結果は微妙・・・・
そして、とうとう一日目の売り上げを発表する時が来た。
俺は体を張って頑張った。なのに、一位じゃなかったら、俺が何の為に体を張ったのかわからなくなる。だから、懸命に祈った。
いつもなら神なんかを信じてはいないのだが、今回ばかりは神に頼るしかない。俺は全力を尽くしたんだ。
「本当に勝負とかが好きなんだね?今までと、全然人格違うじゃん」
「お前だって、家とは大違いじゃないか」
「まあね。何だか、家だと気が抜けちゃって・・・・。ドジとかばっかりするんだよね」
「家でも今ぐらいビシッとしてろよ」
「家にいる時ぐらい、気を抜いてもいいでしょ?それすらダメって言うの?」
「ああ、わかったよ。うるさい。発表する時ぐらい静かにしろ」
「チェッ、ひどいなあ。最後は僕が身代わりになったじゃん。耳がジンジンするよ」
ブチブチ文句を言いながらも、やはり結果が気になるようで、校長の話に耳を傾けている。そう言えば、この校長が、俺に女装をさせた奴だ。違うなんて言わせないぞ。遠まわしにさせたんだからな!
朝礼台に立っている校長を睨みつけながら耳を済ませる。この時ばかりは、騒がしかった校庭も静まり返っている。
「えー、三位は二年B。二位は三年A。一位は・・・・」
凛のクラスは三年B組。これで、俺達の名前が呼ばれたら、あいつを負かしたことになる。
「一年B。以上が上位三クラスです。では、クラスの代表の人は、朝礼台に上ってきて下さい」
「・・・・選ばれなかったね。亜修羅を無理やり引っ張り出して来たのに」
「そうだな」
「あれ?怒らないの?」
「怒る気すら失せた」
俺は、墓石で後頭部を殴られたようなショックを受けた。もう、立ち直れるかどうか・・・・。あんな服まで来て、妖狐の姿にもなったと言うのに。ショックが大き過ぎて、隠しきれるものじゃない。
「それから、今回は特別賞があります。三年B組です。三年B組の発想の展開が面白かったので、特別賞とします」
「だってさ」
「特別賞?」
「そうだよ、今まで特別賞なんてなかったもん。凄いんだよ、きっと」
凛はポンポンと肩を叩くと朝礼台に上った。俺は、少しだけ回復したけれど、やはり一位になれなかったことは残念だ。体を張って、痛い耳を無理やり触られて・・・・。
「そんなに一位にこだわらなくてもいいじゃん!明日は僕らが遊べる番なんだから、楽しもうよ。楽しんでいる時ぐらい、妖怪も邪魔して来ないって」
「・・・・ああ、明日もあるんだよな」
「そうそう」
明日もあることを思い出して、少しだけ元気になった。単純だな、俺って。そう自分でも思う程だ。
発表が終わった後に教室に戻ると、黒板に1ーAの教室へ行けと書いてあった。1ーAの教室と言えば、俺たちがやっていた場所だ。
「あ、これって・・・・」
「先生、約束を守るのか?」
「やったー!!」
「何のことだ?話が読めない」
なぜか、黒板の字を見た途端、クラスの奴等が飛び跳ねて喜んでいる為、一緒に喜んでいる凛に聞いてみた。
「僕らの担任の先生が約束してくれたんだ。一位を取れなくても、朝礼台に乗った時は、焼肉おごってくれるって」
「俺には関係ないことだな。先に帰ってる」
「関係あるよ!一緒にやってくれたんだから。先生にはさ、僕が上手く言っとくから」
思い思いに喜びながら、1-Aの教室に向かう一同。その後ろを俺らが歩く。
「なぁ、それって、肉を焼くのか?」
「そうだよ」
「気持ち悪いな。肉は生でしか食ったことないんだぞ」
「そりゃ、妖狐の味覚では生の方が美味しいかもしれないけど、焼いても美味しいよ。まぁ、人間は生を食べるとお腹を壊しちゃうからね」
「弱い生き物だな、人間って言うのは」
「言っておくけど、今、その弱い人間の姿でいるんだからね」
「ああ」
肉を焼くなんて想像も付かないが、少し興味があった。それに、凛に強引に引っ張られているしな。
「あっ、先生!!」
凛が大声を発して走って行く。思わず耳を塞ぎ、凛を睨む。だが、凛は後ろを向いているから、全く気がつかない様子。
そんな気持ちもわからない凛は、担任らしい男と話している。たまにこちらを振り向くけれど、すぐに担任の男に視線を戻す。どんなことを話しているのか聞いてみたいところだが、生憎、周りがうるさ過ぎて聞こえなかった。
しばらく見ていると、凛が大々的に丸を作った。担任の男がこちらを向く。俺は、とっさにお辞儀をした。本当にとっさだった。
「先生に話したら、いいって言ってくれたんだ。先生、太っ腹だよね」
「あいつは太ってないし、腹も出てないぞ」
俺が真顔で答えると、凛に思い切り笑われた。訳もわからず笑われるのは、実に不快なことで、理由を迫った。
「太っ腹って言うのは、気前がいいってことだよ。なのに・・・・はっはっはっはっ!涙出ちゃう!!」
凛が余りにも笑うから、ついに手が出た。
「いったいなぁ」
「そこまで笑う必要あるか!お前だって、キャリアをキャビアと間違えたことがあるだろう。その時だって、俺は笑わなかったじゃないか」
「そうだね。ごめん」
やっと笑いが納まったようで、素直に謝って来た。本当は、許すつもりは全くない。人を思い切りバカにしたからだ。でも、思い切り優しい言葉で許してやることにした。
「今度バカにしたら殺すからな」
「わかったよ♪」
「殺す」
「やっやめっ・・・・」
凛のことを数回殴った後、押さえつけていた手を離した。
所詮、殺すと言っても殺すことなど出来ないのだ。他の奴ならば躊躇うが、殺すことは出来る。しかし、凛だけは勢いで殺すと言っても無理なのだ。一応、仲間と思っているからな・・・・。
子供みたいにブチブチ言っている凛を横目に、俺はため息をついた。