませんでした」
驚愕している神羅を無視して、優羅は優雅にお辞儀をする。それにしても、毎回毎回、あいつのお辞儀の仕方はムカつく。どこかの王国の王子のような仕草をするのだ。それが、どうも鼻につく。
俺が、そんなことを思いながら、ボーッと二人のことを見ていると、突然、優羅が小声で話しかけて来た。
「何をボーッとしてるんですか。あなただって、自分の正体を明かすんですよ?そんなところでボーッとしていないで、近寄って来て下さい」
俺は、その発言にイラッと来たが、渋々二人に近付く。しかし、どうやって切り出すかが問題だ。あいつは、俺のことをわかっているようでわかっていない。だから、普通に言葉をしゃべっただけでは俺だと気づかないだろう。しかし、あえて、わからないように言ってやろうと思う。理由なんて、別にないが、試しと言うのが妥当だと思う。護衛なら、俺の声ぐらい判別しろと言うことだ。
「はぁ?何が起こったんだ?よくわからないが・・・・」
「相変わらず鈍感な奴だな。前にも言ったろ?周りをよく確認して、相手をよく見極めろってな」
「!?」
意外にも、神羅は俺の声を聞いただけで反応した。俺の髪の色を見分けられなかった為、てっきり、声だけを聞いても俺だとはわからないと思っていたが、わかったようだ。
俺がフードを取ると、とても驚いたような顔をして、自分が見ている光景が信じられないのか、目を擦っているのが見える。確かに、そうする気持ちもわかる。一回死んだと思った奴が、目の前に現れたんだからな。自分の目が信じられなくもなる。
「俺が勘違いしてたのはバレてたんだな・・・・。さすが族長だぜ」
「当たり前だろ?俺は、護衛のお前なんかよりも、よっぽどお前を観察している」
俺がそう言うと、気の抜けたように神羅が笑った。それを見て、俺も自然と笑みが浮かぶ。
「ああ、そうだな・・・・。でも、まさか、優羅の方が族長だったとはな。てっきり、修羅の方が族長だと思ってたぜ」
「お前は、俺達の罠にまんまとハマったって訳だ」
「チッ、なんか、その言い方がムカつくぜ」
ムカつくと言っているが、表情はとてもムカついている人の表情ではないので、嘘だとわかる。
「話は後にして下さい、まだ、敵は残っているようですよ」
優羅に言われて後ろを振り向くと、さっき吹っ飛ばしたはずの警備員が突進して来ていた。中々しぶとい奴だ。
「おっしゃ、行くぜ!」
「そんなに気合入れなくてもいいんじゃないか?」
「いやいや、さっさとやっちまいたいからよ!」
とても疲れているはずなのに、それを思わせない神羅の元気ぶりには、いつも感嘆させられる。その元気のおかげで、俺は、ほとんど戦わずして警備員を倒す事が出来た。ほぼ、神羅が倒した訳だ。
「さて、族長、ちゃんと説明してくれよ?俺、意味わからなくて頭が死にそうだ」
「死ぬなんて言うなよ、こっちは死にそうなところを脱して来たんだ」
「まぁ、確かにそうだな!」
「貴方たち、本当に仲がいいんですね」
優羅に突然言われて、思わず耳を疑う。仲がいいなんてことはないはずだ。
「まぁ、当たり前・・・・」
「そんなことはない。俺は、まだお前を認めてないからな」
神羅が何を血迷ったか、変なことを言い始めた為、俺は、それを遮るように言葉を発した。しかし、少し言い過ぎたかもなとも思ったが、とりあえず、そのまま神羅の様子を伺う。
「・・・・」
神羅は、無言で俺の方をじっと見て来る。その視線を感じて、俺は後ろを向いた。そんな目で見られると、何だか、物凄い罪悪感を感じるんだ。
「まっ、まぁ・・・・今だけは認めてやるっ!」
「・・・・だけは??」
最後の最後には、そう吐き捨てるように言ったのだが、神羅がからかうように聞き返してくる為、もう、これ以上は何を言われても答えなかった。
「で、どう言うことか説明してくれないか??」
「俺は説明したくないっ!」
「族長、何怒ってんだよ?優羅の時と、声もしゃべり方も全然違うじゃんか!」
「・・・・とりあえず、優羅、お前が説明しろ。俺は寝る!」
それだけ言うと、俺はその場に寝転がり、目を瞑った。あれは嘘じゃない。本当に眠いのだ。まぁ、説明が面倒なのもあるが、眠かったからだ。しかし、神羅と優羅は俺の言葉を信じていないようだ。俺がもう眠ったと思ったのか、ボソボソと小声で話している。
「護衛なんだから、ちゃんと護れよ、俺のこと」
「あっ、ああ!」
俺が起きていることにうろたえているのは、声を聞くだけでわかった。優羅も慌てたらしく、俺は、神羅に言ったはずなのだが、優羅のうなずきも聞こえた。
それからしばらくの間は起きていたが、さっきのように陰口を言う様子もなかったので、俺は、本当に眠ることにした。